未使用状態が必ずしも新車よりお買い得というわけではない

 かつては「新古車」と呼ばれ、キャンセル車両などわけあり中古車のイメージが強かったが、新古車という表現がまぎらわしいということで、使えなくなり「未使用中古車」という新たな呼び名が定着しようとした時には、お行儀の悪い売り方とも言われていた。なぜかというと、もともと軽自動車が中心であったのだが、薄利多売の軽自動車ゆえに工場稼働率の維持や、販売ランキングで上位に入るための販売台数の上積みなどのために、おもに未登録(軽は届け出/未使用)状態でディーラーにおいて在庫となっていた車両を、ディーラー名義などで自社登録(届け出)し、そのまま未使用の状態で中古車市場に流通させていたからだ。

 いまでは、未使用中古車という表現から、登録済み(軽自動車は届け出済み)未使用車(あるいは未使用中古車)という表現になり、クルマのひとつの流通形態として広く認知されるようになっている。

 未使用状態でナンバープレートだけついた中古車なので、新車で購入するより圧倒的に買い得かといえば、そうでもない。未使用中古車は自社登録(届け出)したのち、半年ほど寝かしてから、中古車展示場に並ぶのが一般的。登録(届け出)直後に店頭に並べても、いまどきは軽自動車でも新車購入で総額での20万円引きも珍しくないので、新車で買ったほうが買い得になるケースも出てくる。

 そこで半年ほど寝かしてある程度減価償却させた段階で、値ごろ感のある値付け(新車を限界まで値引かせて購入するより若干買い得程度)で店頭に並ばせるのである。それでも新車購入と比べてなかなか際立った買い得感が高まらないので、ここ最近は、ディーラー試乗車や代車などの社有車としてしばらく(半年ほど)使用し、走行距離が数千kmほどとなる、ちょこっと使用中古車というものの存在も珍しくなくない。また、レンタカーやカーシェアリング車両として短期間使用してから、中古車として再販される元フリート中古車も目立ってきている。

試乗車あがりの中古車が狙い目!

 いまねらい目なのは、ディーラーで試乗車として短期間使用され、当該ディーラーで直売されている中古車。もともと短期間での再販を念頭に入れているので、車内禁煙は当たり前で、走行距離があまり延びないようにセールスマンには運転させないなど厳しく管理されているため、車両としては問題がない。

 ある情報筋では、ディーラーがメーカーから新車を仕入れる時に、展示や試乗車として自社所有を目的としたオーダーでは、一般販売向けの仕入れより仕入れ値が極端に安くなるというのである。しかし、試乗車を中古車として再販する時の販売価格の算定基準のベースとなる新車価格は一般販売向けのものとなるので、新車として売るより利益になるという話も聞いたことがある。

 仕入れ値が根本的に違うので、このような値付けをしても新車で買うよりは魅力的な販売価格となる。そのため同じ車種を新車で買う前提で商談を進めていて、どうしても予算が合わないといった時に、「中古車で出物がありますよ」とセールスマンが試乗車あがりの中古車を紹介すると、そのまま中古車が契約となるケースも多いとのこと。新車購入で折り合いが合わず、他メーカーに流れるのを食い止める防波堤のような役目を、高年式低走行で試乗車あがりの中古車は担っているのである。

未使用中古車を持つディーラーは業績が良い証拠とも言える

 ディーラーが新車をメインとした自動車販売でしっかり利益を稼ぐなどということは、いまの日本ではありえない。これは日本だけでなく、自動車先進国のアメリカなどでも同じ話。新車ディーラーのメインの収益源は、車検や定期点検、板金修理、それに伴う物販などのアフターメンテナンス部門となっている。中古車販売に力を入れているのも同様。そのなかで赤字というわけではないが、カスカスの利益で新車を販売するのは、新車を買ってもらうことでアフターメンテナンスの収益につないでいくためだ。それがいまの新車ディーラーのビジネススタイルといっていいだろう。

 ただ、そのアフターメンテナンスも、格安車検業者の台頭や、安全運転支援デバイスの普及による板金修理の減少もあり、けっして安泰ではない。ドライバーの高齢化などからクルマ離れも加速しており、新車への代替えの前に車検誘致も満足にできない状態となっている。

 多数のセールスマンやメカニックを抱える新車ディーラーは、労働集約型産業といってもいい業態。中長期的にいえばAIによるチャット商談や、スーパーのレジではないが、店頭でAIを相手としたセルフ商談、メンテナンスサービス拠点の集約化などで、人件費の削減が急速に進んで行くかもしれない。そこまで追い込まれているのが新車ディーラーの現状なのである。

 未使用中古車は原資がなければ作り出すことはできない。その意味では市中に未使用中古車が溢れるということは、まだまだ未使用中古車の多いブランドほど販売ネットワークの体力が弱まっていないともいえるのだ。

 事実、アメリカでは自社登録ではなく、レンタカー会社へのフリート販売などで販売台数の上積みを行うのだが、メーカーの業績悪化を背景にフリート販売を手控えるという動きが一般的。そのため日本ではいままで存在が目立っていたブランドの未使用中古車をあまり見かけなくなったら、もちろんそれぞれのブランドの販売戦略による判断というものもあるのだが、「台所事情が苦しくなってきたのかな」と考えるひとつの材料になるといってもいいだろう。