総制作時間、1年4か月。日々、こつこつと紡ぎあげた超大作が、注目を集めている。


鉄平(@beads_teppei)さんの作品

ツイッターユーザーの鉄平(@beads_teppei)さんが、2019年11月13日に投稿した作品だ。額に入っているのは、縦長のイラスト。1本の巨大樹と、その根元から上を見上げる後姿が3つ描かれている。

見る人が見れば、ゲームソフト「聖剣伝説2」のパッケージイラストを再現したものだとわかるだろう。


2018年のリメイク版「聖剣伝説2 SECRET of MANA」。パッケージのイラストはSFC版と同じ(画像はAmazonより)

なぜこちらが多くの人の関心を得ているのか、遠くからだとわかりづらい。作品に近づいてみよう。


鉄平(@beads_teppei)さんのツイートより

おわかりいただけるだろうか。

ずらりと並んだ均等な大きさの無数の粒。鉄平さんの作品は、小さなビーズで作った「ビーズアート」なのだ。

1粒の大きさは1.6ミリ。幅46.5センチ、長さ83.5センチのこの作品には、なんと15万7120粒ものビーズが使われている。

鉄平さんの作品を見た人からは、

「冒頭の動物の鳴き声から、決定ボタンの音、ロードデータ選択画面のBGMまで、流れるように思い出しました」
「当時の感動が蘇る様です」
「オープニングの曲や、マナの樹を掠めて飛ぶ鳥達の姿、3人の息遣いが浮かびます...!」

など、その再現度の高さにゲームを懐かしむ声が上がっている。

鉄平さんは、Jタウンネット編集部の取材に対し、「改めて、皆の心に残る名作だったんだなと実感しています」と語る。

「聖剣伝説2」への愛のなせる業

「聖剣伝説2」は、1993年にスーパーファミコン用ソフトとして発売された。鉄平さんは当時、中学生だったそうだ。

「聖剣伝説2が発売されて、初めてこのパッケージのイラストを見たときにその素晴らしさ、緻密さに衝撃を受けたのを覚えています。
聖剣伝説2という作品自体も、そのストーリーや音楽、どれをとっても名作という名に相応しい作品で、僕の中では、別格の作品です」
「いつか、この有名なイラストを何かの形で表現できればいいなとずっと思っていました。
この作品を描かれたイラストレーター様は、磯野宏夫さんという方ですがすでに鬼籍の人だということを知り、僕なりの弔意と尊敬の意を込めてこの作品をビーズで作ろう!と思い立ったのが(作品制作の)きっかけです」

子どものころから大好きだった作品。そのイラストを描いた故・磯野宏夫さんに捧げるため、鉄平さんは仕事が終わった後に少しずつ、コツコツと作品を作り続けた。

スーファミで遊んでいた時のドット感を再現するために、ビーズの色は37色に絞ったそうだ。

作品制作の過程は、こうだ。

まず、図案作成ソフトを使って、元のイラストからビーズ用の設計図の素案を作る。そこから微調整を重ね、ようやくどの色のビーズを何番目に配置するかを記した「目数表」が出来上がる。


図案作成ソフトの画面(鉄平さん提供)


ビーズの配置を示した目数表の一部(鉄平さん提供)

その後、ビーズ織機を使ってビーズを織っていくのだが、目数表を見ていただくと、その作業の細かさがわかるだろう。繰り返しになるが、ビーズは1粒1.6ミリ。この小さな粒を1つずつ、表のとおりに糸に通していくのだ。

横1列のビーズ数は320粒。それを491回繰り返してやっと、1枚の作品が出来上がる。

「家族や友人、大切な人の励ましがあったからこそ、最後まで作れた作品ですので感謝しています。
途中、選択したビーズの色が気に入らなくなって、解いてやり直したり、1段飛ばしていることに気づかずに編んでいたり、縦糸が切れそうになったりと、制作時は色々な苦労がありました...。
自分でもよく妥協しなかったな...と思います(笑)」


作品を編み上げた直後(鉄平さん提供)

鉄平さんは、趣味でビーズアートを楽しむ母親から影響を受けて、3年ほど前に作品づくりを始めた。今回の作品も、母親に助けてもらいながら作ったという。また、色彩センスが良い姉にも、ビーズの色を選ぶのを手伝ってもらったそうだ。

それにしても膨大な作業量だ。

「聖剣伝説2」と故・磯野さんへの強い思いがあってこそ、完成にたどり着いたのだろう。筆者などは、作品になる前のバラバラ状態のビーズを想像するだけで途方に暮れてしまう。

鉄平さんも、次の作品を期待するリプライに対し、「もう当分ビーズは見たくないですw」と返信していた。