ギネス記録にも認定されたカードゲーム

世界で一番売れているカードゲームは何か? それはきっとトランプでしょう。

では、世界で一番売れているトレーディングカードゲームは何か? それは『遊戯王OCG デュエルモンスターズ』(以下、遊戯王OCG)です。遊んだことや名前を聞いたことがなくても、誰でも一度くらいはコンビニや書店で売られているのを見かけたことがあるのではないでしょうか。

遊戯王OCGは、『週刊少年ジャンプ』で連載していたマンガ『遊☆戯☆王』(1996-2004)の劇中ゲームをもとに、1999年に生まれたカードゲームです。『遊☆戯☆王』は当初、主人公が様々なゲームで悪者を倒していくという話だったのですが、カードゲームの話が人気を博したことから、それを主眼においた作品にシフトしていきました。

連載終了後も人気はとどまることなく、今年、発売20周年を迎えました。10月には発行したカードの種類が累計1万種に達することを記念したイベントなども予定されているそうです。

2011年には累計251億7000万枚のカード販売枚数から「世界一販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネスの認定を受けています。現在もその記録は更新され続けていることでしょう。

他にも遊戯王OCGの勢いを示すデータとして、販売元のコナミホールディングス株式会社(以下、コナミ)が2019年5月にリリースした決算短信を見てみると、2019年3月までに、遊戯王OCGのスマートフォンゲーム版である『遊戯王 デュエルリンクス』は全世界で累計9000万ダウンロードされています。遊戯王OCG関連事業が含まれるデジタルエンタテインメントの売り上げ約1400億円の中でもかなりの割合を占めているのではないでしょうか。

その他にも各地のカードショップやフリマアプリ、オークションサイトなどで価値の高いカードが単品で取引されていることがあります。そこまでの市場を含めると、全容を捉えるのはもはや不可能ですが、一企業が手掛けている一ゲームの市場としては、とてつもない規模感であるのは間違いありません。

私はボードゲームのデザイナーとして、同じくアナログゲームである遊戯王OCGがこうした人気を博す理由を考えずにはいられなくなりました。また、その理由を探していくうちに、遊戯王OCGのゲーム性は、やはりある種のゲーム性を帯びる「ビジネス」にも通じるのではないかと考えたのです。

人気が衰えない理由、それは…

マンガから生まれたゲームであるという誕生ストーリー、洗練されたルール、優れたカードデザイン……。遊戯王OCGの人気の理由は様々なものが考えられます。

しかし発売開始から20年も経てば、おそらく何度かプレイヤーの世代交代を経ているはずです。それでも勢いをもち続ける理由を特にひとつ挙げるとするなら、「リミットレギュレーション(旧:禁止・制限カード)」ではないでしょうか。リミットレギュレーションとは、遊戯王OCGにおけるカードの使用制限を指す言葉です。

遊戯王OCGのプレイヤーは、デッキと呼ばれるカードセットを構築し、他プレイヤーとデュエル(対戦)をします。デッキを構築する際は、同名カードの枚数は3枚までに収めなければならないというルールがあります。ですがリミットレギュレーションで設定されたカードは、デッキに入れることができる同名カードの最大枚数が個別に決められています。

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設定には「禁止」「制限」「準制限」の3種類があり、それぞれ、デッキに入れることができない・1枚のみ入れられる・2枚のみ入れられると決められています。注目すべきはその改訂の頻度で、かなり頻繁に行われています。

そもそも、禁止・制限カードという設定が始まったのは、遊戯王OCGの販売開始と同じ1999年。以降、現在まで58回もの改訂(2019年7月1日適用のリミットレギュレーション時点)がなされています。最初期は不定期な更新でしたが、現在は3ヵ月ごと、年4回の更新で落ち着いています。

これは、大規模なテストプレイと改善の2つの意味合いで捉えることができます。

私がボードゲームデザイナーとしてゲームをデザインする際には、必ずテストプレイという工程を行います。企画したゲームを商品として大量生産する前に、本当に遊んで面白いのかをチェックし、改善していくのです。

ゲームデザインはプレイヤーの体験をデザインすること。だからこそプロダクトをつくるだけではなく、体験自体のテストを経なければ、実際のプレイに耐えるゲームは絶対に完成しません。

それでも、実際にリリースしてから「このルールの方がいいのではないか」「こんな遊び方もできるのではないか」というアイデアが、プレイヤーから沢山出てきます。それらの意見を版を重ねる時に取り入れることもあります。そうしてどんどんゲームを面白くしていくのです。

遊戯王OCGのリミットレギュレーションの改訂は、まさにこのテストプレイの結果を受けて行うルールの改善と言えます。

これまでに膨大な種類のカードがリリースされている遊戯王OCG。よって、新しいカードがリリースされる前に、それらが過去のカード群と、どうシナジーを発生させ、ゲームバランスを崩壊させてしまうかを判断するのは不可能です。そこで遊戯王OCGは、リリース後の大会などでプレイヤーたちのカードの使用の仕方からフィードバックを受けて、リミットレギュレーションを改訂し続けています。

たとえばあまりにも強すぎるカードが判明して、それが入手の難しい貴重なカードだった場合。それを持っていないプレイヤーや、新規プレイヤーがゲームを楽しむのが難しくなってしまうでしょう。そこでデッキに投入できる枚数を減らすなどしてカードのパワーを下げるという措置を取ったりするのです。

こうした細かな調整が、遊戯王OCGのゲーム体験を高レベルで担保し、既存プレイヤーたちを捉えて離さず、また新規プレイヤーの参入障壁を下げているのだと考えられます。

手札は「選択肢」、デッキは「可能性」

遊戯王OCGが重要視するリミットレギュレーションの、具体的な内容にも踏み込んでみましょう。よく見てみると細かく改訂されているだけでなく、コナミ側がプレイヤーたちにどのようにゲームを楽しんでもらいたいのかという思想も分かってきます。

そしてそこからは、我々が立ち向かっているビジネスというゲームにおける振る舞いへの学びも得ることができるのです。

さて、リミットレギュレーションで禁止されているカードで最も目につくのは、手札に干渉する効果をもつカードたちです。

たとえば、自分の手札を増やすカード。『強欲な壺』という禁止カードは、デッキから2枚のカードを引くという効果を持ちます。これはカード1枚で2枚のカードを手に入れることができる……つまり、5000円と1万円を交換するようなもので、非常に強力です。

また反対に、相手プレイヤーの手札を破壊するカードも多く禁止されています。代表的な禁止カードである『強引な番兵』。ノーコストで相手の手札を見て、選んだ1枚をデッキに戻すという効果を持ちます。相手の出方を見つつ、嫌なカードがあったら消してしまえるのです。

こうした手札に干渉するカードをコナミが禁止しがちなのは、ゲームにおける駆け引きを大事にしているからです。遊戯王OCGの公式サイトでは、カードの使用を制限する理由をいくつか解説していますが、そこには「デュエルの駆け引きの要素が激減するようなカード・コンボへの一定の規制」とあります。

駆け引きは、プレイヤーに「選択肢」があるときに起こります。そしてカードゲームにおける選択肢とは、手札そのもの。プレイヤーが使用できるのは基本的に、手札にあるカードだけだからです。選択肢(手札)が多いほうが駆け引きで有利となり、駆け引きで優位に立てばゲームを優勢に進めることができます。

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コナミには、特定の強いパワーを持つカードを引けたかどうか(つまり運)でゲームの局面が大きく左右されてしまうのを避けたいという意図があるのでしょう。

一方で面白いのは、相手のデッキへの破壊行為はそこまで規制を受けていない点です。デッキは「将来的に手札に入るかもしれないカード」、つまり「可能性」に過ぎません。それが無くなったところで、眼前の駆け引きへの影響が大きくないからではないでしょうか。

くわえて、もし相手プレイヤーの山札を破壊しようと思ったら、そのときは自分の手札を消費しなければなりません。それは言わば自分の選択肢と、相手の可能性の交換であり、割に合わないケースが多いのです。

自分が所持しているカードを見極めよ

「選択肢と可能性を駆使して、相手と駆け引きを行う」

これがゲーム全般の面白さなのですが、トレーディングカードゲームでは、それに加えて可能性・選択肢を自分で考えて用意できる面白さがあります。遊戯王OCGはそれに伴うゲーム性を大事にするからこそ、簡単に手札を増やす・破壊する行為に対して厳しい措置を行っているのでしょう。

だからこそ、勝敗が奇跡的な幸運や理不尽な不運で決まってしまうのではなく、あくまで対峙しているプレイヤー同士がいかにデッキを構築し、それを運用し、相手の優位に立てるかを競い合える楽しいゲームとして成立しているのです。

こうした絶妙なルールの設定から学べるのは、「選択肢」と「可能性」を区別してビジネスに立ち向かうことだと思います。

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少なくとも遊戯王OCGにおけるデュエルのような短期的な戦いであれば、我々は可能性よりも選択肢を重要視すべきです。可能性はデッキの中に眠っていると行使できないので、場における価値はゼロと言えます。

可能性の価値が高まるのは、それが将来的に選択肢になりうると判断できる時です。たとえば自分たちのビジネスに興味をもってくれる人(=可能性)を集めるだけでなく、その人たちに顧客になってもらえる流れを用意しないと意味がありません。

こうした前提を持たず、可能性の価値を実際より高く見積もってしまって、目の前にある選択肢を最善のかたちで行使する決断が下せないのなら、それは間違いだと言わざるを得ません。幸運が味方して次のターンでお目当てのカードが手札に入ってくるかもしれませんが、何らかの手をうっていないのであればその確率はけっして高くないでしょう。

もし本当に運良く引けたとしても、同じやり方を続けていたら、次回以降に同じシチュエーションに遭遇したときに敗北します。カードゲームでもビジネスでも、意思決定は選択肢を主材料にして行わなければ、いつまでもギャンブルをしていることにな流のです。

もちろん、人生というより長期スパンでの“ゲーム”であれば、この限りではないかもしれません。自身の可能性を広げるために、いろんな人に会ったり、読書をして知見を広げるのは良いことです。

ただし忘れてはいけないのは、いずれにせよ可能性の中から選択肢に入れられる数は限られているという点。遊戯王OCGにおいても、手札を所持できる枚数はルールで決まっています。

大事なのは、自分が取り組んでいるゲームのルールを理解し、所持しているカードが「選択肢」なのか「可能性」なのかを見極めること。そして、その2つの使い方を見誤らずにプレイしていくことだと思います。