『水曜どうでしょう』というテレビ番組を知っているだろうか。北海道のテレビ局HTBが制作する旅をメインとしたバラエティ番組。今や大人気の俳優、大泉 洋が大学生時代から出演しており、2002年のレギュラー放送終了後も不定期に新作を発表。加えて、テレビ放送を順次DVD化して販売するというビジネスモデルをいち早く取り入れ、全国区の人気となった番組だ。

 

数年前から新作制作の噂が流れていたが、とうとう完成。2019年10月に開催されたイベント「水曜どうでしょう祭 FESTIVAL in SAPPORO 2019」およびライブビューイングでその第1夜、第2夜が先行上映された。どういった内容になっているかは箝口令が敷かれており、先行上映を見た人以外はわからないが、2019年12月25日からHTBで放送が開始されるという。非常に楽しみだ。

 


『水曜どうでしょう』D陣が腹を割って話した

僕はこの『水曜どうでしょう』が大好きで、何回も繰り返し見ている。何がおもしろいのかと言われると、「なんだかわからないけどおもしろい」としか答えられない。通常のテレビ番組と違い、ディレクター陣2人と出演陣2人というのが基本編成で、ほとんどカメラ1台で撮影。サイコロの出た目にしたがって移動を繰り返す「サイコロの旅」や、原付自転車(カブ)に乗って旅をしたり(ディレクター陣は自動車移動)、ユーコン川をカヌーで下ったり、ヨーロッパ20か国をレンタカーで回ったりと、一見旅番組のようだが、基本的に観光情報はなし。出演陣の移動に番組のほとんどを費やす、言わば「移動番組」だ。

 

おもしろいと思える要因はいくつか思いつく。大泉 洋のバツグンの対応力、大泉をあおるディレクター陣、企画はあるものの、本来の目的とはかけ離れて行き当たりばったりで進んでいく様子などなど。一言でここがおもしろいと言えるタイプの番組ではないのだが、何度見てもおもしろいと思えるのだ。

 

この番組を作っている二人のディレクター、藤村忠寿氏と嬉野雅道氏の対談形式で綴られた書籍が『腹を割って話した』(藤村忠寿、嬉野雅道・著/イーストプレス・刊)だ。

 

本書は二人が、どんな想いで『水曜どうでしょう』の制作をしてきたのか、そして二人の関係性、出演陣も含めた四人の関係性などについても触れられており、ファンならおもしろく読めるだろう。

 

 

大の大人が毎晩相撲を取るおもしろさは伝統芸能クラス

『水曜どうでしょう』では、大泉 洋と藤村ディレクターの言い争いというのが、ひとつの軸となっている。通常、ディレクターは裏方。テレビ番組の中で存在感はないものだが、『水曜どうでしょう』の場合、出演陣2人よりも大きな声でリアクションをし、ときには早食い対決をすることもある。

 

もちろん、藤村ディレクターは番組構成上、あえて出演陣(主に大泉洋)を煽って盛り上げているという面もあるし、それに大泉が乗っかることで番組が進行していく。これはお互いの信頼関係がないとできないことだろう。

 

東京から高知までをカブで行く企画『原付日本列島制覇 東京-紀伊半島-高知』という企画では、毎晩宿で大泉 洋と藤村ディレクターが相撲を取るという、よくわからないことが繰り広げられていた。これも特に決めていたわけではなく、自然発生的なものだったという。その様子を、嬉野ディレクターは「抱擁に近い張り手の応酬」と評している。

 

藤村 2人で叩きあって、2人で大笑いして、「じゃあ寝るか!」っていう(笑)。で、「今日もやったなあ……」って勝手に2人で満足しちゃって(笑)。

嬉野 まあとにかく、気を遣わなくてもいいっていう人がいるのは、ラクですよ。そういうラクな気持ちが、見るほうにも伝わるんですよ。

藤村 そうだね。

嬉野 気を遣う場面って、生きてるうちで多いじゃないですか。それの代わりに、気を遣わない男が2人、のびのびやってるっていう姿はね、そりゃ見てて楽しいでしょう。

(『腹を割って話した』より引用)

 

酔っ払った大の男が、旅館の一室で浴衣の上半身をはだけて、胸を真っ赤にしながら張り手を打ち合う。何がおもしろいのかと思われるだろうが、これがおもしろいのだから不思議だ。単なる酔っ払いの悪ふざけなのだが、それがおもしろいと感じるのはなぜなのか。

 

多分、この4人だからおもしろいのだろう。他の出演者やスタッフだったら、同じことをしてもおもしろくないはずだ。そういった意味では、もはや伝統芸能っぽさも感じられる。

 

 

また一緒に旅に出られる喜び

『水曜どうでしょう』は、4人の男と視聴者が一緒に旅をしているような感覚になれる番組だ。とある企画内で大泉 洋は「僕たちは旅サークルじゃないんだから」と言っていたが、まさに旅サークルのノリがある。大の男4人が、一応計画は立てつつも行き当たりばったりで旅をしている感じなのだ。

 

おそらく、それが心地よい。大人になると自由気ままな旅なんてあまりできるものではない。でも彼らは長年そんな旅をしており、その旅はまだ続いている。そして、その旅への同行を心待ちにしているファンが全国にいる。

 

僕もそのうちの一人。4人と一緒にまた旅に出ることができるのを、今から楽しみにしている。

 

【書籍紹介】

腹を割って話した

著者: 藤村忠寿, 嬉野雅道
発行:イースト・プレス

対話で綴る、もうひとつの『水曜どうでしょう』。番組を裏で支えるディレクター陣が、北海道の温泉宿で夜を徹して語り合った。これまで互いに知り得なかった根幹の部分に触れる、初の対話集。

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