電車に座って乗るために始発駅のある郊外へ引っ越し、という人もいるでしょう。しかし路線図や時刻表を見ると、東京23区内にも電車の始発駅はたくさんあります。都心に近くて楽に通勤できるオススメ駅を5つ選びました。

便利さで急浮上の始発駅「北綾瀬」「方南町」

「始発駅から座って通勤」。なんて魅力的な言葉でしょう。住宅の広告でもよく見かけるフレーズですが、「でも遠いんでしょう」と思いますよね。大手私鉄の路線図を見ると、主要路線は東京都を越えて隣県に達します。


駅ホームが延伸され、6両編成に対応した方南町駅(2019年9月10日、大藤碩哉撮影)。

 しかし、路線図を詳しく眺め時刻表を調べると、東京23区内にも始発駅はたくさんあります。そこで「23区内のオススメ始発駅」をピックアップしました。定義は「山手線の駅、または山手線内の駅に乗り換えなしで行ける始発駅」です。

 いま注目されている始発駅は、東京メトロ千代田線の北綾瀬駅(東京都足立区)と東京メトロ丸ノ内線の方南町駅(同・杉並区)です。どちらも2019年から都心への直通運転が始まりました。それまでは、短い支線の終端駅だったので大出世です。

 北綾瀬駅は1979(昭和54)年に開業しました。千代田線は1971(昭和46)年から綾瀬車庫を運用し、綾瀬駅と回送用の線路で結んでいました。その線路を営業運転してほしいという地元住民の要望で北綾瀬駅が誕生しました。ただし、運転区間は北綾瀬〜綾瀬間だけ。都心へ向かうには乗り換えが必要で、電車も短い編成でした。

 しかし、プラットホームを10両編成対応に延長し、2019年3月16日から代々木上原方面の直通運転を開始。現在、朝の6時〜8時台で25本中11本が直通運転、そのうち4本が小田急線にも直通します。日中も半分は直通し、所要時間は大手町まで26分、霞ケ関まで32分です。

 方南町駅は1962(昭和37)年に開業。元々、1駅隣の中野富士見町駅付近にある車庫の回送線を利用した路線です。営業する電車は、方南町駅と中野坂上駅を単純往復する2両編成でしたが、のちに3両編成になりました。しかし2019年7月5日、プラットホームを本線と同じ6両編成に対応した上で、本線に直通する電車が設定されました。

 現在、朝の6時から8時台で47本中16本が直通運転し、日中も3本に1本は直通します。所要時間は新宿まで11分、銀座まで29分。直通運転のほとんどが池袋行きですが、Uの字型の丸ノ内線では池袋へは遠回りになるため要注意です。

「西高島平」「蒲田」がオススメ

 北綾瀬駅と方南町駅のような終端駅は、折り返す電車が全部「始発電車」です。定義に該当する駅はほかに豊島園(西武豊島線)、西馬込(都営浅草線)、西高島平(都営三田線)、見沼代親水公園(日暮里・舎人ライナー)、荻窪(東京メトロ丸ノ内線)、浅草(東京メトロ銀座線)、豊洲(ゆりかもめ)、三ノ輪橋(都電荒川線)、新木場(東京臨海高速鉄道りんかい線)、蒲田(東急池上線・東急多摩川線)があります。

 このなかで筆者(杉山淳一:鉄道ライター)がオススメしたい駅は都営三田線の西高島平駅(東京都板橋区)です。都心からは少し離れますが、巣鴨まで22分、大手町まで35分。東急目黒線に直通する電車もあり、目黒線内は急行列車もあります。次点は都営浅草線の西馬込駅(同・大田区)。周辺は閑静な住宅街です。

 電車の車庫がある駅は、入出庫を兼ねた始発・終着列車が設定されます。大手私鉄やJRは東京近郊に大きな車庫を構えています。しかし、意外と23区内の車庫もあります。定義に該当する駅は、雪が谷大塚(東急池上線)、上石神井(西武新宿線)、中野(JR中央線、東京メトロ東西線)、蒲田(JR京浜東北線)、富士見ヶ丘(京王井の頭線)、高島平(都営三田線)、光が丘(都営大江戸線)、中野富士見町(東京メトロ丸ノ内線)、清澄白河駅(都営大江戸線)、京成高砂(京成線)、大島(都営新宿線)、東十条(JR京浜東北線)、王子神谷(東京メトロ南北線)、奥沢(東急目黒線)、桜上水(京王線)、成城学園前(小田急小田原線)、有明(ゆりかもめ)、新木場(東京メトロ有楽町線)です。

 このなかで筆者のオススメは蒲田駅(東京都大田区)です。JR京浜東北線は東京都心を南北に貫き、混雑度も高い路線です。そんな路線でも蒲田始発なら座れます。現在、朝の6時から8時台で東京方面60本のうち17本が始発電車です。また、横浜方面も6時台に5本の始発電車があります。東急電鉄の蒲田駅は池上線、東急多摩川線ともに始発駅。4方向に座ってアクセスできます。

折り返し運用駅は穴場かも…「押上」

 車庫がなくても電車が折り返す駅があります。直通運転の境界駅に多い事例ですが、同一路線の中間駅もあります。時刻表を調べないと見つけにくい穴場の駅といえそうです。定義に該当する駅は、笹塚(京王新線)、中目黒(東京メトロ日比谷線)、代々木上原(東京メトロ千代田線)、清澄白河駅(東京メトロ半蔵門線)、押上(東京メトロ半蔵門線・都営浅草線)、綾瀬(東京メトロ千代田線)、北千住(東京メトロ日比谷線)、成増(東武東上本線)、青砥駅(京成押上線)、竹ノ塚駅(東武伊勢崎線)、石神井公園(西武池袋線)、赤羽(JR埼京線、JR京浜東北線)、千川(東京メトロ副都心線)、上板橋(東武東上本線)です。

 このなかには、始発列車は設定されていても極端に運行本数が少ない駅もあります。たとえば上板橋は1本だけ、千川は2本だけ。鉄道会社のほとんどは各駅の時刻表を公開しているので、確認するとよいでしょう。


押上駅は、東京メトロ半蔵門線と東武伊勢崎線のほか、都営浅草線と京成押上線の直通境界駅(画像:写真AC)。

 筆者のオススメは押上駅(東京都墨田区)です。東京メトロ半蔵門線と東武伊勢崎線、都営浅草線と京成押上線直通運転の境界駅で、都心2方向へ座っていけます。半蔵門線で大手町まで16分、永田町まで25分。浅草線は線内主要駅停車のエアポート快特があり、日本橋まで10分、新橋まで15分。さらに京急電鉄に直通し、羽田空港国際線ターミナルまで42分です。また、郊外方面では、京成押上線で成田空港行きアクセス特急の始発電車が朝6時台に1本あります。

 どの駅も始発電車に乗るために並ぶ人が多く、必ず座れるとは限りません。しかし、「早く目的地に着くため立って行く」または「次の電車を待って座る」を選べます。「ふたつの利用法を選べる」が始発駅のメリットと言えそうです。