駅のホームで電車を待っている時、あなたは何をしているだろうか。スマホを見て時間をつぶす――という人も少なくないはずだ。

今となっては当たり前の光景だが、そんな若者たちに見てほしいと言わんばかりの広告がツイッターで話題となっている。


どこかで聞いたような...(画像はみやさこなおすみ@fishaction1さん提供)

「向かいのホーム スマホ世代が
こんなところ 見るはずもないのに」

どこかで聞いたようなフレーズ...。そう、これは歌手の山崎まさよしさんの名曲「One more time,One more chance」(1997)の歌詞のパロディー。広告主は西鉄自動車学校(福岡県大野城市)だが、特に自動車学校のアピールをすることもなく「とにかく見てほしい」ということしか伝わらない。

思わず口ずさんでしまいたくなるこの広告を撮影したのは、ツイッターユーザーのみやさこなおすみ(@fishaction1)さん。2019年9月27日に「皮肉の利いた山崎まさよし」との一文をつけて投稿したところ、大きな注目を集めることになった。

ほかのユーザーからは、

「卒検落ちても、ワンモアチャンス」
「バズった結果スマホ世代にも届くことになる流れエモい」
「これは秀逸なコピーですね」

といった声が寄せられている。

いったいなぜこのような広告を作ったのか。Jタウンネットは10月1日、西鉄自動車学校の広報担当者と制作者に話を聞いた。

「普通のデザインだと目につかないので」

西鉄自動車学校の広報担当者によれば、この広告は18年6月、西日本鉄道の紫駅(筑紫野市)に設置された。駅の近くにある高校生をターゲットとしたもので、斬新なデザインに関しては、

「配布用のうちわやクリアファイル含め、普通のデザインだと目につかないので面白いものを作っています。(西鉄自動車学校の)周りが大きな自動車学校3校に囲まれているので、目を引くものを...」

と話している。

たしかに普通の広告では、ここまで話題にならなかったかもしれない。Jタウンネットは考案者ある西鉄エージェンシー・コミュニケーションデザイン局の松尾昇さん(28)にも話を聞くことができた。

西鉄エージェンシーは西鉄自動車学校と同じく、西鉄グループの広告代理店。松尾さんがデザインを考案するにあたって紫駅のホームを見た時に、スマホを見ている高校生の姿が象徴的だったという。

「パッと看板が目についた時に自分の状況と重なるような、しかも向かいのホームっていう歌詞のシーンと全く同じようなところで、面白いと思ってもらえるんじゃないかなと思いました」

「One more time,One more chance」が思い浮かんだのは、特別山崎まさよしさんのファンだからというわけではない。その曲自体は好きだというが、どちらかというと松尾さんの「お笑い好き」が影響しているという。

お笑いコンビ・チュートリアルが2006年のM-1グランプリで披露した漫才に、同曲をもとにしたやり取りが含まれていたこともあって、今回のデザインに至ったとのことだ。

チュートリアルの漫才は、徳井義実さんが盗まれた自転車の「チリンチリン」(ベル)を延々と探していたという話。当時を振り返る中で、徳井さんが、

「俺すぐあちこち探しに行ったよチリンチリンを。街の路地裏も!交差点も!駅の隣のホームも!そんなところにいるはずもないのに!!」

と叫び、福田充徳さんが「山崎まさよしやん。あんな名曲を引用すな」とつっこむくだりがある。

チュートリアルはその年のM-1で優勝、山崎さんの曲が使われた漫才ネタはネット上でも好評だ。

SNSでの反響は計画通り?


たしかになんか切ない

広告はツイッターを通じてスマホ世代に届く形となり、松尾さんもエゴサーチにより広告が話題になっていることに気づいていた。そんな「皮肉」もあって話題となったことについて松尾さんは、

「見るはずもないのにと書きつつ、見てほしいと思ってたので。企画してた時にこうなって欲しいなって思ってたのになってくれたのが嬉しいです。投稿者の方のワードのセンスもすごくよかったですし、写真の撮り方も線路が写ってて切なげな感じになってたのがバイラルのきっかけになったと思います」

と話している。設置して1年以上経つが、今回のように大きく話題になるのは初めてということだ。

「One more time,One more chance」は2007年にリニューアル版を発売、2018年に公開された俳優の山田孝之さんと女優の長澤まさみさんが主演を務める映画「50回目のファーストキス」の挿入歌にも起用されるなど、長きにわたって愛されている。

ツイッターでは「自動車学校行くようなスマホ世代は山崎まさよしを知らない」といった声もあるが、もちろんそういう生徒もいるだろう。この広告を見てこの曲を好きになる...そんなスマホ世代もそのうち現れてくるのかもしれない。