ハンバーガー探求家・松原好秀が、主食としてじっくり味わえる、とっておきのハンバーガーを紹介する連載の第4回は、他店オーナーも大絶賛の「アイレット」でガブリ!

ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第4回は、東京・中野にある「ISLET(アイレット)」のハンバーガーの魅力をたっぷり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第4回「アイレット」

東京・神楽坂に「マティーニバーガー」という店があります。「食べログ ハンバーガー 百名店」に3年連続で選出されるほどの名店で、オーナーのエリオットさんはアメリカ・ニューヨーク出身の生粋のニューヨーカーです。そんな本場の人だけあって、他店のハンバーガーをなかなか褒めません。お決まりのセリフは「悪くない」――。そのエリオットさんが本当に珍しく、「あの店はイイ。ぜひ食べに行って!」と、わざわざ私に電話までしてきた店が、今回ご紹介する「アイレット」です。

アイレットは、JR中野駅の南口から少し歩いた中野五差路の付近にあります。この秋で5周年を迎える席数15席ほどの小さな店ですが、実はアイレットにはそれ以前のストーリーがあります。

店主の小島さんは、同じ中野にあった佐世保バーガーの店「ZATS BURGER CAFE」で働いていました。それも初期からのメンバーで、途中からずっと店長を務めていましたが、やがて店の経営を引き継ぎ、自身の店として営業していたその矢先、店舗の老朽化が原因で火事に遭い、泣く泣く閉店。

しかし、小島さんはあきらめず、火事の8ヶ月後、現在の場所に移転再開を果たします。それがこの「アイレット」です。ですから、小島さんのバーガー職人歴は約16年。鍛え抜かれたその技を、早速見て参りましょう。

「チーズバーガー」Lサイズ1,000円。「上からギュッと押し潰してお召し上がり下さい」と店から教えてもらえますが、力の入れ加減はほどほどに

ハンバーガーは2サイズあります。60gパティのRサイズと、120gパティのLサイズです。最近のグルメバーガーの傾向からすると、120gのLサイズの方がメインかなと思いがちですが、店が強く推しているのは小さいRサイズの方。実際に、LよりもRの方がコンパクトにまとまって余計なところがなく、ハンバーガーとしてのバランスはいいです。持ちやすく食べやすく、私もRサイズをおすすめします。

「佐世保バーガー」Rサイズ690円。パティに合わせてバンズの大きさも変わります

これがRサイズの「佐世保バーガー」です。その正体は「ベーコンエッグチーズバーガー」。佐世保バーガーの伝統の「甘めのマヨネーズ」が特徴です。このマヨネーズは「マティーニバーガー」のエリオットさんもお気に入り。

そのエリオットさんの好みの食べ方は、Rサイズの「ベーコンチーズバーガー」を2個頼んで食べることだそうです。バンズは焼かない方が好みだそうですが、かなり強めに焼き込むのがアイレット本来の出し方です。バンズは「サンワローラン」製。目の詰まり気味の「サクッ」と気持ちよく噛み切れるバンズです。

エリオットさんお気に入りの食べ方、「ベーコンチーズバーガー」Rサイズ650円の2個セット。なお、私はバンズはよく焼いた方が好みです

パティは国産牛を使用。粗さの違う2種類の挽肉に、手でちぎった肉を合わせたパティで、大きな肉粒同士が「キュキュッ!」と音を立ててこすれ合うような、「ぷにっ」とした独特の食感があります。それが美味! タマネギ、パン粉などのつなぎを使っていますが、私の中ではめずらしく、「つなぎアリなのにおいしい」と思えたパティです。

「ベーコンチーズバーガー」。ランチタイムはドリンク・ポテト・ミニサラダが付いて950円

調味料は例の甘いマヨネーズのほかに、ケチャップ、デミグラスソース、マスタード。さらにここが重要なポイントですが、「ベーコンチーズバーガー」のベーコンは、グリルの際にグラニュー糖、塩コショウなどで芳ばしく味付けをしています。これが絶妙に美味!

心優しい小島さんは、こどもたちが500円持って来れば食べられるバーガーとして「クラシックチーズバーガー」を用意しています。60gパティに粗みじんのオニオン、ゴーダチーズ、マスタード、マヨネーズという内容でRサイズ350円。シンプルなバーガーですが、大人が食べる「2個目のバーガー」としても好評。

「クラシックチーズバーガー」Rサイズ350円

常連さんの一番人気はバーガーではなく、サンドイッチです。出数の1位は「テキサスサンド」。Lサイズの120gパティをチェダーチーズ、ハラペーニョ、ホットソース、生野菜とともに挟んだホットサンドで、焦げるぐらい強く焼き込んだ食パンのカチッと硬く、ドライな食べ口が特徴。ちょっとワイルド。なるほど、テキサス!

「テキサスサンド」Rサイズ1,000円。おまけに切り落としたパンの耳も付いてきます

「タコライス」もそれに次ぐ人気メニュー。60gパティを鉄板の上で焼きながら崩し、味付けしたものがライスの上にのっています。この肉そのものがまずもって美味! ですが、このタコライス、トマトサルサもタコシーズニングも使っていません。ですから厳密に言うと、タコライスではないのですが、タコライスばかり食べ歩きしている人から「今まで食べた中で一番おいしい」とお墨付きをいただいたそうで、そんな目玉メニューが、ハンバーガーの後ろに多数控えています。

「ハンバーガー屋のタコライス」690円に、エッグとアボカドのトッピングで890円。ライスの周りにハラペーニョ入りのチーズソース。かかるソースはデミグラス、スイートチリほか

お手ごろ価格とお手ごろサイズで、日常使いのお手本のようなバーガー店です。常連さんはいつも頼むメニューが決まっていて、もうそこから動かないそうで、そんなエピソードからもこの店の「日常的に愛されている」姿がうかがえます。日々の食事をちょっとだけ楽しくしてくれる存在。真の名店とは、そういう店のことを言うのだと、私は思っています。

なお、5年前の火事の後、小島さんが店を移転再開したことを知らない人がいまだに多いそうで、もし皆さんの周りにそんな話をしている人がいたら、「五差路のそばでやってるよ」と、ぜひお知らせ下さい。

※価格はすべて税込。なお、10月1日以降の価格についてはお店の方にご確認ください

取材・文・写真:松原好秀