タイの国民的シンガーソングライター、Stamp(スタンプ)がまもなくサマーソニックに登場する(8月17日(土)東京公演に出演)。本国では万単位のオーディエンスを前にワンマン公演を行うほどの人気者。その一方で大の親日家であり、先ごろリリースされた日本デビューアルバム『EKAMAI DREAM 1』では、英語・タイ語・日本語を使い分け、モダンでボーダーレスな音楽性をアピールしている。彼の歩みと日本への想いに迫った。

―今回のアルバムにも入ってる「Kwarm Kid」はドラマの主題歌にもなって、タイで爆発的にヒットしたそうですね。この曲はなぜそんなに人気があるんですか。

Stamp:10年前にリリースした曲なんですけど、ノスタルジーを求める人たちに広く受け入れられたのかなと思ってます。

―というと?

Stamp:人は生きていくなかでいろんな場所に行くじゃないですか。そこで誰かと一緒に過ごした経験は、自分のなかに残ったりもする。この曲を聴いた人たちから、亡くなったお父さんを思い出した、死んじゃった犬を思い出した、別れた恋人を思い出した……たくさんの感想をもらいました。みんなそれぞれ、自分の思い出のある場所を思い出しながら、自分の解釈で受け止めてくれているみたいです。

―とても素敵な曲なんですね。Stampさんのファンは若い方が多いんですか?

Stamp:ファン自体は若者が多いんですけど、タイではテレビにも出たりもしているので、それによって上の世代のファンも増えてますね。タイでは60歳になると引退して、イベントとかパーティを開いたりするんですけど、そこに招待されててご年配の方々に喜んでいただいたりとか、そういうほっこりするようなエピソードもあります。

―本当に国民的なスターって感じなんですね。

Stamp:いえいえ!

―そんなStampさんが音楽を始めたきっかけは?

Stamp:Modern Dogというタイの代表的なバンドが90年代半ばくらいから活躍し始め、彼らに影響を受けて楽器を始めました。それまでタイの音楽シーンはアイドル系というか、容姿がかっこいい人たちばっかりだったんですけど、95年〜97年くらいのあいだにバンドがいろいろと出始めて、自分もそういうふうになりたいと思うようになって。バンドサウンドにたくさんの楽器が使われるなか、僕が最初に聞き取れたのはギターで、そこから自分もギターを弾くようになりました。

―Modern Dogは、海外でいうとどの辺のバンドに当たるのでしょう?

Stamp:レディオヘッドですね。彼らも大好きです!

―他にその当時好きだった音楽は?

Stamp:ブリッドポップですね。あと、LArc-en-Cielも好きでした。当時はX JAPANがタイでも大人気で、僕は彼らを通じてラルクに辿り着き、美しいメロディに惹かれてしまいました。

―タイでもヴィジュアル系が人気だったんですね。

Stamp:深田恭子さんが主演したドラマ(『神様、もう少しだけ』)が、タイで(日本から1年遅れの)99年にすごくヒットしたんですよ。それで主題歌だったLUNA SEAの「I for You」もタイで人気だったんですよね。僕もそこから日本の音楽を広く聴くようになりました。

―1982年生まれのStampさんがModern Dogに熱狂したような感じで、タイに住む今の10代にとってのカリスマ的アーティストを挙げるとしたら?

Stamp:Youngohmってラッパーがいて、彼はYouTubeで1億回以上も再生されてるようなアーティストですね。ポスト・マローンみたいな感じで、タイでは恐ろしいほど人気があります。僕がタイで新しくリリースした曲でフィーチャリングしてるんですけど、彼の影響もあってたくさん再生されてるし反応がいいです。

―いわゆる欧米のアーティストたちは、タイで人気があるんですか。

Stamp:いや、タイの若者のなかで一番人気があるのはK-POPですね。K-POPに行く人たちと、洋楽に行く人たちとで二極化しているような感じです。特に最近だと、BLACKPINKのLISA(バンコク出身)がメンバーにいるので、応援したい人が増えているのもありますね。ビリー・アイリッシュも人気がありますよ。欧米だとヒップホップ系が人気です。

―話を戻すと、メジャーデビューするまでにはどういう過程があったんですか。

Stamp:最初は下積みというか、タイではよくパブで演奏する文化があるんですけど、そういうところやバーで演奏したりしてきましたね。バンドのバックアップをすることもあったし、裏側の制作、作詞作曲に関わることからスタートしました。

―そんな下積み時代を経て、今ではタイのトップアーティストとして活躍されてますけど、そこに至るまでのあいだにターニングポイントみたいなのはあったりしたんですか?

Stamp:最初は裏側で制作していたのが、自分の歌を作り始めるようになり、そこから徐々にテレビに出演する機会も増えてきて。コツコツと努力を積み重ねていったことで、今のステータスに上がってきた感じがしますね。

―やっていけるなって手応えを感じたのはいつ頃ですか。

Stamp:自分のワンマンライブに、たくさんの人が来てくれた時かな。最初のスタートから7年目くらいでようやくワンマンライブができて、本当にいろんな人たちが来てくれました。さっきも話したように、タイではパブとか小さなイベントでライブをやることが多いので、ワンマンを大きい会場でやるのがなかなか難しくて。それが実現できたのはすごく嬉しかったですね。


Photo by Takuro Ueno

―その後、2012年に初来日したそうですね。その頃は音楽制作のスランプに陥っていたとか。

Stamp:もともと日本が好きで、ずっと行ってみたかったんですよ。落ち込んだりスランプになったりすると、何か新しいことを始めたり、自分の好きなものにすがりたくなったりするじゃないですか。そういう感じで日本に来ました。

―なるほど。

Stamp:あと、タイにいる時は自分のステータスでいろいろ考え込んじゃうけど、日本にいると誰も私のことを知らないし、息抜きもしやすいですよね。そういう心の拠り所みたいな感じでした。

―日本のゲームやアニメも好きなんですよね?

Stamp:最近はやり込む時間があんまりないけど、幼いからずっと好きでした。アニメやゲームとかを見ると、子供の頃を思い出して懐かしい気持ちになりますね。

―具体的にはどのあたりが好きですか。

Stamp:『ろくでなしBLUES』です。

―これまた意外な。

Stamp:いやー、面白いです。ちょうど高校時代に読んだので、自分自身を投影してしまって。

―Stampさんとヤンキー漫画はなかなか重ならないですよ(笑)。

Stamp:そうだね(笑)。日本の少年マンガは夢や友情、情熱をたくさん描いているところが好きです。

日本人アーティストとのコラボも行なってきたStamp。「GAME OVER」はYMCKとのコラボ曲で、双子ラッパーのP.O.P.も参加。

―あと去年来日した時、欅坂46のTシャツを買ってたそうですね?

Stamp:はい(笑)。

―お好きなんですか?

Stamp:もともとアイドルに興味はなかったんですけど、タイでBNK48が人気があって。彼女たちがきっかけで研究するようになったんです。BNKからAKB、AKBから乃木坂、欅坂みたいな感じで。最初はしっかり聴いてなかったけど、音楽的にも面白いし、励ますようなメッセージをもつ歌詞もすごくいい。僕はタイで「123Records」という自分のレーベルをやってるんですけど、いつかそういうアイドル系のグループをプロデュースするのが夢です。

―ちなみに、欅坂46のメンバーでは誰が好きですか。

Stamp:平手友梨奈さんですね。

―今回リリースされた『EKAMAI DREAM 1』は、どんなアルバムにしようと考えていましたか?

Stamp:タイでは受け入れられるか微妙な曲でも、日本だったらいけるだろうと。向こうでは既にStampのイメージが固定化されてしまってるので、その殻を壊すような音楽を作るのがテーマでした。これまでタイで発表してきた曲もアレンジを加えたり、新しいジャンルとして解釈し直したり、そういうチャレンジもやっています。

―タイでどんなイメージを持たれているのか気になります。

Stamp:タイではどちらかというと、歌詞の印象を強く持たれていると思います。なので、音楽を作る時もまずは歌詞が耳に入るような感じにしていて。でも、今回のアルバムはタイ語ではないので、サウンド面もすごくこだわっています。

―たしかに、ポップでモダンな音楽性が印象的でした。自分のなかでどんなことにチャレンジしましたか?

Stamp:モダンポップ的な部分について言うと、日本というかアジアのメロディックなところを取り入れつつ、インターナショナルに受け入れられそうな作品をめざしました。タイや日本、英語とかに固定されず、どこに住む人が聴いても「いいね」って思われるような歌を作りたくて。僕自身、Spotifyのなかで曲をサラッと聴く時に、どんな言語で歌っていても、アジアのメロディックな要素が入っていると柔らかく感じる気がして。そういう音楽が好きで、自分のアルバムに取り入れたいっていうのもありました。

―タイ語で歌ってる曲もありますけど、すごくタイらしいかといえばそうでもない。独特のバランス感覚がある気がしました。

Stamp:そうですね。今回のアルバムでは、タイらしさを入れることを頑張りすぎないように意識しました。タイの楽器を入れたりとかそういうのではなく、僕が作って歌うことによって、何をやったとしてもタイらしさが滲み出てくると思うんですよ。それくらいでいいのかなと思って。

―「Million Views」って曲は、Stampさんが日本語で歌ってますよね。発音が流暢でビックリしました。

Stamp:ありがとうございます。レコーディングする時に、日本のミュージシャンの友だちが聴いてくれてて、アドバイスをもらったりしました。発音とかの微調整もその友だちに手伝ってもらって。2年前に日本でツアーをした時は、ほぼタイ語と英語の歌ばかりだったんですけど、1曲くらい日本語で歌えればお客さんが喜んでくれるんじゃないかなと思って。

―Stampさんはシンガーとして、本当に素晴らしい声をされてますよね。

Stamp:ありがとうございます。10年くらいキャリアを積み重ねてきたなかで、昔と今で自分の声が変わってきてるのを実感しています。自分の声を知り尽くすようになったことで、声の使い方もわかってきた感じがしますね。ロックやオルタナティブが大好きだけど、自分としてはそういうアグレッシブに歌うタイプじゃないので。ロックなんだけど歌が優しい感じが自分の道だなと思っています。

―このアルバムに影響を与えた音楽を挙げるとすれば?

Stamp:POP ETCですね。2016年のサマーソニックで彼のライブを観たら、まるで夢のなかで見たような音楽で、これは自分でやりたいと思いました。カッコ良さのなかに優しさがある。

―POP ETCのクリストファー・チュウが、Stampさんが2017年に発表したアルバム『Stampsth』のプロデュースを務めているんですよね。

Stamp:そうそう。まずはファンとしていろいろ聴いて、そしたら一緒に音楽を作れるようになって。あれは素敵な経験でした。

―自分のなかで特に気に入ってる曲は?

Stamp:いくつかあって迷いますけど、FIVE NEW OLDのHIROSHIと一緒にやってる「Die Twice」ですね。自分の曲としても、FIVE NEW OLDの曲としても、しっかり聴こえるバランスの良さが気に入ってます。

―コラボといえば、台湾のクラウド・ルーとも交流があるんですよね?

Stamp:そうですね。彼も友だちで、もう神のような存在です。自分もクラウドさんみたいになりたいですね。

―他にもアジアで興味のあるバンドやミュージシャンは?

Stamp:アジア……うーん。すぐに思い出せなくて。

88risingのような動きには興味あったりしますか。

Stamp:チェックはしていますけど、彼らはライフスタイル全般がクールな感じがする。僕とは毛色が違うなーと思います(笑)。

―日本で注目してる人はいますか?

Stamp:King Gnuですね。キーボードが優しいメロディを演奏するなかで、ギターがすごくアグレッシブ。そのハーモニーがいいですね。

―最後に、サマーソニックではどんなライブが期待できそうですか。

Stamp:海外でこんなにスケールの大きなフェスに出られることはすごく嬉しいんですけど、観に来てくれる人たちの大半は、僕のファンではないと思うので。僕としては新鮮な気持ちでステージに立てるし、お客さんにも新しいアーティストを見るつもりで楽しんでほしい。たぶん、15年前に初めてタイのフェスに出た時と同じような気持ちになると思います。お互いにとって、いいスタートが出来るんじゃないかな。バンドメンバーはオール日本人で、FIVE NEW OLDのSHUNがベースを弾いてくれる予定です。


Photo by Takuro Ueno

〈リリース情報〉


Stamp
『Ekamai Dream 1』
発売中
http://www.toysfactory.co.jp/artist/stamp/disco/2030

〈ライブ情報〉
SUMMER SONIC 2019
8月16日(金)、17日(土)、18日(日)
東京:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
大阪:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※STAMPは8月17日(土)東京公演に出演
http://www.summersonic.com/2019/