ずっと演劇が好きだった。小さい頃から叔母に手を引かれ連れていってもらった劇場の数々。目の前に広がるエンターテイメントの世界に、胸はいつもはちきれそうだった。

そして、高2の冬、東京・下北沢の小さな劇場で観た1本の芝居が、彼の人生を変える。役者になりたい。自分も舞台の上に立ちたい。その衝動を、人は「夢」と呼んだ。

役者・松田凌。2012年、ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇で初舞台にして初主演。寡黙な一匹狼・斎藤 一を堂々と演じ上げ、以降、舞台『メサイア』シリーズや舞台『K』シリーズ、ドラマ・舞台『男水!』など、2.5次元舞台人気の担い手のひとりとして活躍。今では2.5次元という枠を超え、さまざまなジャンルの作品に切れ目なく出演し続けている。

夢を叶えた今も、彼にとって下北沢という街は特別な場所だ。この街の空気は、どこが他の街と違うと語る。愛する演劇や音楽の匂いが息づいていて、夢を追う者たちに温かくて、街角に貼られた公演中のポスターも、演劇人御用達という名物中華料理屋も、目に映るすべてのものが彼の心をときめかせる。

そんな街で語る、まだ自分が何者でもなかった頃のこと。これは、「役者・松田凌」が産声をあげる前夜の物語だ。

撮影/すずき大すけ 取材・文/横川良明
スタイリング/ヨシダミホ ヘアメイク/大島千穂
撮影協力/ザ・スズナリ、観劇三昧 下北沢店

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