夫の海外赴任に同行しており、1つの国に3年以上いることはありません。日本語教師の資格があり、すぐ仕事が見つかる反面、思う仕事に就けていないジレンマもあります(写真:マハロ/PIXTA)

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私の夫は海外赴任が多く、それに同行して、3年ごとに違う国に住むという生活を送っています。英語も不自由なく社会性もあり、国が変わっても日常生活には困らないのですが、思う仕事に就けていないことが悩みです。

日本語教師の資格があり、海外では割とすぐ仕事が見つかるのですが、1つのところに3年しかいないので、小さいスクールの非常勤などが関の山です。正社員では雇ってもらえません。結婚前は大学でフルタイムで教えていたのと比べると雲泥の差です。

日本語教師にこだわっているわけでもないんですが、資格があるのでパートでは職に就きやすく、またこれ以外にスキルもないので続けています。正社員になれそうな職があればすぐ転職したいですが、国をまたぐ引っ越しでは無理ですかね。何かアイデアあれば教えてほしいです。

パート 多田

何をするかという意味での「キャリア」に一貫性を

滞在国が頻繁に変わるという事情がこの先も変わらないという前提ですと、一貫したキャリアを積み重ねることで正社員として1カ所に継続勤務したのとさほど変わらないスキルと経験を身に付けることに注力するべきです。

ここで大事なことは、「一貫したキャリア」であり、「一貫した職場」や「同じ国」ではないということです。


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同じ国に長く滞在ができるのであれば、ほかにもさまざまな選択肢はあるでしょうが、滞在する国、すなわち勤務地という意味での「場所」が変わるという前提でいくと、何をするかという意味での「キャリア」に一貫性を求めるほうがよいでしょう。

どんな仕事に関してもそうですが、仕事とは、「どこで」「何をするか」で大きくは定義されます。

つまり「環境×スキルや経験」という掛け算ですね。

ここでいう環境とは勤務地や会社という場所や人間関係などを含めた外部環境のことであり、スキルや経験は自身に帰属する内部環境のことです。

仕事において成果を上げるためには、その双方、つまり環境と自身の持っているスキルや経験が合致することが重要であり、合致して初めて成果につながるのです。

どこかの職場で優秀であればほかの職場でも優秀であるという保証はありませんし、反対もしかりなわけです。

近年は昔に比べて転職のハードルが低くなっていますが、その転職において着実にステップアップしている方は「環境×スキルや経験」のうち、環境=職場は変えるものの、スキルや経験は自己投資を通じて磨き上げ、一貫したものを持っている方であるケースが大半です。

つまり、前職での経験を生かして、さらに活躍できる場所を求めて転職するパターンです。反対に転職でつまずいてしまう方に多いのは、環境=職場は変えるものの、自分を持っていないパターンです。何となく今いる職場で芽が出ないから、場所だけ変えてみよう、というパターンですね。

自分にとっての「価値の源泉」を磨き続けるべき

多田さんの場合はその方程式のうちの「環境」は変わらざるをえないわけですから、少なくとももう一辺については不変であることで、場所によらないスキルと経験を突き詰めるというのがベストな選択肢でしょう。

そうすることで国をまたぐ生活が一段落した際には、積み上げてきたスキルと経験をもって、より条件のよい仕事を探せる可能性も高まるというものです。

その積み上げてきた一貫したキャリアというものは、いわば多田さんにとっての労働市場にいける「名刺」のようなものです。

その名刺、つまり多田さん個人としてのバリューが高ければ高いほど、環境が変わった際の選択肢も増えるというものです。

現時点においても、そういった一貫したキャリアがあるゆえに、期間限定となってしまうものの、職を見つけることができているわけですから、その多田さんにとっての「価値の源泉」を今後も磨き続けるべきです。

その価値の源泉を磨き続けることによって、場所を選ばずに働ける職業人を目指すというのが今注力すべきことです。

そう考えますと、記載されているように「正社員になれそうな職」だから、という理由で今まで積み重ねてきた一貫性を犠牲にすることは選択肢としてはよくない、ということになります。

なお、国という場所が変わらざるをえないという前提で考えるのであれば、場所を選ばない働き方、例えばネット上で今までの経験を生かしたサービスを個人として展開してみるなど、いろいろなアイデアも出てくるはずです。

環境を不遇ではなく、チャンスとして捉えて

制限事項があるがゆえに、制限事項を踏まえたうえで現実的な選択肢を列挙できるという利点もあると思いますので、ご自身の置かれた環境を不遇として捉えるのではなく、チャンスとして捉えてみてください。

いずれにせよ、どのような形態や場所で働くにせよ、大切なことは一貫したキャリアに基づく価値を他人に感じさせ、与えることができるか否か、です。

そういった姿勢でご自身の今まで積み上げてきたキャリアをベースに今後何をすればより将来の選択肢が増えるかを考えてみてください。そこが将来展望への第一歩です。

多田さんが働く場所にとらわれず、ご自身という不変のものをベースに労働市場において価値を高めていかれるであろうことを応援しております。