キリンが新たに発売するノンアルコールビール「キリン カラダ FREE」(撮影:梅谷秀司)

国内ビール販売シェア2位のキリンホールディングス(HD)が、現在市場3番手に沈むノンアルコールビールの強化に躍起になっている。

キリンHD傘下のキリンビールは10月15日、機能性表示食品のノンアルコールビール「キリン カラダ FREE」を発売した。同社は苦みを抑える効果と体脂肪を減らす効果がある「熟成ホップ由来苦味酸」成分を用いた「熟成ホップエキス」を自社開発。今回の新商品にこの熟成ホップエキスを使用した。

キリンの戦略商品「カラダ FREE」

キリンはこれまでに、機能性表示ノンアルコールビールとしては「パーフェクトフリー」なども販売している。だが、こういった商品は「脂肪の吸収を抑える」効果にとどまっていた。同社によると、200人の成人男女に新商品を1日1本、12週間飲用してもらった結果、おなかまわりの総脂肪(内臓脂肪と皮下脂肪)を減らす効果があったという。

「カラダ FREE」は、2021年度を最終年度とするキリンの中期経営計画に沿った戦略商品だ。中計では多角化戦略を掲げ、酒類・飲料事業の「食領域」と、傘下の協和キリンが手がける医薬事業の「医領域」を強化し、さらにその間にある「医と食をつなぐ事業」を新たに開拓する。今回の新商品はこの中間領域に攻め込む武器と位置付けられている。

キリンは9月、化粧品やサプリメントを手がけるファンケルを持ち分適用会社化した。健康意識の高まりや疾病予防の需要増加を見据えた動きで、今回のノンアルコールを含め、「今後も健康ニーズを開拓し、どんどん新商品を投入していく」(キリンビールの山形光晴マーケティング部長)という。

ノンアルコールビールは、サントリーホールディングスが7月に機能性表示を備えた「からだを想うオールフリー」を投入。サッポロも尿酸値を下げる効能のある機能性表示食品のノンアルコールビールを開発中だ。

ところが、国内ノンアルコールビール市場の規模はビール類市場の5%弱に過ぎない。ユーロモニターによると、2018年のビール類の販売量が約56億リットルだったのに対し、ノンアルコールビールは約2億6000万リットルにとどまる。販売額は約1兆8000億円のビール類に対し、670億円に過ぎない(2017年、富士経済調べ)。

ノンアルコールビール市場の先駆者だったが…

小さい市場であるにもかかわらず各社が傾注する理由は、市場が急速に拡大すると見ているからにほかならない。背景には、まず10月に実施された消費増税がある。ビールは消費増税の対象になり、駆け込み需要も起きた。一方、ノンアルコールビールは清涼飲料と同じ分類になり、軽減税率の対象となった。税率の差があることから、各社は今後ノンアルコールビールの需要が増えると見込む。

さらに機能性表示食品の市場は、健康志向の高まりに伴い、拡大傾向にある。富士経済によると、2015年に304億円だった機能性表示食品の市場規模は、2019年には2500億円を超える見込みだ。

そもそもノンアルコールビールの市場を拡大したのはキリンだった。2009年に、競合に先駆けてアルコール分0.00%のビールテイスト飲料「キリン フリー」を発売した。

それまで微量のアルコールが含まれていたノンアルコール市場(アルコール分1%以下の商品を含む)の中で、アルコール分が完全に含まれない商品は需要が高く、ノンアルコールビール市場における2009年のキリンのシェアは8割にのぼった。

その後、2010年にサントリー、2012年にアサヒグループホールディングスが新商品を投入し、キリンはまたたく間にシェアを奪われた。

2013年のキリンのノンアルコール市場のシェアは15.4%(ユーロモニター調べ、以下同)にまで低下。その後も巻き返すことはなく、2018年は15.1%にとどまっている。現在ノンアルコールビールのシェア1位を占めるのは、「ドライゼロ」を販売する最後発のアサヒで、2018年のシェアは39.5%だ。次いでサントリーが33.5%を占める。

初年度シェアに「あぐらをかいていた」

キリンがここまでシェアを落とした理由についてキリンHDの広報担当者は「発売初年に大きくシェアを占め、あぐらをかいていた」と率直に語る。サントリーやアサヒがキリンの商品よりも安い価格で参入しても、圧倒的シェアを理由に値下げを行わなかった。


P&G出身で、キリンのマーケティング戦略を担当する山形光晴マーケティング部長(撮影:梅谷秀司)

もう1つの理由が販促費だ。キリンは2009年にオーストラリアのビール会社を子会社化し、2011年にブラジルのビール会社を取得するなど、海外投資を優先させていた。そのため、当時で年間1000億円の酒類の販促費を投じていたアサヒグループHDに対し、キリンは年間800億円ほどにとどまっていた。

その後、2015年に就任したキリンHDの磯崎功典社長が海外事業を含め不採算事業の整理を進める。赤字化したブラジル事業は、買収からわずか6年後の2017年に売却されるに至った。

さらに、ノンアルコールビールは一般的なビールに比べて限界利益率が高い。富国生命によると、ビールは売り上げの約3分の1に酒税(350ミリリットルあたり77円)がかかるため、限界利益率は32%と低い。それに対し酒税のかからないノンアルコールビールは、限界利益率71%を誇る。規模が小さいとはいえ市場拡大基調のノンアルコールビールは、マーケティング分析でいう低シェアの「問題児」から高シェアの「花形」へ変わり、かつ、しっかり稼ぐポテンシャルを持っているというわけだ。

長い間シェアを失っていたキリンが、今再び本腰を入れるノンアルコールビール。高齢化でビールの消費量が減少する中、ノンアルコールビールは市場拡大の可能性を秘めている。ビールの代替品に留まらない、健康需要などの新たな飲用シーンをどれだけ消費者に浸透させられるかが課題だ。