IT化が遅れていると言われる日本の金融業界。その中にもiPad Proを積極的に活用している地方銀行も存在します。Appleに「先進事例」として紹介された栃木銀行の取り組みを取材しました。

栃木銀行は、栃木県内を中心に92店舗を構える第2地方銀行で、地域密着型のサービスを重視して成長してきました。つまり、典型的な地方銀行といえます。そんな栃木銀行がデジタル化を進めるために選んだのがiPadでした。

デジタル化と言ってもさまざまなレベルがありますが、同行ではシステム更新にあわせてiPadを大量に導入し、踏み込んだデジタル化を進めました。紙の書類のほとんどを廃止し、電子サインの採用によって認印も不要としたのです。

▲栃木県宇都宮市、東武宇都宮駅ほど近くにある栃木銀行本店

同行では180名いる訪問営業のスタッフ全員にiPad Pro(2017)とApple Pencilを配布。同時に顧客管理システムを刷新し、顧客情報を含む各種書類を参照できるようにしました。

iPad導入以前からパンフレットなどはデジタル化していたものの、顧客情報を管理する書類については持ち出し禁止で、訪問営業スタッフは訪問先の情報を頭に叩きこむ必要がありました。それをiPadで出先から確認できるようになったことで、大幅な負担軽減につながっています。

▲IPad導入にあわせ顧客データを出先で安全に閲覧できる仕組みを整えています

そして、契約手続きも電子化を進めています。中でも電子サインを導入した効果は大きく、たとえば従来は投資信託の申込などでは5〜6枚ほど書面捺印する必要があったところ、iPadで1回のサインするだけで、すべてが完了するようになりました。1時間ほどかかっていた書類作成をiPadの導入によって省略でき、その分、本質的な説明に時間を割けます。

▲栃木銀行 ファイナンシャルサポーターの遠藤千智氏

Appleの事例説明動画にも登場する栃木銀行のファイナンシャルサポーター 遠藤千智氏はこう語ります。

遠藤氏:「iPadでサインは高齢のお客様にも負担なく書けるので『書きやすいね』と好評をいただいています。また、これまでは5〜6枚の契約書を書いていただいて、支店に帰ってから書類の整理をしていたのですが、iPad上でほとんどの書類が管理できるようになって、事務処理の手間の削減されました」



▲電子サインなら、拡大して大きく手書きすることもできます

さらに、栃木銀行ではiPadにさまざまな資料を入れて活用しています。各種金融商品のパンフレットのほか、投資信託の成績リストを一覧にするツールなどを入れており、必要な時に取り出せるようになっています。導入以前は必要な資料を確認するためには支店に戻る必要があったところ、必要な書類をすぐに取り出せる機動的な営業体制に変わっているわけです。

▲取り扱っている投資信託のパフォーマンスを一覧表示するツールも導入

また、業務に使う日報などもデジタル化されており、iPadからも入力できるようになっています。遠藤氏の場合、本格的な入力作業は支店に戻ってからパソコンを使って行っているとのことですが、対面したときの印象など、簡単な内容をiPadですぐに打ち込んでいくことで、日報を書く手間を軽減しているそうです。

こうした取り組みの結果、栃木銀行では180人の営業職員全体で年間2万1000時間以上の時間削減につながったとしています。

さらに、栃木銀行では窓口業務でもiPadによるサインレス化を進めています。ここでも特に業務削減の効果が大きかったのが電子サインでした。電子サインに移行したことで、認め印を廃止でき、複雑な申請書類もシンプルな手続きに導入できたとのこと。今後は、ドコモの「はなして翻訳」という翻訳アプリを導入し、訪日外国人向けの強化を図っていく方針です。

顧客の個人情報を扱う上で、セキュリティに対する配慮はかかせません。iPadと顧客管理システムを通信回線は、ドコモの閉域網サービスを活用し、仮想的な専用線で繋ぐ形をとっています。さらに、情報閲覧後の端末にはデータを残さないようにして、紛失などにも配慮しています。栃木銀行では11月現在、743台ものiPadを運用していますが、ドコモのモバイルデバイス管理ソリューションによって、一元管理が可能になっているといいます。

デジタル化というとどこか冷たいイメージがありますが、栃木銀行の事例は業務システムレベルでのデジタル化を上手く進めたことで、事務処理の手間を大幅に削減しています。そしてその浮いた時間を、顧客とのコミュニケーションにフォーカスするという、人間ならではのスキルにフォーカスしています。紙のように手書きでき、信頼性の高いセキュリティのもと多様なアプリを実行できるiPad Proの存在は、その改革を下支えしているものと言えるでしょう。