光を最低でも99.995%も吸収するという世界一黒い素材がカーボンナノチューブに関する研究の過程で偶然発見されました。この素材は、これまで世界一黒い素材であるとされていた「Vantablack(ベンタブラック)」よりもさらに10倍も黒いとのことです。

Breakdown of Native Oxide Enables Multifunctional, Free-Form Carbon Nanotube-Metal Hierarchical Architectures | ACS Applied Materials & Interfaces

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.9b08290

MIT engineers develop “blackest black” material to date | MIT News

http://news.mit.edu/2019/blackest-black-material-cnt-0913

This Is the Blackest Black Ever Created - VICE

https://www.vice.com/en_us/article/3kxaky/this-material-is-blacker-than-anything-even-vantablack

この「世界一黒い素材」はマサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科のBrian Wardle教授と上海交通大学の材料科学者のKehang Cui氏が偶然発見したもの。2人はアルミニウム箔の電気伝導率と熱的性質を高めるために、アルミニウム箔の表面でカーボンナノチューブを成長させるという実験を行っていました。

実験を行った結果、電気と熱の伝導率は高まり、実験は成功しました。しかし、2人を驚かせたのは出来上がった素材の「色」です。Cui氏によると、「カーボンナノチューブは成長する前も黒かったことを覚えていますが、成長後は『さらに黒く』見えました」と語っています。

この黒さが尋常ではないことに気がついた2人は、素材の光反射率を測定します。その結果、誕生した素材はあらゆる角度からの光を最低でも99.995%吸収すると判明。これまで「世界一黒い」とされてきたベンタブラックの吸収率は99.965%であるため、今回の新素材はベンタブラックよりも10倍以上高い光の吸収率を誇っていることになります。なお、記事公開時点でこの新素材には名前が付けられていません。

さらに今回の研究と同時に、MITに所属する芸術家のDiemut Strebe氏とコラボレーションした「アートサイエンス」という企画も進行していました。そこでStrebe氏は、時価200万ドル(約2億2000万円)のイエローダイヤモンドを開発された新素材で塗りつぶし、文字通りに「真っ黒」にする「The Redemption of Vanity(虚栄心の償還)」というプロジェクトを敢行しました。

The Redemption of Vanity - Diemut Strebe

https://www.the-redemption-of-vanity.com/



真っ黒にされる前のイエローダイヤモンドがこれ。重さは16.78カラット、天然物のダイヤモンドでした。



ビフォー(左)とアフター(右)が以下。新素材で塗りつぶされたイエローダイヤモンドは背景と同化してぱっと見はわかりません。



しかし、拡大してみると背景より黒いので、イエローダイヤモンドの外形が浮き上がって見えます。



The Redemption of Vanityは2019年9月13日にニューヨーク証券取引所にて公開されました。

研究チームはこの素材が「なぜ黒いのか」に関して、森のように堆積したカーボンナノチューブがほとんど全ての入射光を閉じ込めるためだと考えていますが、詳しい原理は現段階では不明。Wardle教授は「黒さのメカニズムに関するさらなる研究が必要だ」と語っています。

この素材はその黒さと素材自体の形状などから、宇宙探査機に搭載される望遠鏡の遮光部分への利用が有望視されているとのこと。しかし、人間の目にはこの新素材とベンタブラックとの「黒さの差」はわからないそうです。