名古屋グランパスの風間八宏監督が解任された。名古屋と言えば浦和同様自動車会社が親会社的な役割を果たしている金満クラブ。費用対効果を考えれば、適正なポジションは最悪でもJ1の中位から上位になる。常時優勝争いに絡んでいるべきチームだが、現在の勝ち点はわずか31。降格プレーオフ圏の鳥栖とは4ポイント差だ。
 
 開幕するや好スタートを切り期待感を抱かせたが、2位で迎えた13節(5月26日)に、その時13位だった松本山雅にホームの豊田スタジアムでまさかの敗戦を喫すると、ズルズルと後退。そこから1勝4分9敗(勝ち点7)という恐るべき不調に陥り、現在に至っている。順位こそ11位だが、14節以降の成績に限れば、どん底に喘ぐ最下位ジュビロ磐田(この間、1勝3分10敗=勝ち点6)といい勝負だ。

 早い話が、どうにもならない状態に陥っていたわけだ。解任は当然だろう。しかし繰り返すが、この不調はいまに始まった話ではない。4ヶ月前から数字に表れはじめていた。問題視したくなるのはそれからここまでの期間の過ごし方だ。風間監督の采配やそのサッカーの中身、方向性について、異を唱えた人はどれほどいるだろうか。常時、試合のみならず練習や記者会見などを取材している地元メディアは、何を報じてきたのだろうか。

 解任が決まればおそらく、後追いで問題点をあぶり出すようなニュースが出るのだろうけれど、それは結果論で、改善を要求するものではない。つまり愛を感じない報道なのだ。見て見ぬ振り、あるいは見過ごしてきた可能性が高い。

 監督は成績がでなければクビになる。それがサッカーだ。風間監督と言えば、日本の監督の中では上位に位置する監督で、川崎フロンターレの監督を辞めた頃は、ハリルホジッチのサッカーに陰りが見え始めていたタイミングと重なったこともあり、代表監督に推す声も高まったほどだ。その監督に何かを言い出すにはそれなりの勇気が必要になる。しかし、そうは言ってもこの成績だ。4ヶ月間でわずか1勝しかできない惨状を見逃していいはずはない。心配したくなるのは風間監督の采配より、むしろそちらの姿勢になる。

 このネットの時代、後追いは楽だ。こう言っては何だが、パンチが弱いので人目に付きにくい。ページビューは伸びにくい。伸びやすいのは言い出しっぺだ。1勝4分9敗のタイミングではなく1勝2分4敗になった時点で、これはおかしいと異を唱えれば目立つ。炎上するかもしれない。炎上と言えば人聞きのよくない状態に聞こえるが、これがないと世の中は健全に回っていかない。少なくともサッカーには必要不可欠な、サッカーらしい状態と言うべきだろう。

 名古屋グランパスに限った話ではない。今季ここまで監督解任劇は何度あっただろうか。浦和レッズ、サガン鳥栖、清水エスパルス、ヴィッセル神戸、ジュビロ磐田。計6クラブに及ぶ。これは全体の3分の1に相当する。神戸と磐田に至っては2度も発生している。

 さらに言えば、チョウ・キジェ監督のパワハラ問題が取り沙汰されている湘南ベルマーレも、現在コーチがその座を代行しているので、この仲間に加えてもいいのかもしれない。

 サッカーほど監督解任劇が発生しやすい競技も珍しいのである。13節まで2位を走っていたクラブの有名監督でさえ26節でクビになる。それがこの世界の特性だ。常に目を凝らし、おかしいと思ったことが起きたら、即反応する。この姿勢がないと、置いていかれることになる。

 だがJリーグの現実は、監督解任劇の大半が、騒動が起きることなく静かに行われている。解任劇は外国と同様、頻繁に起きるが、外国のような騒ぎにはまったく発展しない。問題点が浮き彫りになることなく次に進んでいく。Jリーグはとても健全とは言えない不自然な状態にある。そして原因のほとんどはメディア側にある。監督ではない。