栗山監督インタビュー(後編)

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 来シーズン、巻き返しを図りたい北海道日本ハムファイターズにとって、間違いなくキーマンに挙げられるのが清宮幸太郎だ。プロ2年目の今シーズン、81試合に出場し打率.204、7本塁打、33打点と、清宮のポテンシャルからすれば物足りない結果に終わった。この清宮の成績を指揮官である栗山英樹監督はどう受け止めたのだろうか。


右手首の骨折などもあり、今シーズン思うような結果を残せなかった清宮幸太郎

―― 2020年のファイターズ、今のところ元巨人のクリスチャン・ビヤヌエバを獲得しましたが、それ以外は去年のような派手な補強もなく、現有戦力の底上げと、ドラフトで獲得したルーキーに期待するのみのオフとなっています。栗山監督としては、チームのどのあたりに爆発を期待しているんでしょう。

「もちろん来シーズンは勝つことがもっとも大事になってくるんだけど、そこは”劇的に”勝ちたいというのはありますよね。野球ってもっとおもしろいはずで、『やっぱりファイターズの野球はおもしろい』という形で優勝させてあげたいという思いが強いんです。そのためには『この選手を見たい』という選手をつくらなきゃいけない。

たとえば(清宮)幸太郎はそのひとりだけど、今年の幸太郎はまったく機能しなかったわけで、そこは槍玉の筆頭に挙げられても仕方がない。今の野球、点を取るためにはチームとしてホームランは必要なわけで、幸太郎はもちろん、王柏融(ワン・ボーロン)も、(中田)翔も、もっともっと打てるはずの選手たちがいて、彼らが札幌ドームでポンポン花火を打ち上げてくれたら、そういう野球は、おもしろいと思いますよ」

―― 清宮選手、もちろんケガのこともあったと思いますが、6月下旬から7月にかけて32打席連続ノーヒットを記録するなど、かなり苦しみました。爆発するはずだった2年目、停滞してしまった理由はどこにあるとお考えですか。

「大元にはケガがあったと思います。ヒジもあそこまで悪いとは思わなかったし、シーズン中もきっと痛くて力が入らないということはあったんでしょう。まだ直さなきゃいけない技術的な要素はいっぱいあるにしても、今のままでもあんなに打てないということはないはずで、そこは身体が万全じゃなかったということを考えなきゃいけない。

 だから幸太郎に関しては、まず1年間、フルに野球をやること。(オフにヒジの手術を受けて)この秋にまったく野球をやれていないことも大きな問題だし、とにかくフルに野球をやらなきゃ、何も起こらない。身体を思いっ切り使えるようにしないと始まらないんです」

―― 技術的な要素というところで言うと、どのあたりが課題になってくるんですか。

「幸太郎というのは、もともと配球を読んでこのボールを待つ、という打ち方をしないバッターだから、真っすぐも変化球もすべて打とうとしちゃうんです。そうすると初球から思い切り振るということができなくなる。今の力で幸太郎がホームランを打とうと思ったら、追い込まれるまでは配球を読んで、思いっ切り振ったほうがいいでしょ」

―― そうしないのは、清宮選手がすべての球種に対応して、すべてのボールをホームランにする高校時代のようなバッティングをイメージしているからなんですかね。

「もともとそういうバッターですからね。シーズン中、1球目からどうやって待って、どういうふうに打っているのかを書いてもらったりもしたんですけど、幸太郎は配球を読んで打つという感覚は持っていないのかもしれません。でも、相手からすれば怖いのは幸太郎のホームランなわけだし、こっちもそこを期待して送り出しているわけですから、1球目から思いっ切り振れなければ意味がない。そこは幸太郎自身にも納得して取り組んでほしいところなんですけど……幸太郎には幸太郎なりのこだわりがありますから、そこのギャップを埋める作業は難しいですね」

―― 来シーズンに向けて、意識を変えてもらわなくちゃ、ということですか。

「そういうところも、(小笠原道大)ヘッドに来てもらった理由のひとつでもあるんです。本当の技術を持った、超一流の、てっぺんに上った人。そういう確かな技術を持った人にしかわからない心、考え方を幸太郎に授ける。ガッツ(小笠原)の、自らつくり上げた技術と最後までやりきった信念を参考にしてほしいんです。やり方は教えられるけど、やろうという心は教えられない。無理矢理やらせても身につきませんからね」

―― 同い年の村上宗隆選手が今シーズン、すばらしい結果を出したことも清宮選手には刺激になったんでしょうか。

「もちろん、悔しくてしょうがなかったと思うし、超刺激になると思ったけど、元気な身体を使って思いっ切りプレーできなければ、それもマイナスになるかもしれません。朝までバットを振りたいと思っても、それができないんですから……」

―― そういう清宮選手に、今は何を求めているんですか。

「人によってやるべきことは違うんです。ある選手には愚直にバットを振り続けることが大事だろうし、別の選手にとっては柔軟性を持っていろんな人にいろんなことを聞きまくって、いろんなところへ行って、いろんなトレーニングをやってみることも大切なのかもしれない。それは何でもいいんです。何でもいいんだけど、大事なのはスイッチが入っているかということ。これだけ打てなかったというのは野球の神様のメッセージでしょ。

 だって、普通にやったらもう少し打てちゃうと思いますよ(苦笑)。でも、普通に打てちゃったら幸太郎もヤバいと思わないし、こんなに打てないからこそ幸太郎も『お前、何やってんの』って言われる。そりゃ、思うでしょ。『野球の神様、優しいなって(笑)』。だって、もうちょっと打てていたら(自分の足りないところに)気づけないもんね。こっちだって『こんな数字の清宮をなぜ使うんだ』ってさんざん批判されたし、でもこのチームが勝つためにはホームランが必要、そのためには幸太郎のホームランが必要、だから起用する。別に、幸太郎を特別扱いしているわけじゃなくて、アイツのポテンシャルに期待しているからこそ、スタメンに名前を書くわけ」

―― 8月13日、右手のケガで登録を抹消された中田翔選手の代わりに、監督はそこまで打率.182、ホームラン3本の清宮選手を4番に指名しました。その意図はどこにあったのでしょう。

「何か感じるだろうってことです。ダメダメな感じも含めて、経験しろということ。4番になればもっと攻め方は厳しくなるし、打てなかったらどれだけチームに迷惑がかかるのかということも感じられる。こっちはスイッチを入れにいっているだけなんです。スイッチさえ入れば、あとはやれるはずですからね」

―― 中田選手が戻ってくるまでの10試合、清宮選手は打率.270、ホームラン2本でした。4番に入った清宮選手のスイッチは入った感じはありましたか。

「プレッシャーは感じていただろうし、打てなくて申し訳ないという感じも出ていました。ただ、それがすぐにやらなきゃという感じになりきらなかったのは、やっぱり身体に不安があったからなんでしょうね。とにかく今は、幸太郎自身が自分のスイッチを入れてくれないと話にならない。超一流になる選手はこういう逆境を生かせるはずだし、この状況で幸太郎が何をするのかというところを待つしかないんです。どこまで本気になれるのか。『オレ、野球ができなくなっちゃうんだ』とか『このままじゃ打てないんだ』と思わないと本気にはなれない。どこかで『オレは大丈夫だ』と思っていたら、スイッチは入り切らない。その最後のスイッチは自分でしか入れられないんで、そういう危機感を本人が持てるかどうかというところだと思います」

―― さすがに、今年は危機感を抱いたんじゃないですか。

「いつも悠然としていて、人の話を聞いているんだか聞いていないんだかわからないところがあって、そこがいいところでも悪いところでもあるんだけど、シーズンが終わって僕が(監督を)辞めるという話になった時、幸太郎が初めて反応したんですよ。僕の顔を見て、『ごめんなさい』って。別に幸太郎が謝る話じゃないのに、彼なりに責任を感じてくれたのかもしれませんね。ああいう反応をした幸太郎を見たのは初めてだったので、ちょっとうれしかったかな。結局、僕は監督を続けることになってしまいましたが(笑)」

おわり