令和二2020年1月からの放送が予定されている大河ドラマ「麒麟がくる」。今回の舞台は戦国時代、主人公は「本能寺の変」で主君・織田信長(おだ のぶなが)を討った明智光秀(あけち みつひで)となっています。

従来の紋切り型な「謀叛人≒悪役」像を魅力的に描き直す人間模様の深みや、斬新で痛快な歴史表現に期待していますが、ところで「麒麟(きりん)」って何でしょうか。動物園で見かけるあの首が長いキリンとは違うのでしょうか。

そんな疑問を解消するため、今回はこの麒麟について紹介したいと思います。

古代中国の瑞獣と明智光秀の関係

麒麟とは古代中国において世の中がよくなる瑞兆(ずいちょう。めでたいきざし)として出現する瑞獣(ずいじゅう)で、『礼記(らいき)』によれば君主の仁政(じんせい。愛に満ちたよい政治)を称賛する喩えとされました。

狩野常信「麒麟図」江戸時代

『説文解字(せつもんかいじ)』によれば麒麟の麒がオス、麟はメスを指すそうで、また体毛の色によって呼び方も聳孤(しょうこ。青)、炎駒(えんく。赤)、索冥(さくめい。白または銀)、甪端(ろくたん。黒)と変わり、黄色もしくは金色のもののみを麒麟と呼ぶそうです。

その姿かたちは龍に似た頭に1〜3本の角を生やし、五彩のたてがみに鱗に覆われた身体、牛の尻尾と馬の蹄(ひづめ)を持っていると言われます。

どこかで見たことがあるな……と思ったら、キリンビールのラベルに記されたあのカッコいいけど不思議な生き物です。

顔はちょっと怖い?けど気性はとても優しく、誰も傷つけないよう角を自分の肉で包み込み、草花や虫たちを踏んでしまわないよう、地面から少し浮遊しているとも言われます。

そんな優しい性格から「子宝の神様」としても信仰されていますが、厳密には「(家の跡取りとなる)すぐれた男児」を授けてくれるそうで、仁政を行う才能と仁徳を兼ね備えた男児が強く求められた時代背景を感じます。

現代でも特に利発な男児を「麒麟児(きりんじ)」と呼ぶことがありますが、これは麒麟が授けてくれた男児を意味し、どんなに優秀であっても女児には用いません。

戦国乱世を駆け抜いた「麒麟児」明智光秀。

大河ドラマ「麒麟がくる」のタイトルは、恐らく主人公である明智光秀が才能と徳を備えた麒麟児として、戦国乱世を駆け抜ける生き様を描いたことに由来するのでしょう。

現代に生き続ける麒麟たち

さて、麒麟については分かりましたが、私たちが今日イメージしている首の長いキリンは、麒麟と何か関係があるのでしょうか。

時は15世紀、明(みん。中国大陸の古代王朝)の鄭和(てい わ)という武将が東南アジアやアラブ、アフリカを航海した折、ライオンや駝鳥(だちょう)、犀(サイ)などアフリカの珍獣たちを本国へ連れ帰った中に、首の長い動物がいました。

明の皇帝・永楽帝(えいらくてい)はこの首の長い動物をたいそう気に入り、伝説上の麒麟と姿が似ていたことから「麒麟」と呼ぶようになりました。

え、どこが似ているの……?と思われる方も多いでしょうが、よく見ると肉に覆われた柔らかそうな角、鱗にも見える黄色っぽい毛並みの模様、牛のような尻尾に馬のような蹄、長い首と顔も、言われてみれば竜っぽく感じられます(よね?)。

そんな麒麟が日本にやってきたのは明治四十1907年、上野動物園で「キリン」と名付けられて今日に至りますが、本場?の中国では現在「長頸鹿(首の長い鹿)」となっており、麒麟は伝説の世界へ帰ってしまった一方、台湾では「麒麟鹿」と呼ばれ、今も瑞獣として生き続けているそうです。

話はそれましたが、大河ドラマの「麒麟がくる」、麒麟とは明智光秀の麒麟児ぶりを意味するのか、あるいは彼の目指した理想の政治を麒麟が祝福するのか……放送開始が楽しみですね。

参考文献:太佐順『鄭和 中国の大航海時代を築いた伝説の英雄』PHP文庫、2007年11月