アメリカ・サイパンへ、初の定期国際線の就航を決めたスカイマーク(撮影:尾形文繁)

中堅航空会社のスカイマークは9月19日、年内をメドに成田発着でアメリカ・サイパン島へ週7便の定期路線を開設すると発表した。1996年の設立以来、スカイマークにとって初の定期国際線となる。

「待ちに待った直行便就航。デスティネーション(就航先)にサイパンを選んでくださったスカイマーク航空に深く感謝しています」。サイパン島をPRするマリアナ政府観光局からは喜びの声が上がった。

5年ぶりの成田空港乗り入れ

具体的な就航日などは認可後に決まるが、機材は177席の小型機・ボーイング737型機(B737)を使う予定だ。

今夏のスカイマーク臨時便を用いたサイパン旅行パック(3泊4日、楽天トラベル)は1人あたり7万〜11万円程度。旅行予約サイト大手のエクスペディアでグアムへの他社直行便が往復4万〜8万円程度(今年10月初旬の週末)のため、運賃はこれらの範囲内とみられる。

サイパンはフィリピンの東2600キロに位置するビーチリゾートで、日本からは飛行機で3時間半の距離にある。近年は出張需要の大きい路線を重視した航空各社が相次ぎ撤退。日本からの直行便は2018年5月にアメリカ・デルタ航空が運休してから空白となっていた。

スカイマークは「ブルーオーシャン」状態のサイパン路線に乗り入れることになるが、注目は、スカイマークが定期便を持たない成田へ5年ぶりに乗り入れることだ。航空会社の経営は、拠点空港を設定し、そこからさまざまな地点へ就航することで効率的に機材を活用するのが基本だ。スカイマークは羽田と神戸を拠点空港にし、1日約160ある自社便の大半が両空港を発着する。

スカイマークは今回のサイパン就航と同時に、すでに複数路線が就航している中部国際空港と成田を結ぶ路線を週2便、中部圏からサイパン線への送客という名目で新たに開設した。とはいえ、サイパン線を毎日運航するのに対し、中部線は週2便しか飛ばない。そのためサイパンから帰ってきた機材は、再びサイパンに飛ぶ時間まで「待ちぼうけ」を食らうことが多くなる。

スカイマークはなぜ、機材繰りの不便な成田―サイパン線の開設に打って出るのか。その背景には、自社が貫いてきた路線戦略の限界がある。

東証1部に上場していたスカイマークは2015年、無理な拡大戦略がたたって経営破綻。上場廃止となり、投資ファンドのインテグラル傘下で経営再建を進めてきた。会長にはインテグラル代表の佐山展生氏、社長には日本政策投資銀行でエア・ドゥなど航空会社の再建を担った市江正彦氏が就任した。

フルキャリアでもLCCでもない航空会社に

新経営陣が進めたのは、日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)のようなフルサービス航空会社(フルキャリア)とも、成長著しいLCC(ローコスト航空会社)とも競合しない「第3極」ポジションの確立だった。具体的には、LCCからは運航ノウハウ、フルキャリアからは顧客サービスを取り入れる。


【2019年9月30日11時45分追記】初出時の上記図表の単位「インチ」を「センチ」に修正いたします。

経営破綻前はエアバス機とボーイング機を併用していたが、現在はB737の1機種だけで運航。座席数が少ないため空席リスクが減り、機種ごとに異なる交換部品の調達やパイロット・客室乗務員の訓練といったコストも減らすことができた。これは、ピーチ・アビエーションやジェットスター・ジャパンなどのLCC各社が用いている。

サービス面では、フルキャリア並みを目指している。LCCで70センチ台前半の座席ピッチは約80センチと、フルキャリアのエコノミークラスに並ぶ水準のゆとりある設計を実現。LCCでは有料の手荷物預けも、20キログラムまで無料だ。一方で、フルキャリアの主要機材が標準装備する機内モニターは一切設置せず、最低限のサービスや設備へ絞り込んだ。

さらに、手堅い需要が見込め、経費で搭乗するために単価が高い出張客の利用促進を図るなど、定時運航率の向上に向けた地道な施策を続けた。その結果、破綻前に80%台前半だった定時運航率は、2017年度からは2年連続で国内線の定時運航率第1位(93.9%)を獲得。JAL(89.9%)やANA(90.5%)を上回った。

こうした施策で、運賃はJALとANAの運賃(2018年度の国内線旅客単価)が約1万6000円、LCC大手のピーチやジェットスターなどが約8000円なのに対し、スカイマークは約1万2000円に位置する。

フルキャリアより安いがLCCより高い運賃を確保できたことで、業績は急回復。破綻時の2014年度は売上高809億円、営業損失176億円だったが、2018年度の業績は売上高882億円、営業利益72億円とV字回復を果たした。観光や航空業界に詳しい共栄大学の稲本恵子教授は「フルキャリアでもLCCでもないビジネスモデルを確立し、新たなマーケットを創出した」と分析する。


見えてきた成長の限界

復活を遂げたスカイマークは現在、2020年9月までの再上場を目指している。だが、業績は急回復したとはいえ、売り上げの伸びは緩やかで、市場の期待が集まるほどの成長株と言い切れない状況が続いている。

原因は、スカイマークの拠点である羽田と神戸の両空港が抱える事情にある。羽田は都心からの使い勝手がよく、高い単価と座席利用率が見込める「ドル箱」路線だが、世界でも指折りの混雑空港で発着枠が逼迫し、増便の余地が小さい。

一方の神戸は隣接する関西空港の周辺自治体が利用減少を懸念し、いまだに国際線就航の是非を議論している。2025年までの国際化を目指しているが、現在のターミナルはキャパシティーが小さく、当面は期待できない。

拠点空港における成長加速が見込めない中、スカイマークが目をつけたのが成田だ。羽田と比べ、成田には発着枠にまだ余裕がある。さらに国内屈指の国際空港であるため、自社国際線の展開はもちろん、今後国内線を拡大すれば膨大な乗り継ぎ需要が見込める。

成田―神戸線開設の可能性についてスカイマークは、「マーケットの動向を見極めながら路線展開を行っていく」としている。今回のサイパン線開設で駐機代や新たな支店の人件費がかかるが、それは再成長に向けて「成田で運航するためのコスト感覚やノウハウを蓄積するための先行投資」(稲本教授)でもあるのだ。

それだけに、サイパン線の成功は必達目標だ。日本からの直行便消滅の影響で、サイパンを中心とする北マリアナ地域への日本からの旅行者数は2000年の38万人から、2018年には3万人弱まで激減している。サイパン就航を皮切りに、再上場を控えたスカイマークは停滞から抜け出すことができるのだろうか。