鈴鹿サーキットは、世界中のどのサーキットよりも多くのトロロッソシャツがスタンドを埋め、熱心な声援を送ってくれる。彼らの地元モンツァよりも、どこよりもだ。

 ピエール・ガスリーも、地元フランスGPよりも多くの声援を受けることに、ただただ感動している。


ガスリーは大声援をバックに見事8位入賞を果たした

「僕らがシーズン中で最も大きな応援をもらうレースだし、走行が始まる前の木曜日でさえ大勢のお客さんが来てくれて、あちこちで応援してくれる。本当に特別なレースだよ。

 去年もものすごい応援をもらったけど、おそらくあれは僕がレースを始めてから今までで最も大きな応援を受けたレースだったと思う。日本のファンは本当に情熱的だし、応援にもそれが反映されているよね。だから、日本のみんなのためにポイントを獲りたい」

 スーパーフォーミュラを1年間戦ったこともあり、日本には特別な思いを持っているガスリーは、日の丸を大きく大胆にあしらったヘルメットを携えて鈴鹿にやって来た。

「トロロッソは日本GPに車体側のアップグレードを持ち込むので、その効果も楽しみだよ。日本のファンの前でいいパフォーマンスを発揮したいからね。去年だって、予選では6位・7位に入る活躍ができた。レースはイマイチだったけど、今年は予選と決勝をひとつにまとめ上げていい結果を手に入れたい。ホンダにとっても、日本のファンにとっても、特別なレースだから」

 ダニール・クビアトにはここ数戦、トラブルが相次いで満足に走れないレースが続いたが、チーム内の雰囲気はいい。アップダウンの激しかった昨年とは違い、今のトロロッソには中団グループのなかで着実にQ3進出とポイント圏内を争う競争力があるからだ。

 チーム内では、昨年の日本GPとスーパーフォーミュラ最終戦、そして今回で3度目の台風を鈴鹿に呼んだガスリーを「嵐を呼ぶ男だ」と言って、盛り上がる余裕があった。

 しかし、台風の影響で土曜セッションのキャンセルが早々に決まり、金曜のフリー走行だけでマシンを仕上げなければならなくなった。さらにFP1では、ガスリーのクルマに山本尚貴が乗り込むことが決まっており、ガスリーはたった1回のフリー走行(FP2)だけで予選に臨む、という難しい状況だった。

 それにもかかわらず、FP1で行なったアップグレードの評価をしっかり見極め、FP2では抱えていたアンダーステアの問題をしっかりと修正した。日曜午前に行なわれた予選では、きっちりとQ3に進出して9番グリッドを掴んでみせた。

「金曜のFP1で走れなくてFP2が唯一の走行セッションというなか、鈴鹿みたいな難しいサーキットで簡単なことではなかったけど、やるべきことはすべてやった。マシンもしっかりと仕上げて、本来あるべき場所につけることができたわけだからね。

 理想的な準備時間があったわけではないけど、FP2で9位、予選で9位、そして決勝では8位になれた。トロロッソにとっては、ここまでで最も完璧なレース週末だったと思う。エンジニアとの共同作業の進め方や、レース週末のなかでマシンをどう改良していくかなど、僕自身も進歩している」

 昨年の鈴鹿では予選で6位・7位に入る好走を見せたものの、決勝では失速してポイントは獲得できずに終わってしまった。予選寄りのセットアップにしすぎたことで、タイヤに厳しいマシンになってしまったことが原因だった。

 しかし、今年はその教訓をしっかりと生かし、予選でも決勝でも速いマシンに仕上げてきた。テクニカルディレクターのジョディ・エジントンはこう語る。

「FP1はまだ路面コンディションがよくなかったこともあって、マシンはアンダーステア傾向が強かった。その空力面とメカニカル面の問題はわかっていたが、我々は今回フロントウイングとフロアを持ち込んでいて、ダニーのマシンにそれを装着して、2台の比較テストでデータ収集を行なった。

 だから、どうすればアンダーステアが解消できるかはわかっていたんだが、データ収集のためにできるだけ2台をずっと同じ状態で走らせ続ける必要があったんだ。そんななかでも、ナオキはよくやってくれたよ」

 もちろん、アップデートも効いていた。

「今回のアップデートはそれほど大きなものではない。ラップタイムにして0.1秒程度だ。だけど、タイトな中団グループの争いのなかでは、そのわずかな差が生きてくる。マシンは着実によくなっており、メキシコとアメリカでもさらにアップデートを入れていく。チームとして、着実に進歩しているよ」

 レース終盤はサスペンションにトラブルを抱え、普段は余裕で全開走行が可能な130Rでもマシンがフラつき、「DRS(※)が開いたままになっているみたいだった」とガスリーは言う。だが、それでも巧みに後続を抑え込み、ポジションを守り抜いて8位入賞を手にした。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 レッドブルから降格された直後は納得できず、塞ぎ込んでいたガスリーだったが、トロロッソで再び走る喜びを掴み取り、すっかり見違えたように笑顔があふれるようになった。

 下された決定に納得しようとしまいと、今の自分がやるべきことはトロロッソで全力を尽くし、結果を示して未来を変えること――。そう言い切れるようになった。

「フランス語で『いくつもの星をきちんと並べなければならない』という表現があるんだけど、それは自分の持っているパッケージのすべてを最大限に使うということだね。レッドブル時代に『もっとこうできた』『もっとうまくやれた』と思うところもあるよ。でも、こういうことについて、あまり話したくない。

 今はトロロッソでのレースに集中したいし、自分たちの持っているパッケージの能力を最大限に引き出せるようにしたいから。今週末はまさにそれができたし、今後のレースでも同じようにできるようにしないとね」

 熱心な大観衆からどこのグランプリよりも大きな声援を受けたガスリーは、難攻不落の鈴鹿で力を最大限に出し切ることができた。残りの4戦ではさらにすばらしいレースを演じ、来季の躍進へとつなげてくれるはずだ。