チーム事情から見るドラフト戦略〜西武編

 ドラフト会議まであと1カ月に迫った。各球団とも、ある程度来季の見通しが立ち、戦力補強のポイントも具体化される時期になった。そこで12球団それぞれの現状を鑑(かんが)み、今年のドラフト戦略を占ってみたいと思う。まずは西武から見ていきたい。


俊足好打の外野手、法政大の宇草孔貴

 毎年”打高投低”が著しい西武だが、今年もその傾向は顕著である。720得点、チーム打率.267はともに12球団1位。ホームランこそソフトバンクに次いでリーグ2位だが、盗塁も12球団トップの128個を記録(数字はいずれも9月16日時点)。

 昨シーズン、調子が上がらなかった”おかわりくん”こと中村剛也が、打率296、29本塁打、120打点と完全復活。また、山川穂高もキング独走の42本塁打を放ち、外崎修汰も24本塁打と大飛躍。さらに、森友哉もリーグトップの打率.339をマークするなど、打線の破壊力は間違いなく12球団トップである。

 その一方で、チーム防御率4.39はリーグワースト。5年目の高橋光成と新外国人のニールがともに10勝をマークしているが、昨年16勝を挙げた多和田真三郎がここまで1勝と大ブレーキ。チームとしてもなかなか乗り切れない状況が続いている。

 そう考えると、まずは投手だ。しかも、1年目からローテーション入りして、確実に勝ち星を稼げる投手がほしい。奥川恭伸(星稜)や佐々木朗希(大船渡)といった将来の大エース候補も魅力だが、今年の西武は1にも2にも即戦力だ。

 そこで名前が挙がるのが、森下暢仁(まさと/明治大)だ。おそらく指名は重複するだろうが、ここは思い切って勝負にいくべきである。

 ただ、問題は森下をクジで外した時だ。今の西武に本当に必要なのは、1年目から勝てる投手である。今年のドラフト候補の顔ぶれを見ると、先発として1年目から計算できる投手は、森下以外に浮かばない。ならばその場合、野手に切り替えるのもひとつの手だ。

 冷静に考えると、今は頑張っているが、中村、栗山巧は2001年ドラフト組の同期生で、ともに来年37歳になる。近年はトレーニングの進歩もあって、確実に選手寿命は延びているが、彼らの”後釜”は確実につくっておかなければならない。

“若手”と呼ばれてきた金子侑司も、来年は30歳で、木村文紀は32歳になる。秋山翔吾(31歳)にしても移籍の噂が絶えない。いなくなってから……では手遅れである。そういうことで、今年の西武は森下を第一に狙い、外した場合は”後釜”候補の野手を確実に獲っておきたい。

 おかわりくんの後釜なんて、そういるものではない。なので、ここはポスト秋山だ。もちろん、秋山ほどの存在になってしまうと、そうそう後釜なんているわけもないが、あくまで候補になれそうな選手を探したい。

 走攻守すべてのカテゴリーで”秋山の後釜”になれる資質があるのが、法政大の宇草孔貴(うぐさ・こうき/外野手/右投左打)。

 185センチ、83キロのサイズがありながら、スピード感と走る意欲があるのが大きなポイントである。下級生の頃は非力感が漂ったバッティングも、今年春のリーグ戦では神宮球場のバックスクリーンに放り込み、逆方向にも長打が打てるようになった。あとは、少しでも上の次元での野球に取り組む意欲があるのかどうかだ。

 秋山の偉大さは、プロに入ってから自らの野球を磨き上げた努力の量だ。宇草は持っている能力の高さは、大学時代の秋山に匹敵するか、それよりも上かもしれない。指名されたことで満足するのではなく、さらにその上を目指してほしい。そうすれば、秋山のように球界を代表する外野手になれる可能性は大いにある。

 この宇草を狙っている球団はほかにもあるはずだ。もし目前でさらわれた場合は、慶応大の柳町達(たつる/内・外野手/右投左打)だ。

 センターも三塁手もこなせる”野球上手”な選手で、スローイングのよさは大学屈指。試合中だけでなく、シートノック時からストライクスローの返球をする意識の高さと送球能力は特筆すべきである。打っても、ここ一番の勝負強さと芯でとらえるミート力も一級品。もう少し体ができてくれば、長打も期待できる。こういう選手がベンチにいると、非常に心強い。

 野手に限って言えば、西武は今が「ピーク」でないだろうか。そういう意味で、今年のドラフトはこの先のチーム力を左右する分岐点となるのは間違いない。