[J1リーグ第31節]鹿島0-2川崎/11月9日/カシマ

 いったい、どちらが“鹿島”なのか、分からなくなるようなゲームだった。

 劣勢の時間を耐えて、ワンチャンスをモノにする。そんな試合巧者ぶりは断トツの20冠を誇る鹿島の特権でもあったが、常勝軍団のお家芸をやってみせたのは、カシマサッカースタジアムに乗り込んだ川崎のほうだった。

 鹿島の決定力不足に助けられた部分はあったが、それでも川崎は相手にペースを握られる展開でも、しぶとく守り、ゴールに鍵をかける。51分にはセルジーニョに決定的なシュートを浴びたが、間一髪で車屋紳太郎がブロック。鹿島の選手たちも思わず天を仰ぐ。

「後半の立ち上がりも、鹿島がかなりギアを上げてきているなって、圧力を感じていました。うまく反撃できればよかったですけど、我慢するところは我慢して、人数をかけてでも我慢しなければいけない、と。押し込まれてはいましたが、冷静に、周りを見ながらやれていたと思います」(谷口彰悟)
 
 我慢に我慢を重ねる割り切った戦いが報われたのが62分。家長昭博のFKに山村和也がヘッドで合わせてゴールネットを揺らし、あっさりと先制に成功。さらに71分にはカウンターから途中出場の長谷川竜也が加点。2-0の完勝を収めた。

 目下リーグ連覇中で、今季は悲願のルヴァンカップ制覇を達成。同大会の準決勝で退けた鹿島には、リーグ戦では1-1で引き分けた16年4月のゲーム以降、8戦負けなし(5勝3分)だ。ある意味、今の川崎には“常勝軍団”の風格が漂い始めている。

 クラブとして上昇カーブを描く川崎と、やや停滞感が否めない鹿島。現時点で両者を隔てるものはなにか。「そこまで大きな差はないと思います。本当に紙一重」と話す谷口は、さらにこう続ける。

「こっちはセットプレーのワンチャンスで点を取って、流れを変えた。逆に鹿島にもチャンスはありましたけど、ゴールラインぎりぎりで防いだシーンもありました。そういうチャンスをモノにしたか、していないか。本当に紙一重の差だと思います」

【鹿島 0-2 川崎 PHOTO】首位前線に異状あり。上位対決を制したのは川崎。敗れた鹿島は3位へ後退

 たしかに、鹿島に勝点3が転がりこんでもおかしくない試合だった。ただ、そんな“紙一重の勝負”を勝ち切れる強さが、今の川崎には間違いなくある。

「なんていうんだろうな……もちろん、ここからリーグ戦にかける想いもありますし、ルヴァンも制覇して、そういう決勝戦のような、“勝たないといけない”という勝負強さは、だいぶ身についてきていると思います。それを今日の試合でも、ある程度、証明できた。そこへの取り組みは、今年1年だけでなく、常にやってきていることなので。それが実を結びつつあるのかなと思います」(谷口)

 紙一重の差で相手を上回る勝負強さ。谷口は「言葉で説明するのはなかなか難しい」とは言うものの、その見解は実に興味深く、示唆に富むものだ。

「ここは逃してはいけないポイントだとか、そういったところを一人ひとりが分かってきているのかなとは、試合をしていても感じますね。今日もすごく球際に行ったりとか。でも、熱くなりすぎず、冷静にいなしたりもできている。頭はクールにというか。本当に細かい部分の積み重ねで、そういう戦いを続けてきて、それがだいぶ形になってきていると思います」

 シーズンは残り3節。首位FC東京との勝点差(5)と、消化試合がひとつ多いことを考えると、3連覇は相当に難しいミッションではある。ただ、チームは一歩一歩、着実に成長し、揺るぎない強さ手にしている。それを強く印象づける鹿島戦の勝利だった。

取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)