ネット上で先日、「結婚情報誌はあるのに、なぜ離婚情報誌はないのだろう」という投稿が話題になりました。日本でも離婚率が上昇し、「熟年離婚」が流行するなど、離婚のハードルが下がっているように感じますが、結婚情報誌は存在しても「離婚情報誌」は存在しません。「離婚は大変」と言われ、離婚するまでの過程を解説した情報へのニーズは一定数あると思われますが、なぜ離婚情報誌はないのでしょうか。

 離婚事情にも詳しい、夫婦カウンセラーの木村泰之さんに聞きました。

ネットの後、書籍などで調べる?

Q.離婚には、さまざまな話し合いや手続きが必要です。一般的に、どのような過程を経て離婚は成立するのでしょうか。

木村さん「離婚する原因や理由は、性格の不一致や借金、配偶者暴力(DV)、浮気などが挙げられます。しかし、それらが起きたとしても、すぐに離婚するかどうかは別問題です。まずは、夫婦間で問題を解消できないか努力するはずです。それでも解消できない場合、親族や友人、第三者に悩みを打ち明けて打開策を探る人もいます。

しかし、最終的にどうにもならないということであれば、子どもの親権や財産分与、場合によっては慰謝料などを両者が協議して決定し、役所に離婚届を提出します。離婚は比較的短期間で成立しますが、どちらかが離婚を拒んだり条件が折り合わなかったりする場合は、調停や訴訟など司法の場に持ち込まれ、離婚の成立まで数年かかるケースも考えられます」

Q.離婚が成立するまでの過程に関する情報を、当事者はどのようにして入手しているのでしょうか。

木村さん「離婚の危機を迎えたとき、まずはインターネットで法律的なことを調べるケースが多いはずです。なぜなら、離婚を周囲の誰かに相談しにくいという心理が働くからです。ネットを使い慣れていない場合は、書籍などで離婚に関する必要なことを調べることもあります。

ネットで情報を調べるのは、法的に離婚で不利にならないようにとか、分かっていないことがないかを心配するからです。ただし、ネットや書籍では、一方通行の情報や同じテーマで異なる見解が書かれていて混乱することもあります。

自分の状況に照らし合わせて聞きたいとなれば、弁護士や司法書士、行政書士、役所の無料相談、カウンセラーに相談に行くこともあるでしょう。離婚がいよいよ現実的になってくると、個別の事情や条件について詳しく知っておきたいからです。このように離婚を考えた場合、まずはネットや書籍、そして状況が進んでくると、法律や夫婦問題の専門家から情報を収集することが多くなります」

Q.離婚する人、あるいは離婚を検討する人が増えている中で、「離婚情報誌」へのニーズもあると思いますが、存在しないのはなぜですか。

木村さん「結婚情報誌と同じような離婚情報誌というものは、現在のところ存在しません。離婚情報誌が、離婚に至るまでや離婚後の生活に必要な情報が掲載されている雑誌だったとします。例えば、1人暮らしに必要なものなど、住む場所や行政の手続きの情報誌であったとして、離婚を考えている人にとっては、そこまではなかなか考えつかないというのが実情です。そもそも、離婚はそれまでの生活が大きく変わることですから、そこまで頭がついていかないわけです。

そういう情報誌があったとしても、考えが追いついていない状態では読む心境にならないと思います。『離婚で自分はどうなってしまうのか』という不安が先に立ち、離婚の危機をどうにか回避できないかという心理になるので、離婚後の情報を頭に入れたくないという心理が働いても不思議ではありません」

Q.「離婚」には、ネガティブな印象がまだあると思います。ネガティブな事柄をビジネスにすることを避ける風潮が日本にあることも、理由の一つでしょうか。

木村さん「離婚は日本で、ネガティブな印象があるのは確かです。離婚を俗に『×(バツ)』と呼ぶのもその表れです。離婚を人生の再スタートという捉え方ではなく、夫婦や結婚がうまくいかなかった人生の“黒歴史”という心証があります。

そうした中で離婚をビジネス化するというのは、なかなか難しいです。日本では、毎年20万組以上の夫婦が離婚をしているわけですが、その当事者にとって何が有益な情報になるのかは全く不透明です。なぜなら、住んでいる場所や年齢、家族構成、職業などでも離婚の捉え方が全く違うからです。

また『離婚を人に言いたくない』という心理が、離婚情報誌の購読に結び付きにくい一番の要因です。情報誌があったとしても、それを買うのを誰かに見られたらとか、家に置いてあるのを知られたらとか、とにかく離婚に関することが人目につくことを避ける心理が強いです」

Q.今後も、離婚情報誌は誕生しそうにありませんか。ネット上にある、さまざまな離婚に関する情報だけで十分でしょうか。

木村さん「今後のことは何とも言えないですが、仮に離婚情報誌のような媒体ができるとすれば、離婚ということについて、日本人全体がネガティブな印象が薄くなっていることが前提と考えられます。

ただ、結婚を個人ではなく、家と家のつながりと考える日本人の文化があるので、そうなるかどうかは分かりません。結婚をお互いの家同士のつながりと見ている分、離婚で影響を受ける人間も多いからです。そうなると、なるべく離婚にならないようにとか、するにしてもなるべく周りに知られないようにという心理が働きます。

その中で、離婚に関する情報誌というものはなかなか表に出にくいかもしれません。その点、ネットでは時間がある限り、一人でさまざまな情報を入手できます。もちろん、無責任な情報や出所がはっきりしないものもあるでしょう。そういう意味で、ネットで調べるとともに、法律家やカウンセラーのような専門家に離婚の捉え方を聞くのがいいかもしれません」