オリエンタルラジオ中田敦彦が次々とヒットを生み出す成功の秘訣とは?(画像:『中田敦彦のYouTube大学』より/YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=BPNuywa8kBA

オリエンタルラジオの中田敦彦のYouTubeチャンネル『中田敦彦のYouTube大学』が好調だ。9月4日には登録者数が100万人を突破して、10月16日現在はすでに132万人を超えている。芸人YouTuberとしては「カジサック」ことキングコングの梶原雄太と並んでトップをひた走っている。

『中田敦彦のYouTube大学』のメインコンテンツは、歴史、経済、インターネットなどさまざまな分野に関する入門的な講義である。毎回1つのテーマを取り上げて、それをわかりやすくかみ砕いて面白く伝えてくれる。中田という芸人の強みである「プレゼン力の高さ」が存分に生かされている。


歴史、経済、インターネットなどさまざまな分野に関する入門的な内容をわかりやすく伝える『中田敦彦のYouTube大学』のコンテンツ一覧(『中田敦彦のYouTube大学』より)

このチャンネルで扱うテーマは幅広いのだが、中田はもともと個々の分野に精通しているわけではない。毎回この講義のために猛勉強して新しい知識を入れて、それをアウトプットしているのだ。それだけで1本30分前後の濃密な内容の講義をほぼ毎日続けているのは驚くべきことだ。

中田敦彦が成功できた理由

このYouTubeチャンネルはもちろん、オリエンタルラジオの代名詞になったリズムネタ「武勇伝」、音楽ユニット「RADIO FISH」としてリリースした楽曲「Perfect Human」など、中田はこれまでにも世間を騒がせる話題作を手がけてきた。

そんな彼の成功の要因は、戦略的思考力と行動力にあると一般的には思われている。もちろんそれも間違いではないのだが、その根底にあるのは、彼のメンタルの強さだと思う。人並み外れて肝がすわっているからこそ、失敗することや批判されることを恐れず新しいことにどんどん挑んでいけるのだ。

ほとんどの社会人は、会社や業界の中にある既存のルールに従って生きている。なぜなら、そのほうが楽だからだ。そこで常識とされていることをいちいち疑ったり、それに逆らったりするのは面倒だし、他人に怒られたり嫌われたりするリスクもある。だから、無意識のうちにルールを受け入れてその範囲内で行動している。

芸人にも同じことが言える。プロの芸人の多くは「芸人の美学」という暗黙のルールの中で生きている。芸人とはこういうものだ、お笑いとはこういうものだ、こういうことをするのは芸人らしくない――。具体的な条文があるわけではないのだが、多くの芸人が従っている業界の不文律は確実に存在する。

「ルールに従わない」からチャンスをつかむ

だが、中田はそれに縛られない。むしろ、なぜルールに従わなくてはいけないのか、その外側にチャンスがあるのではないか、というふうに考える。だから、枠から一歩はみ出して、そこに活路を見いだすことができる。

例えば、オリエンタルラジオの出世作となった「武勇伝」は、「デンデンデンデ……」と歌って踊りながら2人が舞台に現れ、そのままリズムに乗って最後まで進んでいくという異色のネタだった。今でこそリズムネタというのはメジャーになったが、ここまで徹底してリズムをベースに敷いたネタというのは当時は画期的だった。

また、「Perfect Human」も、ネタ番組に呼ばれたのにあえてネタを披露せず、ダンサーを引き連れて歌とダンスのパフォーマンスを本気でやり切る、というおきて破りの行動から人気に火がついた。ネタ番組でネタ以外のことをやるのは芸人としては邪道であり、「逃げた」と思われても仕方がない。だが、オリエンタルラジオは見事にチャンスをものにして、「Perfect Human」は空前の大ヒットを記録した。

中田の最新刊『中田式ウルトラ・メンタル教本 好きに生きるための「やらないこと」リスト41』(徳間書店)を読むと、彼のメンタルの強さの秘密がわかる。この本では、中田流の「くじけないメンタル」と「冷静な思考」を手に入れるために、やってはいけないことが41項目に分けて述べられている。

内容としては「変化を恐れない」「まわりの評価を気にしない」など、ほかのビジネス書にも書かれていそうな項目も多いのだが、その説明の仕方に中田独自のクセがあり、読ませるものになっている。

中田は批判を恐れない。それどころか、自分にとって有益な批判は喜んで受け入れて、それを次に生かそうとする。批判されることで過度に落ち込んだり、感情的になったりしない。ここが中田とほかの芸人との決定的な違いだ。ほとんどの芸人には自分が守りたい「美学」があるので、批判を素直に受け入れられず、保守的になりがちなのだ。

中田はむしろ、有能な起業家のように、自身の活動を「仮説と検証のプロセス」と位置づけている。何かにつけて「試しにやってみよう。失敗した? はい、じゃあ次に行こう」という感じなのだ。一つひとつの失敗で傷ついたり、心を病んだりしない。

オリエンタルラジオのこれまでの活動を振り返っても、それは仮説と検証の繰り返しだったということがわかる。「武勇伝」で大ブレーク中の彼らが2008年に出したDVD『十』は、膨大な予算を注ぎ込んだコント映像集だった。もともとお笑いマニアだった中田は、ここで自分の映像作品をリリースするという夢をかなえていた。

同じく2008年には約80分ぶっ通しで漫才を演じるライブツアーを行い、「M-1グランプリ」を本気で目指した。だが、漫才は自分たちに合っていないと気づき、この道からは潔く撤退した。

その後も、若くして冠番組を持ってMCを務めたり、「しくじり先生 俺みたいになるな!!」から発展した『中田歴史塾』という中田メインの特番でプレゼン芸を披露したり、さまざまな試みを行ってきた。

「失敗を恐れない」メンタルの強さ

これだけのヒットコンテンツとなった『中田敦彦のYouTube大学』ですら、中田自身はそれほど思い入れが深いわけではないように見える。ヒットしたという事実も「へえ、そうなんだ」という冷静な目線で眺めているようなところがある。

おそらく、中田にとっては、ヒットさせることが目的なのではなく、「仮説と検証のプロセス」を回すこと自体が目的化しているのだ。企画を考えて、挑戦して、失敗して、また挑戦して、成功する。このサイクルを繰り返すこと自体が彼にとって楽しいことなのだろう。

中田敦彦という芸人の本当の才能は、戦略的思考力や行動力ではなく、失敗をいっさい恐れないメンタルの強さなのだ。