月に1週間程度は自宅と異なる場所で暮らしたり、気軽に住む場所を変えたりできるサービスが活気づいている。複数の空き家やゲストハウスが定額で使い放題になるサービスが相次ぎ登場し、人気を集めているほか、ソフトバンクグループは敷金・礼金などの初期費用が不要の家具家電付き賃貸住宅にスマートフォン一つで契約できるサービス網を猛スピードで広げている。テレワークという場所に囚われない働き方が広がる中で、一つの場所に囚われない住み方も一般に広がるか―。(取材・葭本隆太)

「多拠点居住は当たり前の選択」
 東京都のIT企業に勤める小幡日出世さん(46歳)は月に1―2回、週末に都内の自宅を離れ、首都圏郊外の拠点で過ごすのが習慣だ。多様な拠点を楽しむが、最近は神奈川県北部の清川村によく足を運ぶ。「山があってきれいな川も流れていて気分転換に最適です。東京はあくまで仕事をする所。(そことは別に)自然豊かな場所で暮らすことは私にとって当たり前の選択です」と説明する。

 小幡さんが多拠点で生活するために利用しているサービスが「ADDress(アドレス)」だ。月4万円で札幌や別府、茅ヶ崎など全国25カ所(9月30日現在)の空き家や別荘が住み放題で利用できる。アドレス(東京都千代田区)が4月から試行的に展開しており、現在は30―40代を中心に約200人が利用する。10月下旬の本格展開を控え、募集会員数は数百人を予定するが、会員希望の登録者数は2500人を超える人気だ。

 会員は働く場所の自由度が高いフリーランスが多いが、小幡さんのような会社員も珍しくない。働く場所や住む場所を変えて気分転換したり刺激を受けたりする用途で使う。自然豊かな場所で子育てしたいが、移住には踏み切れない家族などの利用もあるという。

アドレスの佐別当隆志社長。定額住み放題サービス「アドレス」は地方暮らしに憧れる都心の若者などの受け皿として空き家を有効活用できると考えて事業化した。定額制(サブスクリプション)を取り入れた理由は「顧客が今まで見なかった映画との出会いを演出するネットフリックスのように、日本全国のあまり知られていないけどよい場所との偶然の出会いを生みたかったから」と話す。
 アドレスは空き家や遊休別荘を大家から借り受けてリノベーションし、Wi‐Fi(ワイファイ)環境や家具家電を整備して会員に転貸する。地域住民などに会員と地域の橋渡し役(家守)を依頼し、会員が地域と交流しやすくしている。佐別当輶志社長は「地方の人だからこそ知っている人や情報にアクセスできるなど、旅行では得られない環境を作りたい」と力を込める。

 KabuK Style(カブクスタイル、長崎市古川町)が4月にスタートした「HafH(ハフ)」も月8万2000円で多拠点が住み放題で楽しめる。全108拠点(9月30日現在)のうちギリシャやケニア、ベトナムなど海外に24拠点を備えた点が特徴だ。今年度中に海外だけで50拠点まで増やす計画という。文化や風習が異なる海外などに「住居」という足場を持ちながら働くことで個人が視野を広げられるサービスなどとして提案する。

 カブクスタイルの大瀬良亮共同代表は「今は会社ではなく個人が自らのキャリアを作っていく時代。ハフを通じて海外で働き、地元の人などと触れ合って刺激が受けられる環境を提供したい」と力を込める。

 ハフは提携するゲストハウスなどに会員を送客する仕組み。現在は固定の住居を持たずに拠点を変えながら暮らす「アドレスホッパー」の利用が中心というが、テレワーク導入企業の拡大などを追い風に会社員の利用を広げていく。

カブクスタイルの大瀬良亮共同代表。定額住み放題サービス「ハフ」を立ち上げた理由について「日本の賃貸住宅は例えばシングルマザーや同性同士、外国籍など特別な状況だと借りにくくなる。多様な価値観の人が自由に暮らせる社会の構築に向けて『住』に関わる一般的なルールを解放したかった」と説明する。今後は東南アジアを中心に海外の会員も募っていく。