「Impecable」

 日本を1−4と撃破したベネズエラの指揮官、ラファエル・ドゥダメルは、試合内容をスペイン語で「完璧な」と形容した。

 ベネズエラは、前半だけで大量4得点を敵地で叩き込んでいる。その戦い方は、まるでサッカーのレッスンのようだった。日本のパスコースを的確に分断しながら、焦りを誘い、奪い取ったボールを素早く展開。サイドから個人とコンビネーションで崩し、次々にゴールネットを揺らした。

「我々スタッフは選手の力を導き出したにすぎない。選手のプレークオリティの高さで勝つことができた。(平均年齢24.7歳の)すばらしい世代が出てきていることを、我々(ベネズエラの指導者)は光栄に感じている」

 ドゥダメルは試合後の会見で誇らしげに語った。ベネズエラはいかにして、完璧な試合で日本を打ち負かしたのか?


失点を積み重ね、茫然とする日本代表の選手たち

 ドゥダメルの語る戦略で、象徴的なスペイン語表現があった。

「Romper y cortar circuitos」

 それは「回路を破壊し、断ち切る」と訳せるだろうか。指揮官は、日本の集団的メカニズムの質の高さを警戒していた。日本はそれぞれの選手が比較的高いスキルを持ち、チームとしていい距離感、ポジションを取ってボールをつなげ、敵陣に迫り、前線に個でも立ち向かえるアタッカーを配する。ベネズエラは、その回路を分断した。

 その結果、日本は各所が孤立している。苦し紛れに、いつもより長めのパスを送らざるを得なかった。そこを狙われ、インターセプトされる機会が増えた。中島翔哉(ポルト)はいつも以上に1人で仕掛ける場面が多くなって、しかもゴールから遠い位置のため、常に複数人で囲まれてしまい、無残にボールを奪われている。また、前線の鈴木武蔵(北海道コンサドーレ札幌)はディフェンスを背に向けてプレーするタイプではないこともあって、ポストプレーで棒立ちになるケースが多く、簡単にかっさらわれてしまった。結局、浅野拓磨(パルチザン・ベオグラード)が裏を狙う選択肢になったが、それはことごとく読まれていた。

 ベネズエラは戦略で優った。

「自分たちは常に戦う前から、相手の長所はどこかと考える。それを制御するために準備する。その試合ができた」

 ドゥダメルはそう言うが、見事な采配だったと言えるだろう。

 ベネズエラは4−1−4−1のシステムだったが、インサイドハーフのトマス・リンコン、ヤンヘル・エレーラの2人が縦横にプレーを引き回していた。中盤から積極的に前へ出て圧力をかけ、奪ったボールを前に運ぶ。それぞれセリエA(トリノ)、リーガ・エスパニョーラ(グラナダ)でプレーする2人は、スペイン2部でも試合に出られない柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)を完全に凌駕していた。

 中盤でイニシアチブを取れたことによって、ベネズエラは先手を取った。そのアドバンテージによって、今度は両サイドでブラジルの名門サントスに所属するジェフェルソン・ソテルド、スペインで前半戦のサプライズになったグラナダのダルウィン・マチスが躍動した。国際大会の経験の乏しい、日本のサイドバックを狙い撃ちにした。

 ソテルドの仕掛けから室屋成(FC東京)を抜き去って上げたクロスを、サロモン・ロンドンが佐々木翔(サンフレッチェ広島)に競り勝ってヘディングで合わせた先制点は象徴的だった。日本の守備をサイドから籠絡し、中を混乱に追い込みながら、点で合わせる。4得点は多かれ少なかれ、その形だった。

 後半は、ベネズエラのプレー強度や精度が低下している。4点のリードという心理マネジメントは難しい。どうしても、受け身に立つからだ。

「ハーフタイムには、『真剣さをもって、相手に敬意を表し、同じインテンシティで戦おう。失点はゼロのままで』と選手に伝えた。選手の姿勢は前半と一緒だった。しかし、日本は得点の必要に迫られ、ラインをあげ、プレスをかけてきた。我々はそれを回避するために、ラインをひとつ飛ばして前線のロンドンに蹴り込む機会が増えざるを得なかった。プレーインテンシティのレベルは下がってしまったと思う。その点、もっと効果的に試合を進められたと反省している」

 その結果、ベネズエラは1点を返されたが、最後は主力を下げながら、若い選手をテストする余裕があった。

「(長旅や時差など)フィジカル的に厳しいところはあったが、高い位置からプレスをかけ、効率的な戦いができたと思う。相手にどうダメージを与えるか、を考えて、それができた試合だった」

 ドゥダメルは日本を「Mundialista」(スペイン語でW杯の出場経験国、もしくは常連国)と敬意を表しながら呼んだ。ベネズエラはワールドカップに一度も出場したことがない。勝利した指揮官は、最後まで奢ることがなかった。

「日本の弱点については、コメントする立場にない。正直、弱点を探すのは難しかったし、日本のような強敵と(2年連続で)対戦することによって、自分たちの競争力も高まっている」

 ベネズエラは欧州や南米の有力クラブでプレーする選手を招集し、全力で挑んできた。日本の長所を潰し、自分たちの長所を出したのだ。

「完璧な試合」

 日本が敗れたのは必然だったのかもしれない。