一生に一度であるはずの、結婚。

できれば妥協はしたくない。

だが経験者たちは口を揃えて、「どこか妥協した方が良い」と言う。

結婚するには、何かを妥協しなくてはいけないのだろうか?本連載では、その核心に迫る―。

先週は、妻の学歴を妥協した結果、モヤモヤを抱える男性を紹介した。今週は?




【File4:年収に固執していた女】

名前:麻里子
年齢:30歳
職業:歯科医院の受付
結婚歴:3年
旦那の職業:5歳年上の外資系法律事務所勤務

「私、ずっと婚活していたんです。だから今の夫である和人に出会えて、しかも結婚までできて。本当に嬉しかったんですよね」

『CICADA』のテラス席に着くなり、そう告白してくれた麻里子さん。20代の早い段階から結婚を視野に、ひたすら自分の条件に合うような、高収入で素敵な男性を探してきたという。

「元々、家がそんなに裕福ではなかったんです。貧乏ってわけではないけれど、いわゆるごく普通のサラリーマン家庭で、ブランド品なんて買ってもらえる訳もなく…。大学に入って出会ったお金持ちの同級生とかを見て、ものすごくコンプレックスを抱えていたんです。だから結婚する際に、年収だけは譲れない条件でした」

その宣言通り、ご主人の和人さんは外資系の弁護士事務所勤めの超エリート。

現在の年収は2,500万ほどだというが、優秀な和人さんは将来事務所のパートナーになれる可能性が濃厚で、そうなると年収は4,000万以上へと跳ね上がる。

赤坂のタワーマンションに住み、夫婦の愛車はベンツのSクラス。毎晩豪勢なディナーとまではいかないものの、年に2回は海外旅行へ行き、ある程度の物は買え、ストレスフリーな生活ができる年収2,500万の生活。

しかし、今の麻里子さんにはどうしても我慢できないことがある。

「夫の愛情を、感じられないんです・・・」


年収と引き換えに夫が失った、夫婦として大切なものとは!?


必死の婚活で手に入れた、高年収の夫


結婚前は、丸の内にある大企業で一般職として働いていた麻里子さん。

食事会の誘いも多く、周囲の女性たちも大半が、麻里子さんと同じように若くして婚活に精を出していた。

「同期の中には、25歳とかで早々に結婚していく子もいました。そして若いうちに結婚していった子は、総じて相手が裕福な人ばかり。一方で先輩たちは婚活に苦労しているのを間近で見ていたので、私も若さが武器にできるうちに良い男性と結婚したいと、必死でしたね」

とにかく“良い男性がいそう”な場には積極的に顔を出し、連日食事会へ繰り出す日々。

そんな中で会ったのが、和人さんだった。

「地味で大人しそうな人、という第一印象だったのですが、話してみると頭が非常にキレる人でした」

最初は彼にあまり興味はなかったものの、和人さんの仕事の話や周囲の人からどれほど彼が有能かという話を聞いているうちに、麻里子さんの中でスイッチが入った。

「この人と結婚したら、年収3,000万以上の暮らしは確定だな、と。そこから私も本気モードになり、一気にたたみかけました」




美人で、スタイルも良い麻里子さん。

そんな美女から猛プッシュされ、嫌な男はいない。和人さんと麻里子さんの交際がスタートするまで、そう時間はかからなかった。

「でも、交際してから結婚するまでは結構時間がかかりました・・・」

当時28歳で、仕事が猛烈に忙しかった和人さんには結婚願望がなかったのだ。

しかし麻里子さんは諦めずに“高年収の男性と結婚する”というゴールへ向かってひたすら突っ走った。

「最後は半ば強引に、婚姻届に判を押させました(笑)挙式はずっと憧れていた、ハワイの『ハレクラニホテル』で、指輪もクオリティーの高い1.2カラットの物を貰い。全てが私の理想通りで、これでずっと抱えていた一般家庭出身というコンプレックスから解放される、と思ったんです」

実際に、結婚してから麻里子さんの生活は一変した。

元々蒲田の家賃10万の所に住んでいたが、一気に赤坂のタワーマンションへとレベルアップ。タクシー代を計算しながら終電を気にして飲んでいたのも、結婚後は基本的にタクシー移動に。

買い物だって、自分で稼いだお金は全て自分で自由に使え、エステなどの美容にもお金がかけられる。

女友達との豪勢なランチも、SNSに載せると羨ましがられるようなアフタヌーンティーも、躊躇なく行ける。

しかし、今の麻里子さんはそれだけでは満たせぬ心の穴がある。

「最近、夫の帰りが遅くて・・・先日なんて、ずっと起きて彼を待っていたのですが、結局帰ってきたのは朝方でした」


何を得られるのが、幸せなの?ハイエンドな暮らしor夫の愛情


愛情のない夫と一緒にいる辛さ


「最初に違和感を感じたのは、婚約中のことでした。元カレとかと比べると、愛されていると心から実感できたことがないかもって…」

元々和人さんは、感情を表に出さないタイプ。それ故、愛情表現もなく、常に忙しそうでイライラしていることが多かった。

また和人さんには、そもそも結婚願望がなかった。それでも彼が結婚を決めたのは、麻里子さんへの愛情というより、親からの圧力や世間体を気にしての決断だったのではないか、と語る。

「でも、私はそれでも良かったんです。主人のことが好きだし、結婚できて本当に幸せだったんです」

しかし当初の違和感は結婚後、確信に変わってしまった。

「仕事が上手くいっていない時など、家でもピリピリしているし、私も話しかけられない状態になることも。そんな時、私はどうすることもできなくて、ただ部屋の隅で邪魔にならないように静かに過ごすと決めています」

そうやってひっそりと過ごしていると、和人さんの中に麻里子さんがまるで存在していないように感じることもあるという。

「結局、彼は自分しか見ていない。主人にとって、私の存在は一体何なのでしょうか…」

また結婚後の悩みは、それだけではなかった。

ここ最近になって、和人さんの帰りが急に遅くなったという。




「“どこへ行っていたの?”と聞いても、“仕事”の一点張りで。でも彼に稼いできてもらっているという負い目もある上、今の生活ができているのは主人のお陰なので、何も言えなくて」

好きな物を自由に買える生活は手に入れられた。

結婚したことによって、幼い頃から心のどこかにずっとあった、“お金持ちになりたい”という欲望も満たされた。

そして世間から羨望の眼差しで見られることも多くなった。

それなのに、麻里子さんの顔は晴れない。

何故なら、“浮気しているのかどうか”さえ聞けぬほど、夫婦関係は冷めきっているからだ。

「収入という条件面で見たら、和人は完璧です。でも彼から最後に触れられたのはいつだったか、思い出せないほど。そして彼から“愛してる”なんて言われたこと、今から振り返ると一度もないのかもしれません・・・」

収入という条件を必死に追い求めていた麻里子さん。

念願の高収入の夫は手に入れたが、女として大事な何かが満たされず、悶々としている。

「でも、この生活は手放したくないし、離婚もしたくない。だから今の結婚生活を、何としてでも維持しないといけないんです」

収入か、愛情か。

どちらを選ぶ方が、幸せなのだろうか・・・

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明日10月23日(水)は、人気連載『婚約破棄』

〜夫婦の離婚とも、恋人同士の別れとも違う、「婚約解消」という悲劇。絶望のどん底で、女が下す決断とは…?続きは、明日の連載で。





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