したがって課題は、その潜在能力をチームの戦術的な文脈の中で効果的に活かし、トップレベルの舞台で決定的な違いを作り出すプレーヤーに成長できるかどうか。これはC・ロナウドやネイマールからサラー、スターリングまで、傑出したドリブラーが偉大なアタッカーに成長し脱皮する過程で必ず通ってきた道だ。ロドリゴにとっても、そこが今後数年の成長過程における、最も大きな課題になるだろう。
 
 一方の久保は、身長こそ173センチとロドリゴとほぼ変わらないが、より重心が低く筋肉量もやや多い体格の持ち主だ。得意とするポジションはウイングではなくトップ下。爆発的なスピードに欠けるがゆえに1対1で相手をぶっちぎる突破力は持っていないが、左足の高いテクニックと優れた状況把握・判断力を武器とし、シュートよりもむしろパス、アシストでラスト30メートルに決定的な違いを作り出す力を備えた攻撃的MFだ。

 ペナルティーエリア内に入り込んでフィニッシュに絡むよりも、敵2ライン(DFとMF)間を舞台にそのひとつ、ふたつ前のプレーで決定機をお膳立てするタイプ。その意味ではトップ下と言ってもいわゆる9.5番タイプではなく、よりMFに近い8.5番タイプと言ったほうがいいだろう。

 プレシーズンマッチで得た出場機会に見せたプレーには、フィリッペ・コウチーニョやベルナルド・シルバのようなアタッカー色の強い攻撃的MFを彷彿させる部分があった。とはいえそれは、まだ開幕前でプレーのインテンシティーが低いゲームでの話だ。シーズンが始まり、インテンシティーが高まってスペースと時間がさらに圧縮されれば、ゴールに近いところで違いを作り出す難易度は大きく高まる。

 現在の久保は、状況判断やプレー選択という戦術的な側面でも、そしてとりわけフィジカル的な側面(スピード、パワー、クイックネス)でも、そこで違いを作り出す力はついていないように見える。
 
 久保のプレーが彷彿させるプレーヤーは、トッテナム時代のルカ・モドリッチだ。当時は現在よりアタッカー色がやや強かった。ボールを持ちたがる傾向があり、1プレーあたりのボールタッチ数も多かったが、久保はモドリッチと比べると球離れがいい。とはいえ、一旦足下に収めてそこからドリブルで運びながら次のパスコースを探すこともままある。

 プレースタイル的には、マドリーのように攻撃の最終局面を個人能力による解決に頼るタイプのチームよりも、マンチェスター・シティや以前のバルセロナのように、組織的な連携によって局面を打開し決定機を作り出すタイプのチームに向いている。

 例えばシティのサッカーの中ならば、同じ左利きのダビド・シルバのような司令塔的なインサイドMFに成長する道筋がはっきりと想像できる。マドリーのサッカーはそこまで組織的なものではなく、個人のテクニックや閃きに依存する部分が大きい。その戦術の中でプレーを続けるならば、見えてくるのはモドリッチがたどったような進化の道筋だろう。4-3-3のウイングではないし、4-2-3-1のトップ下でもない、むしろ4-3-3や4-1-4-1のインサイドハーフというイメージだ。
 
 それも含めて、今後の伸びしろはたっぷりある。フィジカル的にまだ成長の余地を残していることはもちろん、技術・戦術的にもまだ常に最もシンプルかつ効果的に局面を前に進めるプレー選択ができているわけではない。

 さらに、メンタル的な側面でも今後経験を重ねていく中で、メガクラブのプレッシャーや厳しい競争がもたらすストレスへの耐性が問われることになる。ロドリゴ同様、成長の過程で乗り越えるべき最大の壁はそこにある。

分析:ロベルト・ロッシ
翻訳:片野道郎

●分析者プロフィール
ロベルト・ロッシ/1962年3月16日生まれのイタリア人監督。MFだった現役時代は、チェゼーナの育成部門でアリーゴ・サッキ(元イタリア代表監督)に、ヴェネツィアではアルベルト・ザッケローニ(元日本代表監督)に師事。99年に引退し、01〜08年はラツィオやインテルなどでザッケローニのスタッフ(コーチ兼スカウト)を務める。その後は独り立ちして下部リーグの監督を歴任。19年1月からチェゼーナ女子(セリエB)の指揮官を務める。『ワールドサッカーダイジェスト』ではチーム戦術やプレーヤーの分析が好評を博している。