世界有数のタイヤメーカーとして知られるミシュラン、その日本進出のきっかけは「鉄道用タイヤ」でした。自動車用とは異なる特徴を持つ「鉄道用タイヤ」とは、どのようなものでしょうか。

実は90年弱の歴史「鉄道用タイヤ」

 フランスのタイヤメーカー、ミシュランが日本に進出して2019年で55年が経ちます。自動車用タイヤで世界有数の売上高を誇る同社ですが、日本進出のきっかけとなったのは、実は自動車用タイヤではなく、「鉄道用タイヤ」でした。

 1964(昭和39)年、前回の「東京オリンピック」開催の直前に開通した東京モノレールへのタイヤ納入が、ミシュランの日本におけるビジネスのスタート。なお、東京モノレールはコンクリート製の軌道桁と呼ばれる1本のレールを、複数のタイヤで挟み込むようにして走行する方式です。


東京モノレールの車両。ミシュランは、この東京モノレール開業時における走行用タイヤの納入をきっかけに日本へ進出した(画像:photolibrary)。

 ここにミシュランのタイヤが採用された理由について、日本ミシュランタイヤは次のように話します。

「それ以前から、タイヤで走る鉄道の開発に携わってきたミシュランの実績や、タイヤの性能が評価されたものでしょう。ミシュランは1931(昭和6)年に、世界で初めてゴムタイヤでレールの上を走る鉄道車両『ミシュリーヌ』を実用化しました。また1951(昭和26)年には、パリの地下鉄車両に初めて空気入りタイヤを装着させ、こちらも実用化しています」(日本ミシュランタイヤ)

 ちなみに日本では1957(昭和32)年、ゴムタイヤを使用する鉄道として上野動物園のモノレールが開業していますが、これは、いわば園内の乗りものとしてのモノレール。羽田空港と東京を結ぶ公共交通機関としての東京モノレールとは、規模が大きく違います。

「ゴムタイヤ鉄道」世界中に存在

 東京モノレールの開業以後、日本では同方式のモノレールや、コンクリートの板(床版)の上をタイヤで走る「ゆりかもめ」のような新交通システムなど、ゴムタイヤで走行する鉄道が各地に誕生しました。世界でも同様で、ミシュランではモノレールや新交通システム、地下鉄などの鉄道用タイヤを「メトロタイヤ」と総称。いまでは18か国、80の路線に関わっているといいます。

 日本ミシュランタイヤは東京モノレールを皮切りに、こうした鉄道会社へタイヤを供給していく一方で、自動車用はもちろん、建設機械や農業機械用、航空機用など、様々な種類のタイヤを日本に送り出してきたと話します。1991(平成3)年には、ミシュランで世界3番目となるタイヤの研究開発施設を日本に設立し、日本の環境に合わせた自動車用タイヤの開発に乗り出すなど、日本市場を重視してきたそうです。


東京モノレールの走行輪に使われているミシュランのタイヤ。自動車用よりもサイドウォールがやや高く、ショルダー部が角ばっている(画像:日本ミシュランタイヤ)。

 ちなみに、鉄道用タイヤは自動車用と異なり、ハンドルを切って曲がることよりも、車両の荷重を支え、まっすぐ走ることが重視されているとのこと。また、モノレールでは1本のタイヤで空気が抜けても、ほかのタイヤで支える仕組みがある一方、新交通システムは、タイヤの内部にアルミ製の支え部材が入っており、空気が抜けても荷重を支えられる、といった違いがあるそうです。