肌の衰えは第一印象にダメージを与えます(デザイン:小林 由依)

スキンケアに気を遣うのは女性だけ」という考え方はもはや古い。今、国内で男性用化粧品市場がじわり拡大している。富士経済の調査によれば、2008年に1000億円に満たなかった市場規模は、2020年に1200億円近くに到達する見通しだ。

中でも伸びを牽引しているのが、化粧水や日焼け止めなどのスキンケア製品だ。従来から男性向けシリーズを展開している資生堂やマンダムなどに加え、2018年には女性向けで絶大な人気を誇るポーラ・オルビスホールディングス傘下の「THREE」、今年に入って富士フイルムの「アスタリフト」も男性向けラインを投入した。

若年層のみならず、肌の老化を気にし出す中年層からの需要も高いのが特徴だ。一緒に働く女性の増加により、男性のエチケット意識が高まっていることなどが背景にあるといわれる。『週刊東洋経済』は、10月12日(土)発売号で、「ビジネスに効く 最強の健康法」を特集している。

若々しい肌を手に入れることは、自信をつけ、仕事での第一印象を上げるうえでも大きな意味がある。それでは、男性が美肌を手に入れるためにすべきこととは何なのか。「ギャツビー」、「ルシード」などの男性向け化粧品ブランドを持ち、15年前から延べ1400人以上の男性の肌を検証してきたマンダム基盤研究所の研究員、山口あゆみ氏に話を聞いた。

男性が肌を気にし出すのは40歳前後

――女性の場合、ファッション雑誌などを読むと20代後半くらいからアンチエイジング対策が推奨されていますが、男性が肌の老化を気にし出すのはいくつからなのでしょう。


女性の場合、つねに肌の状態を気にして生活している人が多いので、若いうちから老化が気になり出します。一方、男性が気にし出すのは40歳前後といわれています。ふと鏡を見たり、同窓会に参加したりしたことなどをきっかけに、「急にシワが増えたなあ」と。私たちの調査でも、男性の顔データを収集して平均した「標準顔」を出しても、肌の防御機能が衰えてくる30代から40代にかけて初期老化が急に進んでいることがわかります。

――そもそも、肌が老化するとは、具体的に何がどう変化しているのでしょう?

まず目元のシワが目立ってきます。目頭の下から頬にかけてのブルドッグのようなシワ、「笑いジワ」とも呼ばれる目尻のシワなどが代表的です。シワの深さを測定すると、40代から急に目立ち始めて、その後どんどん深く刻まれていきます。

男性に特徴的なのが、肌の色が赤黒くなっていくこと。私たちの調査で、過去同じ人物の肌の色だけを変えた画像を見てもらい、若々しい印象を比較したことがあります。すると、色が明るいほうが若々しさは増しました。つまり、人が相手を見て抱く「若々しい」という印象は、肌の色の明るさに左右されるということです。ちなみに女性の場合は、老化に伴い肌の色が黄味を帯びていきます。

【2019年10月15日17時30分追記】初出時から若々しさにかかわる表現を一部見直しました。


山口あゆみ(やまぐち あゆみ)/1995年大阪教育大学教育学部教養学科自然研究専攻物質科学コース卒業、株式会社マンダム入社。毛髪評価、官能評価などの業務経験を経て、2004年からスキンケアの基盤研究に従事、現在に至る

それから、頬から顎にかけての肌表面の凹凸も増加します。20代のころはツルリとしていた肌が、40代になると「メロンパン肌」と例えられることもある、凸凹して、押しても弾力のないゴワゴワした感触になります。

極めつけは、おでこから鼻にかけてのギラつきです。女性は30代になると肌の油分が減少してカサカサしてくるのに対して、男性の場合は50代でも皮脂量が多くなります。加齢に伴い肌のキメが粗くなるので、仮に皮脂量が同じでも、若い頃より視覚的にテカテカして見えます。こうした男性の肌は、いわば1つの島に油田と砂漠が共存しているようなものです。こうした変化が、30代から40代にかけて急激に進みます。

――4つの特徴を脳内で合成すると、典型的な「おじさん」の顔になります。ただ、刻まれたシワから貫禄が醸し出されるなど、老化によるメリットもあるのではないでしょうか。

いいえ。老化した肌が与える印象は、デメリットのほうが多いです。2005年と2016年に撮影した29歳から53歳の同一人物(男性)15名の顔画像を、男女92名に見てもらい、22項目にわたって印象の評価をしてもらったことがあります。

結果、10年前と比べて増加していた印象は、上から順に「疲れている」「イライラしている」「神経質そう」「ケチそう」でした。「ダンディー」「仕事ができそう」「知的な」などの印象も増加していて、これは貫禄が出てきた、ということかもしれないのですが、残念ながら増加度は前の4つより低かった。

一方、10年前より低下していたのが、上位から「若々しい」「明るい」「親しみやすい」「健康的な」印象。「明るい」「親しみやすい」といった印象はその人の性格に関するものですが、これが顔の画像だけで左右されてしまうのが特徴的です。

何とか肌の老化に歯止めをかけるには?

――ショッキングな結果です。何とか、肌の老化に歯止めをかける方法は?

できてしまったシワを完全に消したい、となれば美容整形の領域に入りますが、毎日の習慣に取り入れることで改善が期待できることもあります。男性の場合、生理的な老化にプラスアルファして、老化を加速させる原因が2つあります。日焼けとひげ剃りです。


(出所)『週刊東洋経済』10月19日号(10月12日発売)

女性も日焼けはしますが、ファンデーションを塗る習慣がある人は、これが紫外線をブロックする役割を担うので、男性のほうが受けるダメージはより深刻です。具体的には、以下の3つを毎日の習慣に取り入れてみるといいでしょう。

まず、ひげ剃りの時にできるだけ肌へのダメージを少なくするようにすること。ひげ剃りの際、ひげと一緒に肌の表面も削られます。削られた肌は再生しようとしますが、その度に硬くゴワゴワしてきます。

「メロンパン肌」はその成れの果て。水で濡らしただけのT字カミソリで、毛の流れに逆らってゴリゴリ力任せに剃るなど、言語道断です。ジェルをつけ、毛が生えている方向にそってやさしく剃りましょう。最近は、「肌にやさしい」ことをうたう電動シェーバーの品数も充実してきたので、こうしたものを選ぶのもいいでしょう。

ひげ剃り後は、すぐ保湿することです。保湿といっても何をつければいいかわからない、という初心者はまず、化粧水だけでもOK。保湿をすれば、肌が本来もっているバリア機能を整えることにつながる。基本中の基本です。

――何を選べばいいのかわからない、という方もいます。

使用感の好みなどは人によってばらつきがあるので、まずはドラッグストアに行って、1000円程度で男性用をうたう化粧水を手に取ってみるといいでしょう。もうちょっと保湿感が欲しい、という場合は、乳液を使うのもいいです。

日焼けの肌は加齢に伴って戻りにくくなる

――紫外線対策は?

なんといっても日焼け止めを塗ることです。日焼け止めのパッケージには、紫外線防御指数を示す「SPF」が記されていますが、これが高いほど効果は高いということになります。ゴルフやランニングなど、屋外で長時間活動する際は、「SPF50」を選ぶと安心ですが、含有されている成分が、肌に負担をかけてしまう場合や、重たく感じてしまう場合もあります。

したがって、通勤や外回りなど、短時間の外出なら、SPF30前後で十分といえます。もっとも、汗や摩擦で日焼け止めは落ちてしまうので、外出前に塗ったら、持ち歩いて塗り直すといいでしょう。最近は、乳液の中に日焼け止め成分が含まれているお手軽なものもあります。

ちなみに、過去の経験から「1度真っ黒に焼けても、冬になると自然に白くなっているから、そこまで神経質に対策しなくても大丈夫」と思っている人もいるかもしれません。加齢に伴い新陳代謝が悪くなるため、日焼けした肌の色は、だんだん戻りにくくなっていきます。

――飲酒や喫煙の習慣が肌に悪いという話も聞いたことがあります。

過去に調べたことがありますが、その際の調査からは明確に影響があると確認できるデータが取れませんでした。やはり紫外線やひげ剃りの影響のほうが大きい。ただ、たばこを吸うと血流が悪くなることは確かなので、少なくともよい影響はないのではないでしょうか。

『週刊東洋経済』10月19日号(10月12日発売)の特集は「ビジネスに効く 最強の健康法」です。