「すまん、大会10日前で言いにくいが出場はウソだった!」

17日に届いた驚きの報せ。27日に開幕する世界陸上ドーハ大会に日本陸連から「内定」を受けて出場する予定だった十種競技の右代啓祐さんが、ここにきて「内定」はしたけれど「決定」ではなかったため、大会に出場できない見込みとなったというのです。ちょうど17日は出場選手たちが結団式を行なった日。右代さんは「うへー、ワシは出られないのかー」と茫然としながらも、大会に出る選手たちに水を差さないよう結団式が終わるまではこの悲報の公開をこらえていた模様。夜になってSNSでぶちまけてくれました!

↓大会に出られると思っていたらやっぱり出られないことが、大会の10日前にわかりました!






荷物の整理はできてるのに、気持ちは整理できなくなってしまった…!

これは厳しい!



この件をもって日本陸連の「誤内定」とする非難めいた報じられ方がしていますが、客観的に言って日本陸連もこの事態を避けるのは難しかったでしょうし、行き着く結果は同じだったように思います。

まず日本陸連の今大会に向けての内定の出し方ですが、今大会参加のための標準記録の有効期間内に行なわれる日本選手権とアジア選手権を選考競技会と認定し、そこで「参加標準記録を満たした日本選手権優勝者」もしくは「アジア選手権と日本選手権を両方制した者」を第一の条件として選考することになっていました。右代さんはアジア選手権と日本選手権を両方優勝して「内定」となりましたが、参加標準記録は満たしていませんでした。

この第一の条件以降も「日本選手権優勝者が2019年9月6日までに参加標準記録を出した場合」、さらにその先も「参加標準記録を満たしたワールドランキング上位者」や「参加標準記録を満たしたアジア選手権優勝者」、あるいは「参加標準記録を満たした強化委員会が推薦する選手」などを選考するとしています。

実はこの時点では「日本側の選考」でしかなく、どの選手も「決定」ではありません。それはどの種目でも同じことで、日本側で「内定」と言っている選手は日本側が「大会にエントリーの手続きをする」だけで、参加が決定しているわけではないのです。その意味で、日本陸連は決して「誤内定」をしたわけではありません。日本として内定はしたけれど、大会側からハネられただけです。

↓日本側の内定条件についてはコチラでご確認ください!



では、大会側での選考基準はどうなっていたか。大きく分けて4つの方法で参加資格を得られます。第一に、参加標準記録を突破すること。第二に、大陸選手権の優勝者や、長距離走における特定の大会での上位入賞者。第三に、IAAFダイヤモンドリーグなど特定の大会の優勝者。第四に、選考期間においての記録上位者。

右代さんは「大陸選手権の優勝者枠」での有資格者でしたが、そこには若干の但し書きがついていました。「10000メートル、3000メートル障害、混成(十種競技、七種競技)、フィールド競技、ロードレース」については参加アスリートのレベルを踏まえてTechnical Delegatesの承認が必要となる、と。要するに「レベルの低い地域の大陸選手権王者は選ばないかもしれませんよ」という但し書きです。

日本陸連は「大陸選手権優勝者」という資格で右代さんを大会にエントリーしました。しかし、世界中からエントリーはされます。参加標準記録突破者やその他の大会での上位者、記録上位者などがどんどんエントリーしてきます。もしかしたら100人とか1000人とか有資格者がいるかもしれません。

それらのエントリーを、9月7日から15日にかけて大会側で選考します。この際には、各種目での参加人数の目安をにらみながら、各国の割り当て数などを鑑みて実際の参加者が選考されます。十種競技の参加者数の目安は「24人」。実際にはちょっと多かったりすることもありますが、参加標準記録突破者が1000人いたとしても24人程度に大会側で絞り込むのです。その過程のなかで右代さんは落選し、最終エントリー期限である9月16日を迎えたところで「やっぱ出れないわ」ということが明らかになったという流れ。

日本陸連側は正しく内定を出しました。

大会側はスケジュール通りに、正しく選考をしました。

その結果、右代さんは大会直前に出場枠から漏れているとわかりました。

そういう話です。

↓国際陸連によるドーハ世界陸上の選考方法についてはコチラでご確認ください!
<選考の仕組み一式の置き場>


<選考方法を記したPDFファイル ※読むには登録が必要>
https://www.iaaf.org/responsive/download/downloadresultinfo?filename=444d79cd-3388-4bca-b5c1-9daf6aca1ea0.pdf&urlslug=Qualification%20system%20(updated%209%20August)

日本陸連が「但し書きを見落とした」ということはナイと思います!

わかりやすくつづけて書いてありますから!




これは率直に言って、真に責められるべきは大会側の選考だと思います。確かに右代さんは「大陸選手権の王者」ではありますが、「参加標準記録を満たしていない」選手です。アジア1位の選手が参加標準記録を満たしていない、それは「アジア、レベル低っ!」というヨーロッパからのせせら笑いも生んだかもしれません。「参加アスリートのレベルを鑑みて、レベル低っ!なので出場不可でーす」と言い出すかもしれません。規程通りに。

右代さんの選考期間内における記録は2018年のハイポミーティングで出した7948点が最高。2019年の記録で言えばアジア選手権で出した7872点が最高で、それは2019年のランキングで言えば世界48位です。参加標準記録は8200点ですので、確かに少し「世界」との開きはあります。右代さんが8200点を超えたのは日本記録8308点を出した2014年の日本選手権までさかのぼり、その1回だけしかありません。現実問題として期限内での参加標準記録の突破は極めて厳しく、「レベル低っ!」と言われたらその通りかもしれません。

しかし、それを言い出したら世界でのスポーツの発展などないでしょう。「アジアのバスケはレベル低っ!なのでワールドカップ出場枠をゼロにします」とか言われたら、競技の普及も何もありません。たくさん枠をくれとは言わないけれど、「大陸王者」すらハネるのでは、これから強くなって世界を知って成長していこうとする地域の選手たちはどうすればいいものか。

2019年において世界で48番目の記録を持っている大陸王者を、参加人数24人が目安である世界選手権に出場させない、それは大会側の考えかたに問題があると僕は思います。「よーし、野球のアフリカ・ヨーロッパ枠はゼロにしてやる!東京五輪は6ヶ国しか枠はありませーん!オランダも参加不可!ざんねーん!」くらいの意趣返しもしたくなります。

日本陸連もまさかこんなことになるとは正直思っていなかったのでしょう。確かに予兆はあったかもしれません。2017年の世界陸上での十種競技の参加人数目安が32人であったものが今回は24人に減ったこと。2017年大会では大陸王者に対する但し書きがフィールド種目だけを対象としていたものが、今大会から但し書きの対象が増えたこと。こうした変化から「もしかしてハネられるかも?」と予測することは可能だったかもしれませんが、「言うても大陸王者やぞ」と思っていたはずです。

事前に「右代は出られますかね?」と聞いても、大会側からは「エントリーが出そろうまではわからん」としか答えられないでしょうし、(おそらく)出せないであろう参加標準記録を「保険」のために狙わせるのは本番への調整を考えるとマイナスでしょう。半年前からこうなるとわかっていたとしても、結局はこうなったと思います。大会側が「レベル低っ!はお断りです」という考え方でいる限りは。

↓リオでは参加標準記録を突破して堂々と出場したが、大陸王者ではダメだった!


アジアからの参加はお断り!

記録を出してからきてくださいね!




しかし、諦めるのはまだ早い。可能性はほとんどないかもしれませんが、粘る価値はあるでしょう。エントリー期限は16日で終わりましたが、世界ランキングをもとにした国際陸連による追加の可能性が残っているといいます。

近年、この世界ランキングは参加標準記録以上に重視されてきているもの。「よくわからん国が、よくわからん大会で、好記録が出たと主張する」というパターンなどを踏まえ、格の高い大会での「結果」に基づくランキングこそを、真の判断材料としていこうという流れです。

その世界ランキングでは右代さんは現時点で世界25位です。大陸王者で、2019年に出した記録が世界48位で、世界ランキングが25位の選手が「24人」目安の大会に出られないというのは、世界ランキング重視の流れから言ってもどうかと思いますし、ワンチャンあってもおかしくないでしょう。「参加標準記録出せや」という話であることは重々承知しつつも、ここはひとつゴネていきたいもの。日本陸連のゴネ得チャレンジに期待します!せめて「気持ち」だけでも救われるように!

まぁ、そのうち十種競技ごと「削減」されそうな気もしますが!