「イトーヨーカ堂、そごう・西武の苦戦が鮮明」と苦渋の表情を浮かべるセブン&アイHDの井阪隆一社長(撮影:今井康一)

「イトーヨーカ堂、そごう・西武の苦戦が鮮明になっている」

セブン&アイ・ホールディングス(HD)の井阪隆一社長は10月10日、2020年2月期上期(2019年3〜8月期)決算説明会の冒頭でこう語った。

コンビニが業績を牽引

セブン&アイHDはコンビニ「セブン-イレブン」、GMS(総合スーパー)の「イトーヨーカドー」、百貨店の「そごう」「西武」など幅広い業態を持つ。

2020年2月期上期の営業収益は、イトーヨーカドーなどスーパーストア事業の減収を理由に、前年同期比0.9%減の3兆3132億円となった。一方の営業利益は、国内のセブン-イレブンで広告宣伝費を縮小したことなどを要因に、前年同期比2.8%増の2051億円となった。


2010年2月期以降、営業増益が続くセブン&アイHDだが、営業利益の多くを国内コンビニ事業に依存している。2020年2月期上期の国内コンビニ事業のセグメント営業利益は1333億円で、グループ全体の6割以上を叩き出す。

他方、祖業であるイトーヨーカ堂や2006年に2364億円をかけて完全子会社化したそごう・西武は採算性が低く、苦しんでいる。

イトーヨーカ堂は、需要が底堅い食品への注力や不採算店の閉鎖を進めてきた。2017年2月時点で171あった店舗は、2019年8月時点で158まで減少した。

中期計画の最終年度である2020年2月期に営業利益率1.3%、営業利益150億円を目標にしているが、イトーヨーカ堂の2019年2月期実績はそれぞれ0.38%と47億円。2020年2月期の会社予想も0.54%と65億円と、目標からほど遠い状態だ。

そごう・西武でも不採算店を撤退したり、他社へ譲渡している。かつて全国に30店舗を構えていたが、現在はその半分の15店舗しかない。しかし、2020年2月期の営業利益率1.8%、営業利益130億円の目標に対して、2019年2月期実績は0.53%と32億円。2020年2月期の会社予想は0.67%、42億円にとどまっている。

イトーヨーカ堂は1700人を人員削減

この厳しい状況を受け、セブン&アイHDは今回、さらなるリストラに踏み切ることを決断した。


西武池袋本店のように、強いブランド力を持つ店舗は数少ない(写真:東洋経済オンライン編集部)

イトーヨーカ堂では2023年2月期までに、自力再生が困難な33店舗について、グループ内リソースを使った立て直しや他社への譲渡など外部との連携、そして閉店を検討する。人員削減にも着手し、2019年2月末で7700人いる社員数のうち、2023年2月末までに1700人を減らす。

そごう・西武でも、滋賀の西武大津店など関西地方を中心とする5店舗の閉鎖と、西武秋田店や西武福井店の面積縮小を発表した。

今回閉店や規模縮小を決めた店舗の多くは、売上高のピーク時が20年以上も前だった。西武大津店は、1993年2月期に371億円あった売上高が2019年2月期には99億円まで減少している。西武秋田店と西武福井店も、ピークだった1993年2月期に比べて2019年2月期の売上高がそれぞれ25.3%減、54.7%減となっており、今後の店舗継続が懸念される水準だ。

そごう・西武も人員削減を打ち出す。2019年2月末時点で6660人の正社員と契約社員を抱えているが、2023年2月末までに1300人を減らす計画だ。この結果、2019年2月期に336億円だった人件費は2023年2月期までに86億円減る見込みだ。

今回公表したこういったリストラ策は、一見すると大ナタを振るっているように映る。だが、つぶさに検証すると、その踏み込みの甘さが目立つ。

リストラ策は現行中計と大きな変化はない

イトーヨーカ堂とそごう・西武で合計3000人というリストラには、定年退職による自然減と、セブン&アイHDのグループ会社への移籍が含まれる。イトーヨーカ堂やそごう・西武単体の人件費は削減されても、グループ全体で大きな合理化となるかは現時点では不透明だ。

そもそも今回のリストラ策は、現行の中期計画で進めていた内容から大きな変化がない。中期計画はイトーヨーカ堂で「首都圏や食品事業への重点化」を検討、そごう・西武で「首都圏基幹店への資産集中による選択と集中」を掲げていた。

この計画に沿い、イトーヨーカ堂では2017年3月から2019年9月までの2年半の間に16店舗を閉店してきた。今回新たに掲げた2020年3月から2023年2月までの3年間で33店舗の運営を見直すという計画には、グループ内での看板替えなども含まれているため、これまでのリストラ策から一段と踏み込んだとの印象はない。

そごう・西武でも、2017年3月から関西地方2店舗のエイチ・ツー・オー リテイリングへの譲渡に加え、西武船橋店と西武小田原店の2店舗を閉店してきた。つまり、2年半で4店舗撤退しており、今後の3年間で5店舗を閉店するというのは、決して大規模とは言えない。

セブン&アイHDは今回、大黒柱であるセブン-イレブンのテコ入れにも乗り出す。2019年に入って始まった24時間営業をめぐる騒動を通して、加盟店の人手不足だけでなく、本部へ支払うチャージ(経営指導料)の負担が重いため、加盟店が低収益にあえいでいる現実も浮き彫りになった。

今後追加リストラの可能性も

そこで、2020年3月から加盟店が本部に払うチャージを変更する。24時間営業店で、月の売上総利益額が550万円を超える店舗については月3万5000円を減額する。月の売上総利益が550万円以下の店舗については、現行の3%チャージ減額をなくすかわりに、月20万円を減額する。非24時間営業店でもチャージを見直し、この変更によって総額で年間約100億円の本部の減益要因になると、セブン&アイHDは計算する。

また、セブン-イレブンでも2019年9月から2021年2月にかけての1年半の間に、1000店の閉鎖やスクラップ・アンド・ビルド(立地移転)を実施すると発表した。ただ、今2020年2月期の閉店と立地移転は計750店を予定している。前期も同水準の規模を実施しており、セブン-イレブンの不採算店見直しも改革を加速するほどの規模ではない。

セブン&アイHDの井阪社長は、「加盟店のモチベーションを上げ、積極的な経営をしていただくことが、グループの中長期的な成長ドライバーになる」と話す。

稼ぎ頭のコンビニ事業で加盟店から得られる収益が減る中で、これまで不調だったイトーヨーカ堂やそごう・西武の改善は不可避だ。従前の取り組みで結果が生まれなかったことを考慮すると、今後追加リストラを迫られる可能性がある。