オカドのティム・スタイナーCEO(右)と握手をするイオンの岡田元也社長(撮影:今井康一)

GMS(総合スーパー)最大手のイオンは11月29日、イギリスのネットスーパー専業のオカドとの業務提携を発表した。

オカドはAIとロボットを駆使した最先端の中央集約型倉庫と精緻な宅配システムを武器に、イギリスのモリソンズやアメリカのクローガーなど世界中の小売業者と提携している。イオンは今回、オカドと日本における独占的パートナーシップ契約を結び、オカドが持つデジタル技術を活用してネットスーパー事業の拡大を目指す。

ネットスーパー事業が成長戦略の要に

「ネットスーパーは世界的にもさらに伸びていく事業だ。特に、日本では一段と成長が期待できる。オカドのインフラを活用して、イオンの変化につなげていきたい」。同日に都内で開催した記者会見で、イオンの岡田元也社長はこう語った。

来日にしたオカドのティム・スタイナーCEO(最高経営責任者)も、「イオンはベストパートナーだ。日本の消費者に、これまでに見たことのないようなサービスを提供していきたい」と話した。

イオンは今回の提携を軸に、現在数百億円程度のネットスーパーの売上高を2030年に6000億円へ引き上げる計画だ。今回の提携は数字もさることながら、イオンの経営戦略において大きな意味を持つ。

イオンは2018年度から2020年度までの中期経営計画で「デジタルシフト」を掲げている。3年間で5000億円を投資し、EC(ネット通販)や物流機能を強化している。オカドとの提携は、このデジタルシフトに対する「われわれの答え」(岡田社長)を意味するという。つまり、イオンは提携をテコに再構築を打ち出すネットスーパー事業こそが、成長戦略の要だと位置付けているのだ。

日本の社会環境はいま大きく変化している。人口減や高齢化だけでなく、共働き世代や単身世帯が増え、食品スーパー全般が顧客の仕事と家事の両立という悩みに対峙していなかければならない。この悩みに対応できなければ、食品スーパー業界で生き残れない。

イオンはグループ全体で2万1000店舗、1億人の顧客基盤を持つが、今後はオカドのノウハウを取り入れてデジタルを強化し、リアル店舗とネットを融合したサービスを打ち出していく。

商品は「倉庫出荷体制」に切り替え

オカドは2000年に創業し、2018年度の売上高は2200億円を超える。1週間に平均約30万件の注文を受け付け、自動箱詰めロボットを配置した中央集約型倉庫から、注文を受け付けて15分で発送する。AIを駆使した最適な宅配ルートを導き出し、短時間配送も可能にしている。

イオンの吉田昭夫副社長はこの配送システムを体感するために、今年夏にロンドンを訪問し、半日間、宅配車に乗ってオカドの運営状況を確かめたという。

イオンのネットスーパー事業は、店舗で商品を詰め込んで配送する「店舗ピッキング型」を採用していたが、今回の提携により倉庫から出荷する体制に切り替える。2023年までに日本で中央集約型倉庫を設立。この大型倉庫を徐々に増やしていき、その周辺に複数のハブ拠点を設けて、各エリアへの配送網を広げていく考えだ。

「物流はラストワンマイル(最終拠点から顧客への配送)のところまで自社で担う計画」と吉田副社長が言うように、自社物流で配送を全面的に担うことも視野に入れる。

ネットスーパーのアプリケーションも操作しやすい、直感的なものに刷新。顧客の嗜好に合わせて商品提案などができるようにする。

イオンはこれまで、子会社イオンリテールが運営する400店舗のうち200店でネットスーパーを手がけてきた。この従来の店舗ピッキング型のシステムも継続させていく方針だ。ネットで注文し、店舗で商品を受け取るC&C(クリックアンドコレクト)サービスの展開も見据える。

だが、食品販売に占めるEC比率がまだ4%程度に過ぎない日本において、イオンがネットスーパーを急拡大するのは簡単ではない。

ひとつは鮮度の問題だ。全国各地に有力なスーパーがひしめく日本では、新鮮な野菜や魚、肉などを買い求めやすい環境にある。現在、ネットスーパーで利用されているものは、運ぶのに苦労する大容量のペットボトルやお米など、一定の商品に限定されている。ネットスーパーを本格浸透させるためには、生鮮食材の注文を増やす必要がある。

ネットスーパーはどこも赤字だが・・・

この点について、イオンの吉田副社長はオカドに期待を寄せる。「オカドのシステムは、商品がダイレクトにウエアハウス(中央集約型倉庫)に届き、そこからお客さんの自宅に直送するので、配送時間が短くできる。また、ウエアハウスで温度管理をきちっとできているだけでなく、配送車にも保冷庫があるため、温度管理を意識したチェーンが組まれている」(吉田副社長)


「知識生産性における競争に勝ち抜いていける企業に変身していかなければならない」と説くイオンの岡田社長(撮影:今井康一)

コストの問題も、大きな課題だ。ある食品業界関係者は「日本のネットスーパー事業は、どこも赤字」と話す。イオンだけでなく、オカドも先行投資負担で2018年度の税引き前損益は約60億円の赤字だった。

もともと、労働集約型産業のひとつである食品スーパーは利益率が低い。ネットスーパーは店員が商品をピッキングして梱包し、運送の手配までする。わざわざ「買い物代行」をしているようなもので、食品スーパー以上にコスト高だ。さらに、昨今のドライバー不足による物流費高騰がのし掛かる。

この点についても、イオンはオカドとの提携により倉庫出荷型のシステムを確立できれば、効率性が改善する可能性もある。「2030年にはネットスーパーを黒字化に持っていきたい」と、吉田副社長は強調する。

アメリカのウォルマート傘下の食品スーパー・西友はIT大手の楽天と提携し、ネットスーパーを拡大している。アマゾンも、関東と関西圏に店舗網を持つライフコーポレーションと協業して、日本での食品EC拡大をもくろんでいる。

イオンの岡田社長は、ピーター・ドラッカーのかつての未来予測が現代社会で次々と実現していることを引き合いに出しながら、「知識生産性における競争に勝ち抜いていける企業に、イオンは変身していかなければならない」と説く。

リアル店舗をデジタル技術と有機的に結び付け、アマゾンやウォルマートにいかに打ち勝っていくのか。オカドとの提携で、イオンは新たな競争領域に入った。