ロシア沿海州の都市、ウラジオストック。ヨーロッパ風の町並みに魅了され昨年訪れた外国人観光客の数は、過去最高の65万人に達した。その内訳は、中国人が37万人、韓国人が22万人。日本人は2万人だが、急増が伝えられている。

一方、ウラジオストクには出稼ぎにやって来た外国人も少なくない。旧ソ連のウズベキスタン人、タジキスタン人と並んで目立つのが北朝鮮人だ。北朝鮮人の雇用を禁じた国連安全保障理事会の制裁決議の影響を受け、減少したと伝えられているが、市内では今でも北朝鮮人の姿が見られるという。

市内には北朝鮮領事館が開設されているが、その職員と家族の暮らしは困窮を極めているようだ。

ウラジオストクの高麗人(朝鮮系ロシア人)が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、最近市内の卸売市場には、モヤシや豆モヤシが多く入荷しているが、栽培者は、北朝鮮領事館職員の夫人たちだという。

「領事館職員の家族は毎朝8時から9時ごろに卸売市場に現れる。大抵で男女2人連れで夫婦かどうかはわからないが、男性が乗ってきた車のトランクからモヤシと豆モヤシを取出し、商人に安値で売り払ってすぐに立ち去る」(情報筋)

この市場でモヤシと豆モヤシは、500グラム40ルーブル(約68円)で売られているが、彼らの卸値はその半分に過ぎない。彼らが1日に卸すモヤシは合計で20キロほどなので、稼ぎはたったの800ルーブル(約1370円)にしかならない。スタローバヤ(大衆食堂)での2〜3食分程度だ。

実は昨年の冬、領事館の職員の夫人たちが市場で豆腐、餃子、キムチなどを道端で売る様子が何度も目撃されている。北朝鮮国内にいるよりは自由な空気に触れることができ、外貨稼ぎのチャンスもある外交官だが、海外暮らしも決して楽ではないのだ。

(参考記事:欧州から北朝鮮に強制送還された「ある女子高生」が辿る運命

別の情報筋によると、彼らはこのような商売を以前から行っていて、食品の製造、販売のみならず、荷物の輸送など様々な商売を行っている。

「平壌の言葉を使う北朝鮮領事館職員の家族は、豆モヤシ、モヤシ、豆腐を売っているが、寒くなったのでキムチ、カクテキ(大根のキムチ)、チョッカル(塩辛)などを作って売っている」(情報筋)

しかし、自分たちが直接販売するわけにはいかないので、市場に卸しているが、より高く買ってくれるところを探しているそうだ。領事館職員や家族は男女2人連れで市場にやって来るが、男性は常に硬い表情で周囲を警戒し、女性が商人とやり取りをしている間も常に警戒を続けているそうだ。

どのような意味合いがあるのか、情報筋は説明していないが、「個人的な利得を目的とするいかなる職業活動又は商業活動をも行なつてはならない」と定めたウィーン条約42条に違反する行為で、ロシア当局による摘発や、メディア報道を恐れていることが考えられる。

外交官がこんな商売に手を染めるのは、生活費が足りないからだ。彼らの月給は5万ルーブル(約8万5000円)ちょっと。余裕はなくとも生活に困らない程度の額だが、国に納める忠誠の資金のノルマが厳しく、モヤシ売りに励むはめになっているということだ。

それでも、ノルマや搾取に苦しめられる出稼ぎの北朝鮮労働者よりはよほどマシと言えるだろう。