妊娠出産には女性の年齢が大きく関係していると思われがち。けれど近年国内の様々な統計データからは、男性の結婚年齢と出生率の関係性が非常に強いことがわかっています。男性は婚期が遅れても子どもを持てると考えるのは大間違いなのです――。

※本稿は天野馨南子『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島社新書)を再編集したものです

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Nayomiee)

■母親はなぜ息子の婚期を遅く希望するのか

男性の結婚への取り組みが女性より遅れる原因について、「男性の年齢と結婚できるかどうかは、女性ほどは強く関係しないはずだ」という、統計的には誤った一般的な思い込みがあります。

データからは、「子どもより親のほうが、子どもと長く暮らしたがる傾向にある」「とくに母親の、息子に対する結婚希望年齢が遅い」という状況が浮かび上がります。

この母親が持つ意識の問題について、その原因を考えてみたいと思います。

なぜ、母親は息子の婚期を娘に対してよりも遅く希望する傾向にあるのでしょうか。そこには、「孫の顔は見たいけれど、うちの子は男だから、多少結婚が遅れても若い女性と結婚さえすればいいのよ。そうすれば孫は授かれるから」という発想があるように思います。実際に、結婚支援をしている支援側の年配女性の口からさえも、こういう発想からくる発言が平然と語られることがあります。

■50代でも34歳以下の女性を希望する男たち

この「男だから婚期が遅めでもいい」という発想は、結婚相談所の登録男性の言動からも十分うかがい知ることができます。

結婚相談所では、「そろそろ子どもが欲しいから結婚を考えて登録することにしました」という男性が少なからず見られます。親から「そろそろ孫の顔を見せろ」とせっつかれた人も含まれています。

そうした男性たちの希望は、「判で押したかのように」妊娠力が高いとされる34歳までの女性に集中します。この希望を持つにあたって、男性自身の年齢がいくつであるかは関係ありません。自分が30代後半、40代、50代であっても、「子どもが欲しいから」と当然のように34歳までの女性を希望するのです。

こういったグループの男性のなかでも強気な人になると、「子どもを2人は欲しいから、32歳までの女性を」と要求します。このような男性の頭の中には、次のようなスケジュールが設定されているようです。

強気な男性の頭の中
●2人が出会う(彼女32歳)

●交際半年〜1年で結婚(彼女32〜33歳)

●妊娠1年(彼女33〜34歳)

●出産(彼女34〜35歳なので2人目の妊娠はすでに難しいはずだ)

■「嫁さえ若ければ、孫の顔が見られる」幻想

上のチャートの発想から、「女性が32歳より若くないと2人の子どもを授かりにくい。子どもが2人欲しいから32歳より若い女性を」と要求するのです。

32歳までにとどまらず、20代女性を求めるケースも決して珍しくはありません。50代や60代(ごくまれですが70代)の男性が、「子どもが欲しいから20代の若い女性を」との希望を出すケースも珍しくないといいます。つい先日も、相談所に電話をかけてきて、「おたくの相談所には、子どもが生める20代の女性って登録しているんですかね?」と質問する50代の男性がいたと、相談所のスタッフが苦笑していました。

男性側、またその親たちの認識では、「妻さえ若ければ、妊娠・出産と子育ては問題ない。夫は年をとっていてもいい。子どもは夫が産むものではないのだし(育児は若い嫁がやるものだし)」という発想のようです。

■「子供が欲しいから」婚約破棄に

妊娠・出産については、ママ側の年齢だけが問題視されがちですが、パパ側の年齢は本当に関係ないか考えてみることにします。

私は、そもそも「男性は高齢結婚でも必ず子どもが授かる」といった発想そのものに大きな違和感を覚えています。それはまるで、コイン(=若い女性との結婚)を入れたら、おもちゃ(=子ども)がコロンと落ちてくる、“ガチャポンゲーム”のような発想だからです。「うちの中年息子に若い女性を」と思う男性の親にも、「コイン(=若い嫁)さえ手に入れれば、おもちゃ(=孫)が出てくる」と考えている人は少なくありません。

結婚相談所の支援者からはこんな話もうかがいました。

「40代前半の男性と40歳の女性が婚約までこぎつけました。40代で初婚同士の結婚はどちらにとってもなかなか難しいことですので、応援してきた立場の自分としては、本当に嬉しかった。それなのに、互いの親への報告の段階で、男性側から婚約破棄の申し出があったんです。『やっぱり子どもが欲しいから』と。悔しくて仕方がありませんでした」

こういったケースは珍しくないのかもしれません。しかし、新しい命の誕生は、ガチャポンゲームのように単純なものという発想そのものの真偽を確認しなければなりません。統計的に見て男性の年齢と出生率には何も関係がないならば妥当な考え方といえます。そこでこの本のテーマでもある「思い込みを統計的リアルで確認していく」ことにします。

■出生率に強く影響する男性の「初婚年齢」

もし、「男性は高齢結婚でも関係なく子どもを授かることができる(女性さえ若ければ子どもを授かれる)」という“ガチャポン感覚”が正しいのであれば、日本の男性の結婚年齢と日本の子どもの出生率の間には統計的関係性が見られないはずです。少なくとも、女性の結婚年齢と出生率の関係性よりも、かなり低い関係性を示す統計結果となるでしょう。

まずは、男性側の結婚年齢データから見ていくことにします。【図表1】を見てください。

このグラフは、2016年のデータを扱っています。47都道府県の男性の平均初婚年齢が縦軸、そのエリアの出生率が横軸となっています。

相関分析という手法を用いると、両者の間には非常に強いマイナスの関係性(「−0.70」という数値)があることがわかりました。マイナスの関係性ですので、男性の初婚年齢が上がるほど、出生率は下がってしまいます。

つまり、男性の結婚年齢は、子どもを授かるため(出生率が上がるため)には、きわめて大切な要素になっている、という分析結果です。統計的には男性の初婚年齢が上がるほど出生率は激減しているわけですから、これまで女性に対していわれてきたことと同じ論理で、「何がなんでも子どもが欲しいと思うなら、高齢パパを選択しないほうがいい」という結論になります。

■子どもが2人ほしければ、男性も30歳くらいで結婚を

また、【図表1】からは、こんなことも見えてきます。

男性の初婚年齢が30〜30.5歳の場合、出生率は1.7あたりに集中しています。ところが31歳になると、出生率は1.5あたりまで減少します。

さきほど、男性側の要望として、「子どもは2人欲しいので、女性は32歳以下がいい」という要望が珍しくないことを紹介しました。【図表1】を見る限り、男性も32歳以下、できれば30歳くらいで結婚というコースを目指さないと、子ども2人を容易に授かることは難ししいことを統計結果が示しています。「32歳以下の女性と結婚したい」などと一方的に「上から」選ぶ立場で言っていられないのです。

■男性のほうが年齢を気にすべき

続いて、女性のデータを見てみましょう。【図表2】に相関分析の結果を示しました。

こちらも男性と同じく、マイナスの関係性(「−0.66」という数値)があることがわかりました。ただし、その度合いは男性よりもやや低く、中程度寄りの関係性といえます。このことは一般的には難しいために本では省略していますが、多変量解析という難しい分析を実施すると男性の年齢要因が残るという結果も報告されています。

すなわち、女性よりも男性の初婚年齢のほうが、出生率に大きく影響するという統計結果です。「男性は高齢結婚を考えてのんびりしていても子どもを授かることに問題はない(女性さえ若ければ子どもを授かれるから)」という考え方が、統計的にはまったく当てはまらず、個人の希望や自分の知る数少ない事例で全体を語ろうとすることによって起こりがちな「思い込みの一つ」であることがわかります。

分析結果からは、子どもが欲しいと言うのであれば、むしろ実数ベースでも女性を超えて大きく未婚化が進んでいる男性のほうが、年齢を気にするべき立場であるともいえます。年齢が上昇するほど、男性は未婚者数が女性を大きく超えて増えていきます。子どもが欲しいのであれば、相手の女性だけに若さを求めるのではなく、まずは男性が自身の結婚を早める視点をもつことが必要です。

■「精子がフレッシュだから大丈夫」は大間違い

なお、ここまでの話を聞いて、「統計的結果はそうかもしれない。しかし、生物学的に考えれば、男性よりも女性のほうが生殖機能と年齢の関係性が強いのではないか」と疑問に思う人もいるでしょう。私が講演会でこのデータを示して話をするときにも、「(胎児の頃から卵巣に卵子を持っていて)日々老化していく女性の卵子とは違い、男性の精子は毎日新しくつくられてフレッシュなのだから、“高齢パパ”だって支障はないはずだ。それにもかかわらず、統計的には男性のほうが高齢な結婚ほど少子化になるというのはどうしてなのか」との質問をよくいただきます。

疑問に答えるために、次のデータを示したいと思います。

【図表3】は、縦軸が47都道府県の女性の平均初婚年齢、横軸が同じく男性の平均初婚年齢となっています。相関分析をした結果、両者には非常に強いプラスの関係性(「0.89」という数値、ほぼ完全一致)があることがわかりました。

すなわち、男性も女性も自分の年齢が上がれば上がるだけ、結婚相手の年齢も同じ強さで上昇することが示されています。グラフからはほぼ2歳差で両者が強く連動していることがわかります。

この0.89という強い相関は、若い女性に選ばれる相手となるためには、「自分が若いこと」が何よりの条件だ(男女逆も同じです)ということを示しています。

■高齢男性は若い女性と結婚しにくいという事実

くりかえしになりますが、このような男女の平均初婚年齢の関係性の強力さを、生物学的な要因(精子がどうのこうの)だけで説明することは適当ではありません。社会的・文化的な要因、世間でいわれる「年齢から来る価値観や人生経験」「思春期の時代感の共有」「トレンドの共有」がパートナーとのマッチングに大きく影響しているのかもしれません。

理屈はどうであれ、若い男性はその「若さゆえ」に若い女性と結婚しやすく、高齢男性は「高齢ゆえ」に若い女性と結婚しにくいという事実が、統計結果からはっきり示されています。それくらい強く両者の年齢が連動しているのです。若い男性の結婚相手は若い妻となることが主流(発生確率が高い)であり、それにともなって出生率が高くなります。高齢男性は高齢妻とのカップリングが多数派であり、出生率も低くなります。

これは不妊治療の現場でもよくあることですが、「ではどちらの年齢が原因か」と、さして年齢の変わらない男女の間で意味不明な覇権争いを行ない、性的プライドを示すことが統計的には意味がないことを理解してほしいと思います。夫婦ともに若ければ、体の状態もともに良く、性生活への意欲や機能(これを無視し、精子年齢だけで受胎を語ろうとする議論には無理がありますが、実に多い言い分となっていることが残念です)も高めになりやすいため、子どもが生まれやすくなります。夫婦とも高齢であれば、体のコンディションについても若い頃に比べてともに衰えが生じ、性生活への意欲や機能も低くなりがちなことから、受精確率も低くなるのです。難しい学術論文の羅列は省きますが、WHOの発表でも、不妊の原因は男性原因/女性原因ともに5割であることを指摘しておきたいと思います。

■福山雅治の“年の差婚”は「統計的異常値」

統計的に見ると、いくら男性側が、「僕はもう40代だけど、精子は毎日つくられていてフレッシュだから大丈夫。だから、子どもが欲しい20代の女性たちよ、安心して結婚してください」とアピールしたところであまり意味がないのです。それよりも成婚するために大切な考え方は、自分自身の年齢が相手女性と同じくらいであるか、ということであるとデータは示しています。

それこそ、女性=「赤ちゃん製造機」ではありませんので、精子と結婚するわけではありません。結婚相手となる男性の持つ、夫婦生活力、子育て力を含めた体力・気力・疾病の保有・介護の可能性、時代感覚……「産ませるガソリン」たる精子としてではなく、総合的な人間として判断されているからこその当然の結果ともいえるかもしれません。

天野馨南子『データで読み解く「生涯独身」社会』(宝島新書)

「子どもが欲しい!」「若い女性が大好き!」――。結婚に向けた活動目的がどちらであっても構いませんが、「若い女性に結婚相手として選ばれる」ためには、男性もできる限り若いうちに活動しなければならない、ということになります。0.89もの強い相関があるマッチング現象における例外カップルになるためには、いい意味で、自らが「統計的異常値」を示す存在でなくてはなりません。

たとえば、初婚男性の年の差婚の成功事例で言うならば、福山雅治さんです。彼ほどに、(主観ではなく)客観的にルックスが良く、声も人気があり、さらに突出した経済力もあるなど、女性受けのいいたくさんのアピール力を持っているなどです(このように書いてみると、改めて福山雅治さんがいかに「統計的異常値」を示す存在であるか、ということがよくわかります)。

息子の婚期を男だからと遅く考えがちな母親は、とくにこの統計的な事実を重く受け止めてほしいと思います。「息子はいずれ若い女性と結婚して、子どもを授かることができる」そんな“ガチャポン孫感覚”があるのであれば、すぐにその考えを改めることによって、息子の結婚や孫を持つ夢がむしろ叶いやすくなると指摘したいと思います。

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天野 馨南子ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員
東京大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。1995年、日本生命保険相互会社入社。99年から同社シンクタンクに出向。専門分野は少子化対策・少子化に関する社会の諸問題。厚生労働省育児休業法関連調査等を経て結婚・出産。1児の母。不妊治療・長期の介護も経験。学際的な研究をモットーとし、くらしに必要な「正確な知識」を広めるための執筆・講演活動の傍ら、内閣府少子化対策関連有識者委員、地方自治体・法人会等の少子化対策・結婚支援データ活用アドバイザー等を務める。
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(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員 天野 馨南子 写真=iStock.com)