原田曜平さんが著書『ママっ子男子とバブルママ』で、新しい母息子像を取り上げてから3年。10代後半〜20代前半の子どもと40〜50代の親。この親子関係が激変しているのだそう。座談会で飛び出した新しい“親子消費”に驚く読者も多いはず――。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Fadyukhin)
座談会メンバー
塩田 亜多夢くん/慶応義塾大学3年生。実家暮らし。父は日本人、母は米国人でともに50代。よく母親の服選びに付き合う。男性
山本 果林さん(仮名)/専修大学4年生。一人暮らし。父は50代、母は40代で幼い頃に離婚。元カレの母親と仲良し。女性
岩下 虎太郎くん/東京通信大学1年生。実家暮らし。両親ともに40代。親との外出や旅行には抵抗感ゼロ。男性
井上 雄仁くん/法政大学3年生。一人暮らし。両親ともに50代。昨年も今年も母親と2人で海外旅行へ。男性
橋場 芽衣さん/早稲田大学2年生。大学の寮で一人暮らし。両親ともに40代。家庭では母親が一番強い。女性
堀井 優香さん/関東第一高校1年生。実家暮らし。両親ともに40代。母親とは何でも話す「友達母娘」。女性

■母の服選びに付き合う息子

【原田】昔と違って、今は親と仲のいい子が増えているね。僕が高校生の頃は母親と2人で外を歩くなんて恥ずかしかったものだけど、最近は買い物や旅行へ一緒に行く、友達のような親子関係も珍しくないようだね。2016年に書いた『ママっ子男子とバブルママ』では、マザコンとは違う新しい母息子像に注目したんだけど、今回は父娘も含めて親子セットでの消費行動の可能性を探ってみたい。それぞれ、自分の親子関係について紹介してくれるかな。

【塩田くん】僕は母親が服を買いに行く時、デパートについて行ったりしていますね。別に「ついでに僕も何か買ってもらおう」という下心からじゃなくて、ただ普通に母の服選びに付き合って、一緒にご飯を食べて帰ってきます。母親と一緒のところを見られて恥ずかしいという意識は全然ないですね。僕は父親とも仲が良くて、映画や音楽など共通の趣味が多いのでよく一緒に出かけます。

【原田】親にお金を出してもらうという下心なしで思春期の男性が母親とデパートに行くなんてことは、昔はめったになかったけど、今は恥ずかしいなんて気持ちは全くないんだね。以前、日本テレビのZIPで共演していた桝太一アナ(38)は、卒業旅行に母親と2人で行ったそうなんだ。そのことを後輩アナに散々いじられていたけど、桝さんも今の若者だったらいじられずに済んだかもしれないね(笑)。

【岩下くん】僕は両親が共働きなので一緒に出かけることはめったにないです。でも、それは単にお互い忙しくて時間が合わないからであって、もし都合が合って誘われたら喜んで行きますよ。友達に誘われて出かける感覚と全く同じで、一緒に出かけることに対する抵抗感はまったくない。周りを見ても、男子の90%ぐらいはそんな感じだと思います。

【原田】喜んで? 友達と同じ感覚? 90%の男子がそうなっている? これはもう大きなマーケティングの地殻変動と言えるかもしれないね。

■母親と息子がドイツへ二人旅

母親と2人でドイツ旅行にでかけたという井上くん

【井上くん】僕は去年、母親に誘われて2人でドイツに行きました。もともと海外旅行が好きなので楽しかったし、行けてラッキーだったと思っています。今年も2人で海外へ行く予定ですが、おごってもらうわけじゃなくて、自分の旅行代は自分で支払い済みです。父親とも仲はいいんですが父は飛行機が苦手なので、海外旅行に一緒に行くことはないですね。

【原田】お金を出してもらうとか、息子の側にメリットがあるならわかるけど、下心ゼロでそれはすごいなあ。僕は、今でも母親と2人で買い物や旅行に行くなんて考えられないよ。高校生の頃から、母親と一緒に出かけるなんて恥ずかしいっていう意識がしみついちゃってるからね。今は親孝行しなきゃと思ってご飯に連れて行ったりしているけど、それでも気恥ずかしさはあるよ。やっぱり僕の頃とはかなり違って、友達に近い母息子関係なんだね。

母と息子の距離が近くなってきたのは、企業のマーケティング戦略にとっても重要な変化だと思う。例えば旅行商品だったら「そうだ、息子と京都いこう。」というコピーが成り立つかもしれない。母と息子をセットにできる市場なんて今までは存在しなかったのに、それができる時代になってきたんだろうね。

■両親の離婚後も父と仲良くしたい

【原田】次に、父娘関係も変化しているのかどうか考えてみよう。女子はどうなのかな? 母親、父親それぞれとの関係を教えてくれるかな。

【山本さん】私は小さい頃に両親が離婚して、一人暮らしを始めるまでは母親と暮らしていました。でも母親にはいい印象がなくて、今はまったく会っていません。逆に父親とはちゃんと父娘関係を築きたくて、意識的に月2〜3回は会うようにしています。会った時は服を買ってもらって、ごちそうしてもらって……パパ活みたいですね(笑)。

【原田】親子関係が良くなるマクロトレンドがある中で、ある時期から日本の離婚率が3分の1になり、昔以上に親子関係に悩む若者が増えているのも事実なのかもしれないね。アメリカでは離婚はもっと多くて、僕の2〜3年前の調査では、離婚した親に対してネガティブな気持ちを持つ子どももあまりいなかったぐらいなんだ。山本さんはどうなのかな?

【山本さん】子どもの頃は両親を責める気持ちもありましたけど、今はないですね。離婚は父母のせいだけでもないなと思うようになって。だから今、一緒に暮らしてこなかった父親とは仲良くなりたいと思っています。

【原田】きっとお父さんもうれしいだろうね。

■家庭を仕切る母親の下で父娘が団結

【橋場さん】うちは家族の中で母親が一番強く、父親や兄弟と母に怒られないように団結しています(笑)。母親がショッピングにいくとなると、父や弟も一緒についてくることが多いです。東京で一人暮らしをしている今も、母親だけでなく父親とも適度に連絡をとっています。でも周りには、母親と団結して父親に対する不満を語り合っている子も多いと思います。

父親の靴下を借りることがある堀井さん(左)と、母親ととても仲が良い橋場さん(右)

【原田】母と娘が結託してお父さんの悪口を言うっていうのは昔から多かった現象で、今でもこっちのほうがマジョリティなんだろうけど、今は父と娘が結託する事例も増えてきているのかもしれないね。父と娘の間でも「友達親子」現象が進んでいるから、思春期にお父さん汚い、みたいに言う女子は減っているように感じますね。

そして、母親が強い母系家庭は実は今一番多いタイプかもしれない。今は男性が良く言えばマイルドに、悪く言えば弱々しくなっている時代だから、一家の大黒柱を父親がやっていた時代から変化し、母親がそれを担っている家庭が増えているように感じますね。

【堀井さん】私は母親とはすごく仲が良くて、毎日その日にあったことを全部話しています。買い物にもよく一緒に行くし、服を貸し借りすることも多いし、完全に友達と同じノリですね。父親は、昔は苦手だったけど今は仲良しで、2人でお昼を食べに行ったりしています。

【原田】堀井さんは父親と出かけることに抵抗がないんだね。思春期以降は「クサいからあっち行って!」ってなる女子も多いと思うんだけど、加齢臭とか気にならないの?

【堀井さん】うちのお父さんは身だしなみに気を使っているほうなので、加齢臭はしないです(笑)。家族共用のクローゼットもありますが、服がクサいと思ったこともないですね。私、靴下を借りることもありますよ。

■父親の靴下を履く女子高生

【原田】えーっ! 女子高生が父親の靴下を履くなんて、昔だったらありえないよ。洗濯するときは父親のものと分けて洗ってほしいと聞くことも多かった。堀井さんが多数派だとしたら、娘を持つ世のお父さんは勇気づけられるだろうな(笑)。それに、娘と父親がクローゼットを共有できるなら、今後は家の造り方も変わってきそうだね。個人個人の収納が不要になれば、かなり省スペース化を図れるよ。まあ、今のお父さん世代も、昔のお父さんと違い、確実に清潔感が増してスタイリッシュになってきているからかもしれないね。

【橋場さん】私の友達も、ぶかぶかファッションをしたい時はお父さんのTシャツを借りたりしていますよ。

【原田】えー! お父さんと娘が洋服や靴下を共有するのってそんなに当たり前になっているの⁉ まあ、「メタボ」なんて危機感を煽(あお)る言葉もあり、ジムやランニングに行く人が多くなっていたり、今のお父さんは昔よりもスレンダー体型になってきているから成り立つんだろうか。ただ、君たちのような若者世代と親世代とでは、ファッションも価値観もかなり違うよね。親と話したり出かけたりする時、その違いを「嫌だ」とか「ダサい」とか感じることはないのかな?

■友達より親のほうが信頼できる

【塩田くん】うーん、僕が無意識に選んでいるものって、親の影響が大きいと思うんですよね。服の好みもそうだし、香水は母親が使っていたブランドを気に入って使っていたことがあるし。もちろん違う部分もあるけど、だからって嫌だとは思わないです。違いがあるのは同世代の人も同じなので。

母親が使っていた香水のブランドを気に入っていた時期もあるという塩田くん

【原田】今の親世代のセンスが上がってきているのも事実だと思います。親世代のセンスが上がり、きっと昔よりも世代間ギャップが減ってきているのだと思う。とはいえ、いくら父親のセンスが良くても、昔は反発心からとにかく親と違うものを選択する若者も多かったと思うのだけど。

【橋場さん】私は、母親が選んでくれたものが“いいもの”だと思っています。自分にセンスがないと自覚しているのもありますが、やっぱり信頼しているから。例えば、服を試着して似合うかどうか聞いたら、友達は嘘(うそ)でも「いいね」って言うじゃないですか。母親は正直に言ってくれるので、すごく信用しています。

【原田】そうか。今の若者のほうが空気を読んだり忖度(そんたく)するようになってきているから、かえって親のほうが正直に意見を言ってくれる信頼の対象となっているんだ。昔の親友との関係が親との関係にシフトしてきているのかもしれないね。

【堀井さん】私は母親の服や靴をよく借りるんですけど、ファッションセンスは近くないんです。だから、母親が服を買う時に、借りること前提で意見を言うことはありますね。でも、母には母の好みがあるみたいで、「それはイマドキじゃない」って言ってもあまり聞いてもらえない(笑)。

【原田】さすがに高校生の堀井さんは母親とはセンスが違うわけね。でも、それでも洋服や靴をシェアするんだ。

新たな家族像が大きなビジネスチャンスに

【井上くん】僕は両親と価値観が似ているんです。だから、一緒に行動するのも服を選んでもらうのも全然抵抗がないですね。価値観が違う同世代より、むしろ両親の意見のほうが役に立つ気がします。女性の意見を知りたいときは、母親に聞いていますね。

【原田】皆の話を聞くと、親子の絆が昔より強くなっているように感じるね。日本は一人暮らしが多い国で、家族の総数も以前より減っている。その影響が意外なところに出て、親子関係も価値観もぐっと距離が近づいているようだね。

母娘をセットで捉える市場はすでにありますが、これからは母息子、父息子、父娘というセットもマーケティング対象にすべきなのかもしれません。この“新たな家族像”には、大きなビジネスチャンスが秘められているように思います。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=辻村洋子 写真=iStock.com)