JR肥薩線・大畑駅のスイッチバック(写真:ドラマル/PIXTA)

夏も終わり、夜になるとコオロギの声が聞こえてくるようになった。残暑は厳しいが、夕刻は過ごしやすくなり、空を見上げると薄雲がたなびいて、確実に秋の気配が迫っている。夏の旅の定番であった、青春18きっぷの時期もいったんは終了となる。

18きっぷは安さと自由の利く代表といえるが、利用期間は限られている。けれども、いつだって旅に出たい。そこでほぼ通年で使えるお得なきっぷを活用してみよう。

「お得なきっぷ」は多種多様

と言うものの、多種多様なきっぷが存在する。たとえばJR東日本管内でよく知られているものに「週末パス」「休日おでかけパス」があるが、各エリアにも「あおもりホリデーパス」「津軽フリーパス」「いわてホリデーパス」「仙台まるごとパス」「えちごツーデーパス」「えちごワンデーパス」等々が設定され、さらに期間限定のきっぷも多数ある。

JR各社それぞれ同様であり、私鉄やバスまで広げるともはや無数と言っても過言ではなく、これらをすべてそらで言える人はそういないだろう。

そこで、乗り放題型のきっぷをいくつか覚えておき、必要に応じて行く先々のエリアになにかお得なきっぷがあるかどうか調べてみるのがよい。以下に代表的なものを挙げる。

◆18きっぷに似たタイプの乗り放題きっぷ(新幹線・特急不可。別途乗車券と特急券が必要)
・旅名人の九州満喫きっぷ
1万0800円 3日 九州内の鉄道の快速・普通列車
・四国再発見早トクきっぷ
2060円 土日祝の1日 JR四国の快速・普通列車

◆乗り放題きっぷ(別途特急券購入で新幹線・特急に乗車可)
・週末パス
8730円 土日祝の2日連続 甲信越〜南東北のJR東日本と14の会社線
・三連休東日本・函館パス
1万4050円 3連休 JR東日本、JR北海道の函館エリア、7社の会社線
・休日おでかけパス
2670円 休日、正月、GW、夏休み時期の1日。主に首都圏エリア
・JR東海&16私鉄 乗り鉄☆たびきっぷ
8480円 土日祝の2日連続 JR東海と16社の会社線
・ぐるっと九州きっぷ
1万4500円 3日連続 JR九州

※価格は2019年9月1日現在。10月1日以降、消費税増税による変更あり
 発売日、発売エリア、GW・お盆・正月の制限、利用可能新幹線の種類や回数などに注意

個人的によく使うのは「旅名人の九州満喫きっぷ」だ。JRだけでなく私鉄に使えることがすばらしいし、利用期間も購入日から3カ月以内と使い勝手もよい。

九州までの往復は飛行機として、現地で旅名人きっぷを活用する一例を挙げる。

私はJリーグ観戦にのめり込み、ジェフユナイテッド市原・千葉を応援している。昨年10月のロアッソ熊本戦でこのきっぷを利用した。体育の日の3連休であった。

連休は遠方に行くのに都合がよいが、反面飛行機代が高価になるのが悩ましい。以前紹介したダイナミックパッケージもまったく手が出なくなる。いろいろ調べたところ、ソラシドエアの大分便と宮崎便が比較的安価な値段で残っていたので行きは大分、帰りは宮崎とした。

このように、入る場所と出る場所を先に決めてしまう方法もよくやる。これに試合日とキックオフ時間という制約も加わり、行程に工夫をこらすのがより楽しくなる。

「旅名人の九州満喫きっぷ」を使う例

このときは大分から南下し、都城から吉都線、肥薩線で人吉、八代と経由して熊本に向かう算段とし、その後は未定のまま10月6日(土)早朝に家を出た。


大分から南下し熊本へ(赤線)筆者作成

折しも九州北部に台風25号が近づいていた。福岡空港、北九州空港方面は欠航が相次いでいたが、大分行きを予約していたことが幸いし、羽田6時40分発ソラシドエア89便は無事離陸した。大分空港からバスで大分駅に到着すると、博多方面への特急ソニックに運休があり、みどりの窓口には長蛇の列ができていた。

けれども自動販売機には人が少なく「旅名人の九州満喫きっぷ」を容易に購入できた。今回、似たような「ぐるっと九州きっぷ」との比較もしたが、JR以外も乗れる利点と約4000円の価格差から多少特急を利用してもよいと考え「旅名人」を選択した。これらは旅の経路や目的に合わせて使い分けるとよい。

さて、日豊本線を大分から南下する場合、宮崎との県境を越える佐伯―延岡間が難関だ。特急が1時間に1本あるのに比べ、下り普通列車は佐伯を早朝に出る延岡行きの1本のみなのだ。ここだけは特急を使わざるをえない。

そこで9時50分発の普通列車で臼杵まで進んでおき、後から追いついてくる特急にちりんシーガイア7号に乗り換えることで、乗車区間をなるべく短くするつもりだった。

しかし電光掲示板を見上げると、大分駅をすでに出発しているはずの9時10分発にちりん5号に「50分遅れ」の表示が出ており、乗るはずの臼杵行きもこの特急を先に通してから発車するとの放送が入った。ダイヤの乱れは宮崎方面にも及んでいたのだった。

こんなトラブルのときこそあわてずに、むしろ旅の醍醐味と捉えたい。

遅れても予定どおりの普通列車に乗るべきか、それとも大分から特急に乗ってしまうべきか。このときは、特急料金と乗車券代が余計にかかるが後者を選択し、にちりん5号に乗車した。

古さをサービスで補う温泉宿

結局、にちりん5号は定刻から約1時間遅れの12時ごろ、延岡に到着したが、それはもともと利用予定だったにちりんシーガイア7号の到着時刻でもあったので、ここで無事当初の予定に戻ったのであった。


宮崎発隼人行きの行先票(筆者撮影)

延岡では人気のチキン南蛮の昼食とし(驚くほどの行列で危うく列車に乗り遅れそうになった)、さらに南下して、宮崎発隼人行き普通列車に乗車した。これは宮崎を15時34分に出発し、日豊本線、吉都線、肥薩線と経由して、20時36分に隼人に到着する今どき珍しく長時間をかけて進む列車だ。キハ40系という昭和のディーゼルカーで郷愁も味わえる。


1泊1万円以下の温泉宿でも夕食はこんなに豪華(筆者撮影)

もっとも通しで乗る客はなく、入れ替わっていく地元の人々に紛れながら移り変わる車窓を眺め、吉都線の終点吉松にほど近い京町温泉で下車した。1泊2食8450円の温泉宿を見つけたのだ。以前の記事(1泊2食1万円以下の「温泉宿」を探す楽しみ)に書いたが、この価格帯の温泉宿は、建物は古くてもサービスで補おう、と感じるところが多く、好んで泊まっている。ここも大正時代から続く宿で、あぶりたての鮎をはじめ、驚くほどの量の料理と何時でも入浴できる温泉を楽しめた。

翌朝は吉松に出て、8時46分発肥薩線人吉行きに乗車した。吉松―人吉間は矢岳峠越えの日本三大車窓、ループ線やスイッチバックも楽しめる屈指の絶景路線だが、1日3往復のみ、内2往復はいさぶろう・しんぺい号という観光列車となる。つまり日常の列車は1日1往復ということになる。絶景ということは日常の客もいない、と理解すべきなのかもしれない。


吉松駅(筆者撮影)

この列車は人吉で30分停車のあと八代行きと変わり、日本三大急流の1つ、球磨川沿いを進む。川面に浮かぶラフティングのボートを眺めながら八代に出て、熊本での試合観戦へと向かったのだった。

翌日は旅名人きっぷをフル活用することとして、第三セクターの肥薩おれんじ鉄道で八代海や天草灘の海面が間近に迫る車窓を眺め、JRに乗り継ぎ最終的に宮崎空港から帰途についた。

関東在住者には「週末パス」も

もう一例、東日本に住む人であれば、週末パスが使いやすい。週末のJリーグ観戦にもぴったりで、最近ではアルビレックス新潟戦とモンテディオ山形戦で活用した。

昨年の新潟遠征では只見線を経て会津若松に泊まり、翌日磐越西線で新潟に向かった。いずれも川沿いを進む風光明媚な路線だ。

山形遠征では、去年は新潟の酒を味わえる観光列車「越乃Shu*Kura」を体験し、今年は越後線に向かって、JR東日本では残り少なくなった115系という昭和に製造された電車を懐かしんだ。

両年とも新津から羽越本線に乗って、日本海の景勝笹川流れの奇岩や岩礁を堪能したのち、酒田で宿泊した。翌日、陸羽西線を利用して山形に向かったのだった。酒田は週末パスの北限なのできっぷをフル活用した満足感も得られる。

その酒田では、訪れてみたかった寿司屋で1人飲んでいると、隣にいたおっさん2人組に話しかけられ、大変話が弾んだ。こんなことがあるのも旅の楽しみだ。

また、地元の人と会話することで外からはわからないことを知ることもある。以前訪れた町では、深刻な医師不足の悩みを聞いた。そんなとき、旅行者とは訪れた土地のことを何も知らずに「きれいだ、旅情がある」と喜んでいるだけなのだなあ、と痛感する。

そしてもっと旅をしたい、と思うのだ。