日本の未婚男性はなぜ自己肯定感が低いのでしょうか?(写真:Fast&Slow/PIXTA)

幸福度は、未婚者より既婚者の方が高く、男性より女性の方が高い。これは、ほぼ全世界的に共通します。その中でもとくに、日本は既婚者の方が未婚者と比べて幸福感が高く、未婚男性の幸福度が、未婚女性と比較して群を抜いて低い(不幸度が高い)ようです。

日本の未婚男性の低さはダントツ

下図はISSP(国際社会調査プログラム)の2012年調査の一部抜粋ですが、調査対象である約40カ国の中でも日本の未婚男性の幸福度の低さはダントツでした。


年代別の幸福度を見ても、幸福度が「未婚<既婚」および「男<女」である傾向は一緒です。未既婚年代別に見ると40代未婚男性が最も不幸度が高くなります。つまり、日本の40代の未婚男性とは世界一不幸度が高い人たちと言えるのかもしれません。

幸福度と自己肯定感とは強い正の相関があります。自己肯定感が高い人ほど幸福感が高くなります。

既婚者に比べて未婚者の自己肯定感が低いというお話は、こちらの記事(『40代独身者が「幸せになれない」根本原因』)で詳しくご紹介していますので、そちらを参照してください。


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では、こうした状況の要因は、未婚と既婚の違いだけによるものなのでしょうか?

婚姻と関係のない子どもの自己肯定感を、独立行政法人国立青少年教育振興機構による「青少年の体験活動等に関する意識調査(平成28年度調査)」の結果から見てみましょう。

自己肯定感の年齢別の推移

小学4年生から高校2年生にかけて、自己肯定感は男女とも下がり続け、とくに女子は自己肯定感のありなしの差分がマイナス30ポイント(自己肯定感がない方が多い)にまで拡大します。箸が転んでもおかしい年ごろと言われ、楽しい毎日を謳歌しているように見える女子高生も自己肯定できていないのです。


ところが、これは成人になると変わります。調査対象が変わるので同列に扱うことはできないという前提のうえ、別途私が調査した20代以上の各年代別未婚男女の自己肯定感の変遷と比べてみます。

20代は女性より男性の方がまだ自己肯定感が高いのですが、30代以降は完全に逆転します。つまり、未成年時代は男子の方が自己肯定感が高く、成人すると女性の方が高くなるのです。一方で、既婚者で見ると、男女差はほとんどありません。

結婚してパートナーがいる状態の既婚男女は、未婚男女と比較して、明らかに高い自己肯定感をキープしています。裏返せば、未婚状態が自己肯定感の低さに影響を与えていると言えるでしょう。しかも、その影響は女性よりも男性の方が大きく、年代とともにその差が開いていきます。これは、未成年の頃の男女推移とまったく逆になっているところが興味深い部分です。

以上のことから、自己肯定感と恋愛パートナーの存在の有無は関係性があると考えられます。小学生男子の自己肯定感が高いのは、まだこの頃は恋愛というものに興味もなく、真剣に向き合っていなかったからでしょう。

女子の自己肯定感が小学6年生あたりからマイナスへと向かうのも、初潮など「自己の性への目覚め」というものを突き付けられたことに起因するのではないでしょうか。

恋人の有無と自己肯定感の関係は?

自己肯定感と恋愛との相関性について、さらに検証していきます。自己肯定感の高低別に、「現在付き合っている恋人がいるか」「今まで恋人がいたかどうか」によって違いがあるかを見てみます。比較のために既婚者のデータも入れておきます。

これで見ると、男女とも「現在恋人がいる」層が最も自己肯定感が高く、「今まで一度も恋人がいたことがない」層がいちばん低いという結果となりました。未婚男性においても、付き合っている相手がいる場合、自己肯定感がない率が既婚者とほぼ同等になります。

また、未婚男女で比べると、女性より男性の方が付き合うパートナーがいないことによる自己肯定感の低さの影響が大きいようです。つまり、未婚男性の自己肯定感は、恋愛相手がいるかいないかで大きく左右されるということになります。


ちなみに、未婚の自己肯定感には年収の多寡ももちろん影響はあります。年収が上がることによって自己肯定感も上昇はします。ですが、未婚男性の場合、年収1000万円超えで大きく上昇するにせよ、1000万円未満では300万円未満であっても大体30%台にとどまります。

何より、同じ年収であっても未婚と既婚とで自己肯定感に5〜10%も差があるということからも、自己肯定感の未既婚格差というのは単に年収だけの問題ではないということがわかります。


男性は恋愛が充実しているほど自己肯定感が高い

拙著『ソロエコノミーの襲来』の中でも、未婚男性の自己肯定感を高めている要因とは何かについてのデータを掲載しています。結果だけ簡単にお伝えすると、未既婚関係なく男性の場合は、恋愛が充実していればいるほど自己肯定感が高くなるという結果でした。意外なのは、そうした恋愛因子は女性の自己肯定感にはあまり関係なく、男性だけが影響を受けるという点です。

この連載でも何度もご紹介している「恋愛強者3割の法則」のとおり、実際に恋人がいるソロ男女は3割程度であり、7割は恋愛をしていません。そうすると、とくに未婚男性の場合、7割は、恋愛による自己肯定感を感じられない欠落感を抱えてしまうことになります。

なぜ恋愛相手の有無が男性の自己肯定感に影響を与えるのでしょうか。これには、いわゆる「男らしさ規範」というものが関係しています。「男は男らしく、女は女らしくすべきである」という設問に対して、「そう思う」と「そう思わない」の差分は、男性は未既婚ともに「そう思う」の方が上回るのに対して、女性は未既婚ともに「そう思わない」方が上回ります。「男は男らしくあれ」という規範に縛られているのは男性の方です。

「男らしさ規範」の強さと自己肯定感の高低をクロス集計して、年代別に見てみると一目瞭然です。自己肯定感が高い男性ほど「男らしさ規範」意識も強いのです。この傾向は、未既婚ともに同じですが、既婚男性の30代以上の年代に特に顕著です。

反対に、自己肯定感の低い男性は、既婚者であっても「男らしさ規範」意識は弱くなりますが、全体的に未婚者より既婚者の方が規範意識が強いようです。結婚したから規範意識に目覚めたのか、規範意識が強かったから結婚できたのか、それらの因果までは不明ですが、興味深い結果です。要するに、これら「男らしさ規範」意識の強さの差が、未婚と既婚の男性の自己肯定感の差となって表れているのです。


妻や子どもを養っているという認識

既婚男性にとっては、「妻や子どもを養っている」という認識が自分の自信となり、そこに自己の社会的役割を見いだしていると言えます。あくまで夫側の認識なので、事実としてその役割を全うしていると妻が思うかどうかは別問題です。対して、そうした自己の役割を確認できる「妻や子」のない未婚男性は、そこに自己の男らしさの欠落を感じてしまうのです。

昨今、「男が生きづらいのは、男が男らしさの呪縛から脱却できないからだ」という言説もありますが、多くの既婚男性はこの「男らしさ」意識によって支えられているとも言えるわけです。ここから解放されてしまうと、既婚男性の多くが自己肯定感を得られなくなってしまうのではないでしょうか。

男たちが「男らしく」生きることは苦しみも伴うかもしれませんが、その苦しみがなければ男は自己肯定できないというジレンマがあるのかもしれません。なお、ここでは自己肯定感と規範意識との相関について述べているのであり、規範意識の是非とは関係ありません。

となると、恋人も妻も子どもいない未婚男性は、自己肯定感を上げられないまま生涯を終えることになるのでしょうか。しかし、未婚男性が唯一、既婚男性に自己肯定感で勝っているポイントがあります。それは「生きがいとなるような趣味やライフワークを持っている」未婚男性たちです。アイドルやアニメ、ゲームなどに時間もお金も惜しまない未婚男性にとって、それらはある意味、「男らしさ」以外で自己の社会的役割を付与してくれるものなのかもしれません。