クールビズ」で、OKな場合とNGになる場合の基準があるかどうか、さまざまな企業に実情を聞いてみました(写真:xiangtao/PIXTA)

今や、夏の職場の定番スタイルとなった「クールビズ」――。

2005年に政府が、地球温暖化対策の一環として「初夏から秋の軽装スタイル」を提唱し、今年で15年になる。政府側の推進機関である環境省からは、今年も4月23日に「2019年度(平成31年度)クールビズについて」という指針が発表された。

だが、ビジネス現場を取材すると「この場合には、どんな格好をするか」で悩む人も目立つ。例えば、お堅い業種の相手先に行くケースだ。そこで今回、大企業と中小企業各社に質問し、実態を教えてもらった。多くの回答数を集めるのが目的でなく、この会社(業種)は「どう考えて、その服装を選ぶか」を目的にしたことを、最初にお断りしておく。

2019年夏「クールビズの作法」(ドレスコード)例を、考え方とともに紹介したい。

各部門に任せて「お客さま目線」で判断

「2018年5月から、アサヒグループでは“ビジネスカジュアル”を導入しており、夏場に限らず、1年中ノーネクタイで過ごす従業員もいます。基本的に服装は自由で、ルールを設けていません。ただし、次のような基本原則を設けています」

こう話すのは、アサヒグループ(アサヒG)全体の管理業務を担う、アサヒプロマネジメントの徳久雄弥さん(総務業務部・企画グループ マネジャー)だ。アサヒビールやアサヒ飲料などを持つ同グループが掲げる基本原則とは、次の3点だという。

(1) 食品業界にふさわしい、清潔感を損なわない服装
(2) TPOに応じた、ビジネスに適した服装
(3) お客様の視点に立った、来客対応可能な服装

夏場の場合、ポロシャツ姿は見かけますが、Tシャツは“ビジネスにふさわしくない服”と認識されており、職場では見かけません。一方、株主総会などの式典や、商談の際は、ネクタイを着用する場合もあります」(徳久さん)

アサヒグループホールディングスのような上場企業では、例えば株主総会は、コーポレート部門(人事部、総務部、広報部、法務部など)全体での取り組みとなる。同社が、今年3月の定時株主総会をホテルニューオータニ(東京都千代田区)で行ったように、外部施設を借りて式典を行う場合も多い。多くの社外の人と接する式典は、ジャケット着用、男性はネクタイ着用が一般的。この日ばかりは、関係者も“正装”が多くなるようだ。

もう少し細部までルールを決めた会社もある。グループ傘下に「ロイヤルホスト」や「シズラー」などのレストラン(飲食業)、ビジネスホテルの「リッチモンドホテル」(宿泊業)があるロイヤルホールディングス(ロイヤルHD、上場企業)だ。同社経営企画部コーポレートコミュニケーション担当部長の吉田弘美さんは、次のように説明する。

「当社では、男性は『襟付シャツを着る』というルールがあります。事務職など内勤の場合、ポロシャツの着用もでき、またシャツをパンツアウトで着ることも可能ですが、その前提でデザインされたものに限る、としています。一方、営業職やお客様に会う可能性がある場合は、ビジネスシャツで必ず肌着着用、パンツアウトは不可としています」

夏場に男性社員がネクタイをつける場合はあるのだろうか。

「例えば、経営幹部や部長クラスが社外で講演をする場合や、秋以降に掲載予定のメディア取材を受ける場合はネクタイの着用もあります。また幹部社員以外でも、お客様にお詫びに伺う際にはネクタイをつけています」(吉田さん)

筆者が仕事をするメディア業界でも、例えば「出版社の編集者がネクタイ姿の日はお詫びのとき」と言われるが、男性の場合「相手先へのお詫び=ネクタイ着用」という意識は共通のようだ。

内勤の女性も「露出の多い服装」はNG

男性に比べて服装の選択肢が多い、女性の場合はどうだろう。近年は重要な職務を担う女性が増えた。カバンメーカーへの取材では「プレゼンテーションの場にも持参できるカバンが欲しい」という女性の声に応えて、新商品を開発した例も聞いた。

「お客様と会う可能性がある業務では、ジャケットなしの場合、襟つきのシャツかブラウス、ジャケット着用時は襟なしでも可としています。靴はパンプスと限定していませんが、ビジネススタイルとしてふさわしいものを使用するとしています」(ロイヤルHD)

ロイヤルHDでは、内勤時の女性の服装は、さらにこんな取り決めをしている。

「襟のないトップス、ワンピースもカジュアルすぎなければ可としており、色柄などはビジネスにふさわしいものとしています。Tシャツや露出の多いカットソー、タンクトップ、キャミソールは不可です。

パンツは少し短い7、8分丈も可。デニムはダメージ処理されていないオーソドックスなものに限ってはけます。ただし短すぎるスカートやパンツはNG。また、靴はミュールやビーチサンダルのような、かかとが浮くタイプはダメです」

「男女の性別は分けておらず、基本原則を基準にしている」というアサヒGも、「露出の激しいスタイルや、ビジネスに適さないルーズな服装や、派手な服装(靴)、クロックスのような合成樹脂のサンダル、ヒールストラップのないサンダルなどについては、NGのガイドとして提示している」との答えだった。

以前、別の機会に取材した際は、ある会社から「その格好は『オンビジネスか・オフビジネスか』という目線で判断する」という話も聞いた。この視点は変わらないようだ。

ここまでは、大企業の主にスタッフ部門の例を紹介したが、中小企業の工場や現場作業の多い業種はどうしているのか。ここでは2社の事例を紹介しよう。

いわゆる町工場だが、プレス金型などの技術に定評があり、ユニークな商品開発でも知られるニットー(本社・神奈川県横浜市、従業員50人)。本社は、横浜ベイサイドマリーナに近く、中小の工場が立ち並ぶ場所にある。社長の藤澤秀行さんはこう説明する。

「工場で働く従業員には、会社が襟付きの作業服のほか、ドライメッシュTシャツも支給しています。基本的にはこの服を着ることになっています。一方、事務員については、こうした作業服のほか、ワイシャツやポロシャツ姿もよいとしています。

女性事務員はベストとパンツ、もしくはスカートを着用します。男女ともに、靴の規定はありませんが、工場を歩く場合もあるので、安全で歩きやすい靴としています」(藤澤さん)

取引先に行く場合はどうしているのか。

「相手先が工場の場合も多く、基本は作業服もしくはワイシャツでノーネクタイです。自動車部品などの機械業界ではクールビズが浸透していて、ジャケットやネクタイ姿で行くと、逆に『やめてくださいよ』と言われるほど。医療業界(病院や医療商社)へ行くときも、基本はノーネクタイですが、場合によってネクタイ、ジャケットを着ます」(同)

一般に「堅いといわれる業種」に行く際は、どの会社も気を使っているようだ。

得意先の現場支援でも、作業服は便利

「当社の場合、夏場は、社名入りの半袖ブルゾンを運転手や作業員全員に貸与し、着用を義務づけています。社長の私、弟の専務も同じです」

こう説明するのは鳥波運送(とばうんそう、本社・茨城県古河市、従業員15人)社長の鳥波孝之さん。茨城県内や近県への、乳製品や飲料配送を得意とする会社だ。業務の特性もある。

「運送業として、取引先に荷物の集荷・配達をするほか、時には現場作業も担います。先方の工場構内は、機械設備など突起物が多く、乳製品の保存に適した『庫内温度4℃前後の冷蔵倉庫内』で作業する場合は、長袖のブルゾンを着用する場合もあります」(同)

鳥波さんは、作業服姿のこんな効果も話す。

「出向く先が、食品や飲料メーカーの工場が多いので、先方の役職者も作業服姿が多い。そのまま工場の敷地内を歩いたり、製造ラインに行く場合もあったりするので、社名の入ったブルゾンは、心理的にも調和しやすいのではないでしょうか。時には、そのまま作業を手伝うこともありますから」

製造作業の支援は、契約で「商品の選別業務」などを請け負っている場合だという。

最後に「取引先との夏の会食」の場合も聞いてみた。付き合いが長い相手との「打ち上げ会」ではなく、部長以上が出席するような「これから関係を深める会」に限定した。

「基本は男女ともジャケットを着用します。シャツは色が入っていても問題ないとしていますが、あまり派手なものではなく、清潔感のあるデザインですね」(ロイヤルHD)

「公式な会であれば、スーツやジャケットを着用(ネクタイはケースバイケース)する場合が多い。シャツも相手や内容に応じて、白シャツなどを着用する場合もあります。ただし、ドレスコードはなく、『各自の判断』によるところが大きいです」(アサヒG)

「一応、ネクタイとジャケットを着るようにしています。どのような格好で出席すればよいか悩む場合は、間違いのない『ネクタイとジャケット』姿で行きます」(ニットー)

「茨城県トラック協会や取引先銀行の異業種交流会などで、役員をしてきました。その見聞でいえば、壇上であいさつする幹部だけでなく参加者もジャケット着用で、会議後の懇親会で、乾杯後に上着を脱ぐというケースが多いですね。洗練されていないという意見もあるかもしれませんが、私自身は一種の『様式美』だと受けとめています」(鳥波運送)

中小企業2社は、経営者自身が経済団体を含めた活動を行うので、社長個人の見識だ。

「今日の相手」や「場の空気」で判断

こうして見ていくと、もともとカジュアル姿が多かったITやメディア系以外の業種や職場でも、2005年当初より「クールビズのカジュアル化」が進んだ感を持つ。

一方で「公的な会食」などは、「場の空気に浮かないか」を意識しているようだ。

2018年に「基本原則」を設定して、運用を各職場に委ねたアサヒGではこう話す。

「導入当初は『それでは、職場が混乱するのではないか』と言う声もありましたが、実際には大きな混乱もなく、スムーズに運用されている状況です」

総じて「TPO」や「会社を代表」という意識を持てば、人間関係も円滑に回るようだ。