■まだまだ遅れている日本のQR決済

政府は消費税増税を迎えた2019年10月から、需要平準化対策としてクレジットカードやQRコード決済などのキャッシュレス決済を優遇。中小規模の事業者でキャッシュレス決済を行うと、2%もしくは5%のポイント還元、もしくは即時還元(値引き)が受けられる。

「お得だから」が「便利だから」に変わる日は来るか。(PIXTA=写真)

増税前からこの状況を好機と見たキャッシュレス事業者は、各社が消費者を自社サービスに取り込むため、高還元率サービスを開始している。

その効果もありキャッシュレスサービスは浸透してきた感もあるが、MMD研究所の調査によればQR決済の利用率は約14%。まだまだ生活に根付いているとは言い難い現状がある。なぜ日本でQR決済は普及しないのか。QR先進国の中国に、そのヒントはあるか。中国・雲南省を拠点とするIT事情に詳しいライター、山谷剛史氏に中国国内の事情と、日本国内でキャッシュレスを発展させるヒントを聞いた。

中国でのQR決済利用者は、CNNICによると6月末に6億2000万人超。人口比にすると、これは44%にものぼる数字だ。山谷氏によれば、中国でも上海などの大都市はもとより、内陸の小都市でもQR決済は当たり前のように利用ができるという。

■若者はQR決済をする様子が見られる

しかし、「利用しているのは中国のネット世代の40代以下が中心で、スーパーや市場では中高年が現金で支払う一方、若者はQR決済をする様子が見られる」と、山谷氏は語る。

「日本よりも交通不便な中国で、Uberのような配車サービス利用時に、QR決済を使うとタクシーよりもお得に利用できることから普及しました。QR決済というと中国のイメージがありますが、インドネシアでもQR決済とバイクタクシー配車サービスがまさに普及していますし、アジアやアフリカでQR決済の配車サービスが登場しています。交通不便な土地で安く、それに明朗会計で移動できるのは非常に心強い。加えて中国では銀行間の振り込みが日本よりもずっと面倒なのです。QR決済により個人送金が簡単にできるようになったのは、革新でした」

不便を解消する手段としてQR決済が出現し、需要が伸びたことがスタートにあったということだ。

「その後、スーパーが正規にQR決済に対応しましたが、加えて個人商店や食堂も個人送金受け付けという形で、印刷したQRコードを壁やレジに貼り付けました。いわゆる“近所の店”で利用できるのは魅力的です。またスマホで決済できることにより、シェアサイクルが普及したほか、Netflixのような有料動画サイトでも、テレビに出るQRコードでお金を支払うと綺麗な画質の映画やドラマなどが見られるようになったりと、様々なネットサービスがスマホだけで気軽に利用できるようになりました」

現在の日本国内におけるQR決済の事情は、在中日本人から見てもチグハグだと感じる面があるようだ。山谷氏の友人である在中日本人は、日本に帰国するたびに「アリペイと提携したはずのPayPayであっても、ネット決済で使えるのはごくごく一部のサービスのみ。決済手段が増えて面倒になっただけで、メリットが感じられない」とこぼしているという。

日本国内ではポイントカードのサービスが分散しているのと同様に、QR決済も店舗ごとに使える決済方法が異なる。その決済手段をより強固かつ便利にするためのネット決済は、日本国内ではほとんど普及していない。

山谷氏は「日本では中国でQR決済が普及した理由として、『偽札が多いから』と報道されることが多いですが、本当にそうでしょうか? そもそも偽札を使いようがないネット決済や送金でもQR決済に人々が利便性を感じて、多くの中国人が利用しています」と語る。

現状ではQR決済の利用動機の大部分がキャッシュバックに依存しており、山谷氏の語る「便利だから普及する」という状況になっているとは言い難い。もちろん中国と日本では事情が異なるため、日本の人々が不便を感じている事柄に光を当てることが、QR決済を発展させるヒントになりそうだ。

(プレジデント編集部 写真=PIXTA)