急成長したものの、あっという間に潰れる企業がある。ノンシリコンシャンプー「レヴール」の発売元だったジャパンゲートウェイは、その典型例だ。倒産する新興企業には5つの共通点がある。そのひとつは、「ポルシェを乗り回す」といった経営陣の生活の激変だ--。

※本稿は、帝国データバンク 情報部『倒産の前兆』(SB新書)の一部を再編集したものです。

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■「1.5秒に1本売れている」で一大ブームを起こした

「1.5秒に1本売れているノンシリコンシャンプー」で、一大ブームを巻き起こした室町販売委託(旧:ジャパンゲートウェイ)。しかし一時の隆盛から一転、売上は坂道を転がり落ちるように急激にダウンしていく。同社の事例から、急成長企業が陥りがちな“5つの落とし穴”について解説しよう。

「室町販売委託」という社名を聞いて、ピンと来る方はまずいないだろう。それもそのはず、この社名は倒産時のもので、破産直前の2018年4月に変更した社名にすぎない。むしろ旧社名の「ジャパンゲートウェイ」のほうが一定の知名度があった。

ジャパンゲートウェイは、元自民党幹事長の次男が、大手アパレル出身の社長とともに創立したことでも広く知られた、化粧品・ヘアケア製品販売代行業者である。

設立以来、順調に業容を拡大させ、化粧品やヘアケア製品を主体に80アイテム以上を取り扱ってきたが、業務内容は主に次の2つだ。

1つは、化粧品メーカーとの共同開発。商品企画から広告戦略・流通ルート確保まで一貫して行なった。もう1つは既存のメーカー商品の販売代行。独占販売権を取得できる商品のみを扱い、ブランディングにまで携わった。それは値下げ戦争に巻き込まれて、結果的にブランド価値を下げる事態を避けるためだ。「本当にいいものを消費者に届けたい」--そんな思いに支えられた戦略だったという。

■本来のシャンプーの目的に立ち返った「レヴール」

メーカーでもなく小売でもない、新興企業の同社が、化粧品業界で急成長を遂げた背景には、東急ハンズやマツモトキヨシ、セイジョーなどといった化粧品小売店との強いパイプがある。小売店から情報を集め、消費者のニーズをつかみ、いち早くヒット商品を世に送り出すことにつながったのである。

旧社名のジャパンゲートウェイの名を世に知らしめる大ヒット商品となったのが、2010年10月に発売されたノンシリコンシャンプー「レヴール」だ。

従来のシャンプーは、髪の手触りをよくしたり、光沢を出したりするための成分の1つとしてシリコンが含有されているものが主流だった。同社は、「汚れを落とす」という本来のシャンプーの目的に立ち返り、髪に負担をかけるコーティング剤「シリコン」を含有させない新商品、というかたちで「ノンシリコンシャンプー」を売り出したのである。

「レヴール」は、発売するやいなや大ヒット商品になった。若手人気女優たちを起用した大規模な広告キャンペーンを展開、頻繁に放映されるテレビCMで認知度を高め、「1.5秒に1本売れているノンシリコンシャンプー」として一大ブームを巻き起こした。

■同業他社の参入で落ち込んだ売れ行き

この間、業績は倍々ゲームで伸びた。2011年5月期に61億円だった年売上高は、翌2012年5月期には135億円に倍増。2013年5月期は217億円にまで拡大した。複数の著名な大手小売チェーンを通じた約1万5000店の販売網を生かし、この頃にはシャンプー・リンスの販売実績で国内トップ5に入るまでに急成長を遂げた。

ところが翌年に入ると、この輝かしい歩みに急速に陰りが見え始める。2014年5月期には年売上高300億円超えも視野に入れていたが、結果は前期比23%の大幅減収となる166億円に急減したのだ。

原因は、同業他社が「ノンシリコン」を謳(うた)った類似商品を次々と投入したことだった。競争が激化する中で差別化が図れなくなり、店頭での売れ行きが落ち込んだ。「売上増」を見込んで生産していたために、期末在庫が大幅に膨れ上がった。そこへ加えて多額の広告宣伝費も重荷となり、赤字決算に終わったのである。

同年7月には、過年度にわたる約3億円の所得隠しを東京国税局から指摘され、重加算税を含む追徴税1億円の支払いを余儀なくされた。これにより対外的な信用が悪化し、消費者には買い控えの動きも見られたために、多額の在庫を抱え込むことになる。

■ヘアケア製品事業は別会社が引き継いだ

2016年5月期の年売上高は、81億円と大幅に業容が縮小。同年末には別途、新会社「ジャパンゲートウェイ」に仕入れ・商品管理等の事業を譲渡した。

新会社は製品の営業委託を受けていたが、さらに2017年末、新会社が大半の事業をRIZAPグループの子会社(後に「ジャパンゲートウェイ」に商号変更)に譲渡する。

こうした一連の再編を進める中で、2018年春頃までに全従業員を解雇し、社名を「室町販売委託」に変更したうえで、ついに6月27日、破産手続き開始決定を受けた。なお、室町販売委託が破産前に事業を譲渡したジャパンゲートウェイ(コンタクトレンズ販売業など)は、その後も通常通り営業を続けている。

一方、RIZAPグループ下のジャパンゲートウェイ(室町販売委託から「レヴール」を含むへアケア製品事業を引き継いだ別会社)は2019年1月、投資会社の萬楽庵(愛知県名古屋市)に譲渡されている。萬楽庵の会長は、テレビ通販「ショップジャパン」を運営するオークローンマーケティングの創業者であり、ジャパンゲートウェイの化粧品事業は、今後、オークローンマーケティングが新規展開する美容・ヘルスケア通販事業へ取り込まれていくと予想される。

■経営陣の派手な生活ぶりが反感を招いた

急成長から一転、業容縮小の末に破産した今回の事例からは、急成長中の新興企業が陥る“5つの落とし穴”が浮かび上がってくる。

1つ目は、会社の成長スピードに資金繰りが追いつかなくなること。

本事例でも、売上がピークを迎えた2013年5月期以降、資金繰り悪化を示唆する情報が複数流れた。資金需要が増す中で、業容の拡大と資金調達のバランスがひとたび崩れると、当座の資金繰りの問題に発展しかねない危うさがある。

2つ目は、内部管理体制の強化・充実が後手に回ること。

今回の事例では、2014年7月に東京国税局から所得隠しを指摘されるまで、内部体制の強化に本腰を入れて取り組むことはなかった。

3つ目は、経営陣の派手な生活ぶりが取引先の離反を招くこと。

企業が創業期から成長期にシフトし、一定の規模に達すると、経営幹部はそれなりの報酬を手にするようになる。しかし幹部の放漫な生活態度が、取引先関係者の反感を招くようなことがあってはならない。本事例でも、会社の絶頂期に「高級外車のポルシェを乗り回し、多額の役員報酬を受け取っていたようだ」(地銀関係者)と伝わる経営陣に対して、批判的な見方が少なくなかった。

■積極的な広告展開は「もろ刃の剣」

4つ目は、既存の看板商品に続くヒット商品を生み出せないこと。

帝国データバンク 情報部『倒産の前兆』(SB新書)

本事例では「レヴール」に次ぐヒット商品に恵まれなかったことが、業況悪化を早めた。「レヴール」以外にも約20種類のブランドを展開していたが、最後まで「レヴール」は超えられなかった。うまくいかなかったときのダメージは新興企業ほど大きい。

そして5つ目は、積極的な広告展開が、もろ刃の剣となること。

さらなる成長を目指す新興企業が、赤字覚悟の先行投資として多額の広告宣伝費を投じる例はよく見られる。将来を見据えた動きとして評価もできるが、成功が約束されたわけではない。一方で、広告宣伝費を抑えたとたんに、売上が減少に転じるケースも少なくない。要するに、目先の利益と、将来に向けた投資のバランスをどう見極めていくかが、新興企業経営者の腕の見せどころなのである。

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帝国データバンク 情報部1900年創業の民間信用調査会社。国内最大の企業情報データベースを保有。帝国データバンク情報部は、中小企業の倒産が相次いだ1964年、大蔵省銀行局からの倒産情報提供に応じるかたちで創設。情報誌「帝国ニュース」の発行、「全国企業倒産集計」などを発表している。 主著に『なぜ倒産』(日経BP社)『御社の寿命』(中央公論新社)『あの会社はこうして潰れた』(日経BP社)などがある。
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(帝国データバンク 情報部)