日本弁護士連合会(日弁連)は11月、人口4000人未満の「平成の大合併」で合併しなかった自治体と合併した自治体を比較し、人口減少率が低いなど非合併自治体が“元気”であるとの調査結果を公表した。高齢化率の進捗(しんちょく)も抑えられ、財政の健全化も進んでいた。日弁連は「非合併の小規模自治体では公務員数が激減せず、農業など産業面でも個性を生かした地域づくりを展開している」と分析する。

高齢化抑え財政健全に


 日弁連の弁護士らは、地方自治制度などを研究し昨年春から20人の弁護士らが「空き家、地域再生プロジェクトチーム」を結成して農山村を調査。「合併しなければ小さな自治体は立ち行かなくなる」として進められてきた、平成の大合併の効果や弊害などを検証した。

 調査では、2000年時点で4000人未満の小規模な町村と、産業構造が似ていて隣接する合併旧町村の組み合わせを47組作り、原則05年から15年にかけた人口変化や高齢化の進捗(しんちょく)などを比較した。例えば、北海道新篠津村、岡山県西粟倉村、高知県大川村と、合併した近隣自治体を比べた。

 その結果、非合併町村は合併旧町村に比べ、人口減少率は47組中43組、高齢化の進捗率は47組中41組で低かった。また、47の非合併町村の財政指標を調査。05年度に合計518億円だった積立金は15年度に2倍近い1010億円に増え、実質収支比率も41町村で上昇するなど、財政の健全化が図られていた。

 日弁連は、非合併町村では役場機能が保たれ、公務員数が大きく減っていないことが背景にあると指摘。「非合併自治体は地域住民と役場職員の顔が見える関係が築かれ、地域の個性が発揮しやすい」と分析している。

住民と行政が連携


 日弁連は全国各地の現場調査もした。合併しなかった長野県生坂村の農業公社代表、岩間陽子さん(68)は「合併しなかったことで住民の声が予算に反映させやすい面はあった」と指摘。「住民と行政が“協働のむらづくり”をしてきて、村ぐるみで(農水省の)多面的機能支払交付事業で共同作業をし、集落営農も活発になっている」と話す。不安はあるが、合併しないという選択で地域住民に自主性が芽生えたと感じているという。

 一方、合併した町の元助役で現自治会会長(73)は「当時は国から地方交付税を減らすと言われて、危機感が強かった。今になってみると合併してよかったと言う町民はいない。ただ、他の地域との比較で一喜一憂するのではなく、自分たちの地域づくりを頑張るしかない」と話す。

地域の個性 尊重を


 「空き家、地域再生プロジェクトチーム」リーダーの小島延夫弁護士の話

 今回の調査は比較により小規模自治体同士に優劣を付けることが目的ではない。ただ、調査結果からは、合併しなかった自治体で、当初予想されたような地域の衰退は見られないことが浮き彫りになった。

 総務省は昨年、複数市町村で構成する「圏域」を新たな行政とする構想を発表しているが、そうした構想を打ち出す前に、平成の大合併の検証が求められる。

 地域の枠組みを考えるとき、地域の文化や歴史、農業などの産業といった個性を尊重した上で検討しなければならない。「合併しなければ生き残れない」といった強引に危機感をあおる手法は、地域の誇りを奪うものだ。