11月13日付のスポーツ新聞各紙も1面トップで取り上げた(東洋経済オンライン編集部撮影)

11月12日夜、日本中に驚きの声があがりました。国民的グループ・嵐の二宮和也さんが一般女性との結婚を発表したのです。

ネット上で記事やSNSのコメントが飛び交ったほか、テレビ画面にも速報テロップが表示されるなど、驚きをもって伝えられたのは、「もし嵐の誰かが結婚するとしても、来年末でグループ活動を休止したあとだろう」と思われていたから。

ファンにしてみれば、「活動休止まであと約1年間、全力で応援しよう」「最後のコンサートを思い切り楽しもう」と思っていたときだけに、「なぜこのタイミングなのか?」という疑問がよぎります。

しかし、その理由や発表の方法を掘り下げていくと、二宮さんとジャニーズ事務所の巧みなリスクヘッジが見えてきました。そのリスクヘッジや情報発信の手法は、ビジネスパーソンにとっても、参考になるものなのです。

存在感、人気、格を見せた直後だった

まず「なぜこのタイミングで発表したのか?」について。

嵐は今月3日で「20周年」を迎えたこと。また、9日に天皇陛下の即位を祝う「国民祭典」の祝賀式典で奉祝曲を歌い、称賛を集めたこと。その直後にジャカルタ、シンガポール、バンコク、台北の4都市で会見を行うキャンペーン「JET STORM」を行い、11日に帰国したばかりであること。つまり、「国内外のファンに20周年の感謝と、残り約1年間の活動内容を伝えられた」という彼らにとって、ひと区切りのタイミングでした。

「会見で、5つのSNSをスタートし、全シングル65曲を配信するなど、ファンとの距離を一気に縮めた」「新国立競技場でのコンサートも発表し、特別なグループであることを示せた」「天皇陛下の前で堂々と歌い上げて、国民的タレントの存在感を見せた」「アジア各国も熱狂させて、ワールドワイドな人気を証明した」

嵐としての存在感、人気、格を「これでもか」というほど見せたうえでの結婚発表だけに、世間から祝福ムードが出やすい状況だったのです。また、「20周年の感謝」という純粋な気持ちとともにそれらを見せていたことも、批判や不満が出にくい要因と言えるでしょう。

これは芸能界だけの話ではなく、ビジネスシーンも同じ。存在感、人気、格を見せた直後なら、多少のネガティブ要素も「〇〇社さんがそう言うのなら」「〇〇さんのことを信頼していますから大丈夫」と受け入れてもらいやすいところがあります。また、嵐のように日ごろの感謝をにじませることで、さらなるリスクヘッジになるでしょう。

5つの意味を込めたファンへのメッセージ

次に注目したいのは、今回の結婚発表で二宮さんが発信した文章。

二宮さんが報道機関に送った文章には、「晩秋の候、皆様におかれましては益々のご健勝のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、心より御礼申し上げます。この度、私二宮和也は、かねてよりお付き合いをさせていただいている方と結婚することとなりましたのでご報告をさせて頂きます。結婚後も、これまでと変わらず活動してまいりますので、温かく見守って頂けましたら嬉しく思います。今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう宜しくお願い申し上げます」と書かれていました。

礼節を重んじた無難な文章の中で注目は、「かねてよりお付き合いさせていただいている」「温かく見守って頂けましたら嬉しく」の2つ。前者は「急な話ではなく、相手はみなさんご存じの女性です」という最低限の報告であり、後者は「相手を追いかけないでください」という今後の対策を感じさせるものでした。「すべて隠すのでは反感を買うし、できるだけ穏やかに受け止めてもらおう」と考えたバランスのいいコメントだったのです。

次に、ファンクラブ会員には手書きの文章で、「いつも応援ありがとう。本当に感謝しております。今日は、私、二宮和也からご報告があります。この度、結婚をさせて頂く事になりました。1999年にデビューさせて頂き、これまで皆様に応援頂いたおかげで20年間、活動を続けてくる事が出来ました。本当にありがとうございます。嵐の一員として、人生の半分以上を過して参りましたが、ここで一人の男としてケジメと決断をし、今日、ファンの皆様に、ご報告させて頂きました。突然のご報告で驚かれた方も多くいらっしゃるかと思いますが、この決断が後に、良かったと言ってもらえる様に、今日からも変わらず、そして来年以降も二宮和也は、頑張って参りますので、今後とも末永く、応援を頂けたら、大変に嬉しく思います」と書かれていました。

第1に、報道機関と感情に差をつける意味で直筆にしたこと。第2に、嵐としての活動を振り返り、ともに歩んできたことを実感させたこと。第3に、「20年間」「人生の半分以上」という長い年月を具体的に伝えていること。第4に、相手女性や交際に一切ふれなかったこと。第5に、「男としてのケジメ」「後に、良かったと言ってもらえる様に」と覚悟を見せたこと。

上記5つの点で、ファンが「寛容な気持ちになりやすい」「不満はあっても受け入れやすい」ことを追求した文章であり、しっかりとリスクヘッジになっていたのです。

「客、本人、家族を守る」重要なリスクヘッジ

ファンに対する「配慮」という形でのリスクヘッジは、これらの文章だけではありません。

ジャニーズ事務所のタレントでは、9月28日にTOKIOのリーダー・城島茂さんがタレント・菊池梨沙さんとの結婚会見を開いたばかりですが、二宮さんは会見なし。結婚の内容どころか、相手の名前すら言いません。

二宮さんの結婚相手は元フリーキャスターであり、数多くのバラエティ番組にも出演していました。多くの人々が、相手女性の名前、出会いの場所、さらに所属事務所を辞めて表舞台に出なくなったことも知っています。

しかし、テレビ・新聞などの大手メディアは今回の結婚発表で、相手の名前や写真を掲載しませんでした。これはジャニーズ事務所なのか、相手女性によるものなのか、詳細はわかりませんが、祝いごとであるにもかかわらず掲載されないのは「ブレーキがかかっているから」にほかなりません。

これほどの厳戒態勢を敷くのは、まさにリスクヘッジ。「ファン(客)に余計なストレスをかけない」「二宮和也(本人)の人気急落や嵐への悪影響を防ぐ」「相手女性(家族)へのバッシングを避ける」という3者への意味を込めた重要な対策とも言えます。

「恋愛や結婚の報道を隠してばかり」などと批判されることも多いジャニーズですが、それだけ「リスクヘッジの意識が強い」ということ。二宮さんに限らず、すでに結婚したタレントたちのほとんどが、「相手とのツーショットを見せない」「できるだけ家庭の話はしない」などの姿勢を徹底していることが、意識の強さを物語っています。

また、ジャニーズ事務所は今回の結婚発表で、報道各社や関係各社に感謝のメッセージと老舗和菓子店のどら焼きを贈っていました。お菓子を贈るのはジャニーズ事務所の慣習として行ってきたことだけに、「長年の付き合いがありますし、お手柔らかに」と言っているような印象があります。とかく「無駄な経費を排除せよ」と言われる時代ですが、このような昭和的な商慣習も、それなりのリスクヘッジにつながっているのではないでしょうか。

もう1つ忘れてはいけないのは、「メンバーからの援護射撃」と言えるリスクヘッジ。

櫻井翔さんは、「日頃より嵐への沢山の応援、多大なるサポート、心より厚く御礼申し上げます。この度の二宮の決断に関し、中学生の頃に出逢った幼馴染みの一人としては、幸せになって欲しいと願うばかりです。より一層、嵐を全うしたいと思います」。

相葉雅紀さんは、「嵐ファンの皆さんは驚かれた方も沢山いると思います。僕は彼とは24年位の付き合いになります。中学生の時から仕事の行き帰りを一緒に過ごして来ました!戦友でもあり、大好きな親友です。親友の選んだ道です。二宮和也に幸あれ!!!!! おめでとう」。

これらのコメントを読んで、「納得がいかないところはあるけど、自分よりも身近なメンバーがそう言って祝福しているのなら……」と受け入れざるをえない心境になったファンは多いのではないでしょうか。

二宮さんのファンにしてみれば、「二宮さん本人がどんなに言葉を尽くしても、納得しづらい」というのが本音。不満の原因を作った張本人だけにモヤモヤとした気持ちが晴れないものですが、身近な第三者の言葉だからこそ、いくらか軽減されるものです。

これはビジネスパーソンも同様で、自分が何らかのネガティブな行為をしたときは、身近な第三者からのフォローを得ることで、それなりのリスクヘッジが可能。相葉さんが「24年位の付き合い」「戦友でもあり、大好きな親友」というフレーズを使っているように、いい意味での美談を用いることもポイントの1つであり、参考にしたいポイントです。

「嵐」としても法的に結婚可能年齢に

通常、日本人男性は18歳になれば結婚できますが、その点で二宮さんは、ちょうど倍の36歳。さらに、嵐というアイドルとしても、すでに20歳と結婚可能な年齢を超えているだけに、本当はファンも納得できる時期なのではないでしょうか。

また、相手女性は3歳年上で来月39歳となり、妊娠・出産の可能性や安全性を考えると、一刻でも早い結婚が望まれる年齢。ファンにしてみれば、「そんなことは関係ない」のかもしれませんが、二宮さんがこのタイミングで「男のケジメ」を考えるには十分すぎる理由でしょう。

ジャニーズ事務所には嵐だけではなく、多くの独身アラフォーアイドルがいて、このところグループ脱退や退所する人も少なくありませんが、二宮さんの決断が今後どんな影響を及ぼしていくのか。リスクヘッジという意味では、嵐のメンバーや後輩たちのケーススタディになるのは間違いないでしょう。