リッチな老後を迎えるにはどうすればいいのか。家計をV字回復させる方法について「実物家計簿」を通して解説しよう。第4回は「75歳を過ぎたら生前贈与」――。(全7回)

※本稿は、「プレジデント」(2019年10月18日号)の掲載記事を再編集したものです。

■親が1億円も貯めていた。相続税が心配

親とは疎遠でした。昨年母が亡くなり、父が自宅を引き払い施設に入居。その手続きなどで関係が復活したという感じです。これまで父とお金について話すことなどなかったのですが、結構な額の貯金があることを知りました。しかも、父はほとんどお金を使わない暮らしをしています。いずれ私が相続するのでしょうが、何もせずに莫大な相続税を支払うのももったいないと思います。よい方法があるでしょうか。

■ご家庭に合った生前贈与でお金を活かす

「お金の話をしたがらない家族は多いのですが、お金を活かすためにも親が70歳を過ぎたらお金の話を共有する。そして、資産があるようなら、専門家に相談して、すぐに対策を始めましょう」と有田美津子さん。

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西岡さんが1人で1億円を相続すると、相続税は1220万円である。

「一番使いやすいのは年間110万円まで非課税の暦年贈与です。西岡さんの場合、ご家族がたくさんいますから、毎年110万円ずつ5人に贈与すると、計算上は11年かければ課税なしで約6000万円を贈与できます。でも、お父様のお年を考えると、短期間に贈与するのが理想的。贈与税を払っても、生前贈与したほうが、相続税を払うより安い場合があります」

■4年間で6400万円を贈与する場合

有田さんに試算をしてもらった。パターン1は4年間で6400万円を贈与する場合。

「息子さんに300万円贈与すると、贈与税は15%マイナス10万円で35万円。暦年贈与分の110万円(非課税)を合わせて年に410万円を贈与するとしましょう。次に孫1人に200万円(税率10%=20万円)と暦年贈与分110万円(非課税)を合わせた310万円を贈与すると、孫4人の年間の贈与税は80万円。贈与税の合計は115万円となります」

これを3年間続け、4年目は息子に210万円、孫1人に310万円を贈与すると、親の財産は3600万円まで減る。

「西岡さんの場合、3600万円は基礎控除内なので、相続税はゼロ。4年間の贈与税額の合計は435万円。対策をしないと相続税は1220万円ですから、差し引き785万円の節税になります」

パターン2は、毎年の贈与を少なくした場合だ。合計800万円を毎年贈与したとすると、贈与税は年25万円、5年間で125万円。

「相続開始前3年以内の贈与は相続財産となるので、5年間で合計4000万円を贈与して、3年経過後にお父様が亡くなった場合、相続税は310万円。支払った贈与税と合わせても435万円。やはり生前贈与の効果がありです」

生前贈与するにあたって、注意すべきこともある。

「毎年、贈与契約を結んで書面にして残しておくこと。あと、振り込まれた証拠を残すために、通帳に履歴を残すことです。お金の管理は、贈与されたほうがしなくてはいけません」

家庭の事情に合わせ、最適な方法で生前贈与をすべきだ。もしも、今、西岡さんが家を買いたいと思っているのであれば、さらに選択肢は増える。

「その場合、住宅資金贈与が使えます。来年の3月31日までに売買契約すれば、非課税で最高3000万円まで贈与できるので、これも効果的です」

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有田美津子(ありた・みつこ)
ファイナンシャル・プランナー
大学卒業後、銀行入行。大手住宅販売会社、損保、メガバンクを経て、FPとして独立。年間150件以上の有料相談とともに、執筆・講演活動もこなす。

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■▼西岡さんのお父様・収入・支出

■▼1220万円の相続税が、生前贈与をすれば……

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遠藤 成(えんどう・せい)
フリー編集者
出版社を経て独立。運動とは無縁の人生だったが、40代後半にランニングにハマり、フルマラソンの自己最高は3時間42分。一番好きなランニング小説は『遥かなるセントラルパーク』(トム・マクナブ)。
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(フリー編集者 遠藤 成 写真=Getty Images)