2019年2月15日。「生きててよかった」とつぶやいたのは、私だけではないだろう。

2002年の解散から17年の時を経て、向井秀徳は、NUMBER GIRL再始動を高らかに宣言した。

1995年に結成。世紀末日本のオルタナティブロックシーンに突如としてどでかい彗星のごとく現れ、数々の伝説を残して解散した4人組バンド、NUMBER GIRL。聴くものの心を掴んで根っこから揺さぶるような強烈なインパクト、それでいて切なく狂おしい、中毒性の高い楽曲と演奏で、世代を超えて聴き継がれてきたバンドだ。

向井は昨今、ZAZEN BOYSや向井秀徳アコースティック&エレクトリック名義で精力的に活動している。さて、なにゆえこの決断に至ったのか。

話を聞くのは『Quick Japan』の元編集長で、NUMBER GIRL時代に「メディアとアーティストの癒着状態」と向井が語ったほどに幾度もその動向を取り上げ、夜な夜な酒を酌み交わしていた男・北尾修一。

バンドの全盛期から解散を経てこのたびの決断に至るまで、約四半世紀にわたる向井秀徳の心の軌跡を追いかけた。

聞き手/北尾修一(百万年書房)
撮影/尾鷲陽介 文/的場容子
取材協力/居酒屋 四ツ屋(03-3357-6672)
▲左から、中尾憲太郎(ベース)、向井秀徳(ギター&ボーカル)、田渕ひさ子(ギター)、アヒト・イナザワ(ドラム)

解散の夜、下北沢で。「ビリビリする話があるから来い」

NUMBER GIRL再結成、びっくりしました。
そりゃびっくりしたでしょう。
17年前、解散した夜にふたりで下北沢で飲んでたの、覚えてます?
はい。
「ビリビリする話があるから今すぐ来れませんか」って下北に呼び出されて行ったら、解散することにしたって話を聞かされて、「マジか!」と。あのときの話では、ベースの中尾(憲太郎)さんが抜けたいと言ったけれど、それでもバンドを存続させることはできた、と。でも結局、解散を言い出したのは向井さんでしたよね。
そうですね。結論を出したのは私です。
そのとき、「残ったメンバーで続けるという選択肢はないんですか?」「いつか再結成する可能性はありますか?」という話をしたら、向井さんが「それはないね」と言っていたのも覚えています。だから、なおさら驚いて。どういう心境の変化なんですか?
その頃の話をすると、あのときNUMBER GIRLは、けっこうな本数で全国をまわる長いツアーが終わって。やってるうちから、「次はこうやろう、ああやろう」というアイディアがいくつかあったんです。
『NUM-HEAVYMETALLIC』のダブアルバムを作る話とか、ありましたね。
そう。NUMBER GIRLとして、まだその先を見てたわけですけど、中尾憲太郎が脱退するという話になってギョッとして。中尾が抜けてNUMBER GIRLとしてまだ続けるのかどうかを、2日間くらい考えた。

でもやはり、全然その絵が見えてこなかったんですよ。サポートメンバーを入れたり、オーディションするとかも、その時点ではまったく想像ができなくて。NUMBER GIRLという形はもうないな、と思った。

「続ける選択肢はないのか」と言うメンバーもいたけど、解散という結論を出しましたね。
あの夜の向井さんは、かなりテンションが高かった。たしか、トラブル・ピーチ(下北沢にあるバー)で、夜通しギターを弾きながら、明け方、始発電車が走るまでずーっと飲んでいた。
そうかそうか(笑)。やっぱり、それまで突っ走ってきた疾走を、いきなり急ブレーキで止めるのは心臓にかなり負担がかかる。ドキドキしました。

でも、いずれにしても絶対に、ほかのプレイヤーが入ってNUMBER GIRLの形で続けたとしても、そうは続かなかったと思えるんですよね。

で、当然NUMBER GIRLは終わるわけだから、まずは一回ゼロに戻そうという気持ちでしたよ。だから、再結成がどうのっていうのは、その時点では頭にもない。

それでZAZEN BOYS(以下、ZAZEN)を始めるんですけど(2003年〜)、やっていくなかで、「NUMBER GIRLを再結成してほしい」とか、「このライブイベントでやってほしい」という話もちょこちょこありました。でも、それもあまり現実的じゃないなと思って。
そのあとは、ZAZENがスゴい勢いで活動しはじめますからね。向井秀徳アコースティック&エレクトリック(以下、アコエレ)も。だから、再結成なんてするわけないと思っていましたし。
そうですね、それもあり。で、ここにきてなにゆえに、ということなんでしょうけどね。

テンション中毒。切迫感を持って始まったZAZEN BOYS

そう。で、なにゆえに再結成を?
いくつか理由はある。「時が経った」というのは、大きな意味では理由ではあるんですけど……。

NUMBER GIRLが解散して、ゼロの状態からZAZENを始める。また自分のやりたい場所をいちから作り直すか、と気合いを入れてやるわけです。ZAZENは、自分・向井秀徳という自我がまずベーシックにあって、それを具現化・具体化していくプレイヤーたちが集まってその世界を広げていく。そういうテーマです。

そのためには何が必要かを考えたときに、まさにやることがいっぱい出てきて、それをやっていくわけですよ。
その甲斐あって、ZAZENは、またたく間にNUMBER GIRLと違う形になりましたよね。
NUMBER GIRLを始めたときとはまったく違うんです。NUMBER GIRLのときは、まだ無邪気だったんですね。「ロックバンドやろうぜ!」と、楽しく始まったわけですよ。

他方でZAZENは、自分のなかでビジョンがあって、けっこう具体的に「これを形にするぞ」というのがある。そのうえで「あとには引けねえ」という切迫感もあって、キリキリ、ピリピリしてやってましたね。
それは見ていてわかりました。向井さんの語彙で言うと「テンション中毒」ってやつになってるんだろうなと。
テンション中毒、なってましたね。極々(きわきわ)だった。でも幸せなことに、ZAZEN はいい形に音楽として鳴らせるようになってきた。それで今に至るわけですけど、ZAZEN においても、メンバーの変遷があって、新陳代謝をずっと繰り返してるんですよね。

そして、その時期その時期で自分のなかに達成感はある。2007年に吉田一郎というベースが加入しますが、彼も10年ぐらいZAZENでやって、始めたときからすると、最後のほうはかなりの進化を遂げたというか、ZAZENのなかではまさにやり切った。
走り切った。
同時に、エネルギーを使い果たして、疲労困憊(こんぱい)もあったということで、彼はZAZENを脱退する(2017年12月)。そこで、ベーシストとしてまた新たな人間が必要であるとは思ったんだけど、とくに探しもしないんですね。
あ、そうなんですか?
うん。「俺を入れてくれ」みたいな人はやっぱり来るんだけど、そんなにがっついてメンバーを見つけなくてもいいかと思ってたところ、ふと、MIYAという人間を思い出しまして。

「ZAZENでベースば弾いてみらんかね?」MIYA加入で風が吹く

MIYAさんのベース、むちゃくちゃやばいですよね。
MIYAは沖縄在住の女性ベースプレイヤーで、かつてはBLEACHというガールズバンド、現在は385という3ピースのバンドをやっていて、何回か対バンしたこともあった。

とにかく、興味として、ZAZENでMIYAが鳴らしたらどうなのかと想像したんです。そしたらすごくわくわくしてきて、彼女に連絡した。

いきなり電話が来たもんだからMIYAはびっくりしてたけど、さらに「いや実は、ZAZENでベースば弾いてみらんかね?」つったら「ええ―――!!!?」となって。
それはそうでしょうね。
その場では「ちょっと考えさせてください。私は沖縄で家族と一緒に住んでて、子どももいる。仕事もしてるんです」と。それは当然のことだからしばらく考えてもらって、ほどなくして返事が来た。「やってみたい」と。

それで、ほかのZAZENメンバーと一緒に那覇に行き、ライブハウスでMIYAとリハーサルをして初めて音を合わせたんです。これが突き刺さりまして。一緒にライブをやってみたいと思ったんですわ。

そこで、ZAZENの新しい形が見えた。夏にライブをブッキングするからということで、新しい体制が始まった。それが2018年の春くらいで、MIYAが入って、とにかく自分のなかでフレッシュな気分だったわけです。その勢いがありまして……。
そのフレッシュな気分が、NUMBER GIRL再結成の気分につながっていくわけですか。
そう。なんか新しい風が吹いてるなあ、と。「これでまた新しくZAZENをやっていくぞ」と、前のめりの気分が相まって。そして、同じようなタイミングで、アコエレで対バンした若いロックバンドの人たちが「NUMBER GIRL聴いてます、大好きです」って言ってくれるわけですよ。「でも、生まれたときにはすでに解散してました」とも。
若っ(笑)。
はは、若い。でもそれを聞いて、ずーっと聴き継がれていることが、素直にすごく嬉しくて。自分でもYouTubeで見たりして……なんで俺が自分で自分の昔のバンドをYouTubeで検索しなきゃいけないんだろうと思いながら。

でも、実際、すごく客観的に見れて、「カッコいいなー」「いいバンドだなー」と思えたんですよね。で、「やってみっかな」と。

誰かひとりでも死んでたらやれない。やれるうちにやるか

ニューZAZENになったタイミングで、向井さん自身も更新されたと。たしかに再結成って、過去を引きずっている状態だと逆に思いつかないですもんね。
そういうことだと思う。ある意味途上で終わったバンドだから、どっかで引っかかってる部分はあるのかなと思ってたけど、「いや、それはないな」と。

やっぱり「時が経った」というのはでかいと思う。現時点で、私もメンバー全員も生きていて、やれるんだと。誰かひとりでも死んでたらやれないんだから、やれるうちにやろう、やるべきだと思ったんです。

さらに言えば、時が経った人間たちが、それぞれずっと音楽をやり続けて、キャリアを更新している。そのメンバーが、いま集まったらどんな音になるかということにも興味が出てきて、「よっしゃー!!!!! やってみるか」と思うに至ったんですわ。まあ、だいぶ酔っ払ってましたけどね、そう思ったときは。
向井さんは昔から、いい音楽を作って満足するわけじゃなく、それをどうやって届けるかまで考えないと気が済まないタイプですよね。だから、今回の復活に関しても、単純にバンドを再結成して、若い子や聴いたことない人に届けるという目的だけでもないのでは?
いや、私は現時点では、まずメンバー4人が集まることが第一だと考えていて、これを最善かつ最重要のテーマにしている。オリジナルメンバーの4人が集まって、どんな音を鳴らすか。まずはここですね。

それに、再結成プロジェクトみたいな大きなことを、全部コントロールしようとは思ってないです。理由のひとつとしては、私の“地獄の自我”があまりに大きくなってしまうと、今はバランスが悪いような気がするんですよね。

つまり、解散の理由としては、やっぱり窮屈だったんですよね。無駄な緊張を強いられて。私としてはその緊張感が必要で、そうしないといい音にならないんじゃないかと、そのときは思ってた。今でも思ってはいますけど、今回また集まることにおいては必要ないと。

当然ながら再結成しようと言い出したのは私ですし、最初に言い出す人間としては私しかいないんだけども、だからといって「俺の言うとおりにやろうぜ」というふうには絶対にしたくないし。
あえてネガティブな反応をぶつけますが、今回の再結成を「ただの同窓会じゃないか」みたいなことを言われたとして。それに対してはどう答えます?
うーん……同窓会ですねえ。繰り返しになるけど、同窓会も、死んでたら写真でしか参加できないからねえ。できるうちにやっときましょうよと。

昔と違って、今回は「俺が俺が」と引っ張らなくても、NUMBER GIRLはものごとが動くだろうなと思いもした。音を出せば自ずとガーッと転がっていくんやないかという想像もできるわけですわ。

あれこれ仕込んで、いろいろアイディアを出してとかじゃなくて、もっとシンプルに、福岡のリハスタ(リハーサルスタジオ)でガーっとやってた感じで始めてみたいなと思ったんですね。
前に向井さんは「NUMBER GIRLは自分にとって青春だった」と語っていましたが、大人になったというか、さらに客体化して見られるようになったのではと思いました。
そうかもしれないですね。大人になるのが遅すぎるのかなあ。

「稼ごうや」はほかのメンバーへの誘い文句でもあった

2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。
またヤツらとナンバーガールをライジングでヤりてえ、と。
あと、稼ぎてえ、とも考えた。俺は酔っぱらっていた。
俺は電話をした。久方ぶりに、ヤツらに。
そして、ヤることになった。
できれば何発かヤりたい。

向井秀徳
▲再結成を発表した際に、向井が出したコメント
向井さんが出したコメントのなかに「稼ぎてえ、とも考えた」とありました。噛み砕くと、どういうことですか?
そのまんまとしか言いようがないんだけど、ある意味で、ほかのメンバーを誘う「誘い文句」でもあるわけです。同窓会ではあるけれども、彼らもそれぞれのペースで活動しているわけだから、「もう一回楽しくやろうぜ!」みたいな仲良しこよしバンドでもない。

その理由づけのひとつとして、金だ、と思うに至るわけです。今回、俺が「稼ぎてえからやりましょう」と言ったら、「おお、いいね。オーケーオーケー」って、全員同調するわけですよ。それは全員、リアリティをもった音楽活動をしているからそうなる。そこにはなんの矛盾もないです。
まあ、ノスタルジーやセンチメンタルな感情で再結成するNUMBER GIRLと、「ビジネスとして成功させてがっつり稼ごうや」と再結成するNUMBER GIRLのどちらを見たいかといったら、たしかに後者のほうが見たいかも(笑)。
ははは。いずれにしても、自分のなかで……まあ、風が吹いただけですよ。それに乗っかった。MIYAの加入とかいろんなものがあって。季節もよかったし、いい感じのチューハイの酔いも相まって。爽やかな酔いがあった。
(笑)。ちなみにどこで飲んでたんですか?
MATSURI STUDIOの近くですよ。MATSURI STUDIOだったかもしれない。
▲OTOTOYの「あなたがライヴで聴きたいNUMBER GIRL楽曲は?」ランキングを見た感想は?「順当で、想像通りっすね。ベストアルバムみたいな感じです。ある種メロディアスな曲がやっぱり上位。NUMBER GIRLはZAZENに比べてメロディアスな曲がすごく多いんだけど、そのなかでも、ちょっとマイナーコードが入った暗めの印象の曲が好まれているんだと思ったね。『転校生』とか」

「知らんなりにやったるばい!」99年のライジング

再結成コメントには「またヤツらとライジングでヤりてえ」とあります。これを読んだときに、「稼ぎてえ」よりもこちらの比重が大きいんだろうな、と直感的に思ったんですけど違いますか?
そうですね。2019年というのは、我々が1999年に初めてライジングサン(野外イベント「RISING SUN ROCK FESTIVAL 1999 in EZO」。以下、ライジング)に出て20年です。きりがいいなあと思って。そのライジングは、我々にとってすごく思い出深いイベントだった。

つまり、福岡から東京に出てきてライブハウスでもやっていたんだけど、まだそんなに誰も知らないような状況で、ですよ、いきなり観客2万人くらいの野外のフェスティバルに出ていった。しかも北海道っていうと、九州人からしてみりゃ遠い「北の地」。だいぶびびってたんですね。
出番、電気グルーヴの次でした。
そう、電気グルーヴが一番目。それで「(自分たちのことは)誰も知らねえだろうなあ、知らんなら知らんなりにやったるばい!」って、ぶつかっていったんすね。そしたら、誰も知らないであろうはずの人たちがガーッと盛り上がってくれた。

自分たちを受け入れてくれたことも嬉しいんだけど、「これが音楽のパワーか!」なんてことを、あらためて実感したんですよ。それがすごく素敵なことだなと思えたんです。その喜びを初めて知ったわけですよ、当然。それまでは閉ざされたライブハウスのなかしか知らなかったから。
なるほど。20年前のライジングが、それだけ向井さんのなかで大きいことがわかりました。
でかいね。だから、おっしゃるとおり「ライジングでまずやりたい」というのがあったんです。

激ハヤとか前のめりは、YouTubeでヨロシク

練習には何回くらい入りました?
3、4回くらいしたかな。
十何年ぶりにメンバーで音を出したわけですよね。
まさに、あの頃と同じような感覚で鳴らせましたし、ライブはどうなるか。

ただ、「これでいいやろ?」と、自分のなかでむっちゃ速いカッティングをしたつもりが、「全然遅い」と言われることも、まあよくある。
(笑)。誰に言われるんですか?
(中尾)憲太郎に。無理やり速くしなくてもいいと思うんだけどね。
無理やり若作りしなくても、そのまんまやったほうがいいなと思います。むしろそれを聴きたい。
あと「この場所のコードは一体なんだ?」と、みんなでコードを弾き合うけど、誰もわからない。当時もわかってない。

だから、コードも当時の絡み具合とは違うかもしれないけど、現時点でいいならそれでよし。「はい、次」と先に進める。そんなに深くはこだわらない。
ということは、よく言えば、原曲そのまま完コピではなく、2019年風にリアレンジされているということですか?
うーん……そうとも言えますね。
何ですか、その微妙な表情(笑)。
ふふふ。激ハヤとか前のめりの感じ、それはあれよ、YouTubeでヨロシク。

ZAZENもそうですが、NUMBER GIRLは、オリジナルアルバムの楽曲があって、ライブでは構成を変えたりしていたわけです。そうすると、どのバージョンでやろうかという話になってくるんやけど、基本的に今のところオリジナル・バージョンでトライはしてます。
初めてNUMBER GIRLのライブを見る人たちを意識してのことですか?
うーん、さっきの言い方をすると、我々メンバー4人には同窓会でも、当時のお客さんが一斉に集まってくれるわけでもない。それこそ、当時は生まれてなかった連中もガーっと来るわけで。

会場の雰囲気は未知数で、その風景がどう見えるかはわからない。当時の僕たちを知らない人らに対して、どういうふうに向き合うかというのも、楽しみではあります。

冬の金沢で、雪の降るなかギンギラギンになりたい

今回、再結成の期限は考えていますか?
期間限定とは決めてはおらんのですけども、新曲とか新作は今のところ考えてない。
思い浮かばないという感じなんですか?
うーん、それ以前にまず、曲を思い出さなきゃいけない。
そういうことですか(笑)。
NUMBER GIRLで楽曲を作るとなると、メンバーにすごく気を遣わなきゃいけない。それでなくても今回は、すげえ気遣ってるつもりなんです。
裏を返すと、昔はまったく気を遣ってなかった?
まったく、というのは大げさだけど、……うん、“まったくほど”気遣ってなかった。ははは。
ほかのインタビューでは、解散前のNUMBER GIRLはメンバー間に緊迫感が漂っていて、なかでも「眉間のシワ」で一番怖いのは田渕ひさ子さんということでしたが(笑)、今回スタジオに入ってからはどうですか?
すっごい和やか。あと、(田渕さんは)肌がツルツルしてる。すっげえ肌が綺麗。

彼女に昔聞いたことあるのは、「私は基礎化粧品しか使わないから」。「なるほどー! だからそうなのか」と、今思うに至った。
再結成の期限について、生活の組み立て方もあるでしょうから、ほかのメンバー3人は気にするんじゃないですか? 半年で終わるのか、3年やるのか……。
1年はやります、じゃあ。やらないと……うん、やりましょうや。
で、そこからあとは考えてないと。
考えてないです。はっはっは。だけど、やるからにはという思いはある。ライブに関しては、この2019年の夏で、ライジングや野音(日比谷野外音楽堂)はやって、あとは大阪とか、いくつか都市をまわると。でもそれだけでは「見れねえよ」という人がいっぱいいるわけだ。

だから、地方もツアーでまわりたい。細かくバーっとまわれはしないかもしれないけど、なるべくお邪魔したいと考えてます。
それはいいですね。
「稼ぎてえ」という理論でいくなら、大きい会場で一発やって、のほうが儲かるんだけどね、ホントは(笑)。だけど、我々はそういう会場はそんなに経験もないし、違和感もあるんですよ。
NUMBER GIRLはそういうバンドではないと。
うん。とにかく、この2019年の夏だけ集まって終わろうぜ、ということじゃないんです。たとえば、冬の金沢(石川県)とかにも行って、雪の降るなかギンギラギンになりたいですしね。
ほかのインタビューで、NUMBER GIRLとZAZENの対バンについても言及がありましたが、向井さんの体力的なことはともかく、やる計画はあるんですか?
やれたら面白いですよね。前にTHE MATSURI SESSIONというのを日比谷野音でやったことがある(2017年5月6日)。つまり、私が携わっているZAZEN、KIMONOS(LEO今井とのユニット)、アコエレ、全部出る。「これが俺の生き様だ」みたいな全部出し(笑)。
そこにNUMBER GIRLが入ったら完ぺきですね。
すべて終わったときに、私がもう、消えてなくなるかもしれないね。

でも、ZAZENとNUMBER GIRLの対バンって、現実的にありえなかったわけだから、そういう、日常がグラグラっと歪む感じはいいなと思います。1時間ずつやればいいじゃないか。そんなん、すぐできますよ。
▲この日、向井が頼んだのはビール大瓶数本と、カットレモン入りチューハイ。最初にビールで乾杯するときは「よぉ冷えとんな、コレ!」と嬉しそうだった。

自意識の権化だからこそ、SNSはやらない

そういえば、向井さんはSNSやらないですね。
うーん……(やってる人の気持ちは)わかるんですけどね。つまり、映画を観に行って、すごい感動したと。「これ、誰かに言わんと感動収まり切らんばい」。そういうときに、Twitterとかで「最高だった」と、その感動をぶつけられる。そういうものとしてはすごくいいなと思ってて。

たとえば子どものとき、テレビの『ゴールデン洋画劇場』でやってた『宇宙から来たツタンカーメン』を観て、寝られないほど怖かった。次の日の朝起きても、まだその恐怖が残ってる。

この心を動かされた感じをどうにか解消しなきゃいけないから、ダンボールの切れ端を使って、『宇宙から来たツタンカーメン』のキャラクターを自分で作ることによって、落ち着く、みたいな。
実体験ですね(笑)。
自分のインプットとしての感動を吐き出さないと収まらないから、そういうことで吐き出したい。それが創作欲求につながっていくのはまったく変わらないですよね。

SNSはその感動の吐き出し装置ではあるけど、ただ、ネガティブな感情も含めて、どこの誰が見てるかもわからないところで吐き出しても、自分は収まらないと思うんですよ。それどころか、もっと増えていくような気がする。だから、あんまりやりたくないですね。
SNSって、やればやるほど自意識を肥大させますからね。
私自身、自意識の権化であり、過剰な自意識を持っていることはよくわかってる。そうじゃないと、バンドとかやらないですよ。

バンドとかやってる人は、ホント自我の塊で、だからわざわざ人前に出ていく。それが、気づけば20年以上やり続けることができていて、幸せではあるんですけどね。

インターネッターに心折れるくらいなら、何十年もやってない

そういえば自分が『Quick Japan』の編集長をしていた頃って、2ちゃんねるがやっと出てきたくらいの時代で、向井さんと一緒に飲んでるとき、ネットにいっぱい書き込んでいる人たちのことを「インターネッター」と呼んでいましたよね(笑)。あれ、いい言葉だったなー、と今でも思い出します。
インターネッターにはルールはないけど、分別というか、了見はあるんだと思う。たちが悪いのは、それさえなくなったSNSなんですよね。

ルールもなく、了見のない状態の一般の人が、全員2ちゃんねらーになったみたいな状態だから、もう暴風雨に火事、荒れまくりの狂乱状態。

人に自我があって、心のなかにストレスやネガティブな感情があったとして、それをカジュアルに吐き出せる装置を持った瞬間に、こんだけ燃えるんだって思ってしまうね。
酔っ払って書き込んでる人もいるでしょうしね。
飲みの場でついつい言っちゃう人はいっぱい知ってるし、それは俺も同じでMe Tooです。
(笑)。
面と向かってなら、自ずと「まあ、そこに座れ」となるんだけど、SNSは顔が見えないもんねえ。

結局さ、自分に批判的な意見をインターネッターごときに言われて心が折れるようなことであれば、こんなに何十年も活動してませんわ。
▲最近聴いている音楽は?「『仙波清彦とはにわオールスターズ』と、そのミニマムバージョンの『はにわちゃん』。YouTubeでいろいろ好きなの聴いてたら、そこに行き着いて。そうか仙波さんか、と聴いたら、めっちゃくちゃビビッドでハマった。全然懐かしいとかじゃなくて、むちゃくちゃ新しい」

突発的に路上ライブを行う「恥を知れば知るほど恥を知る男」

そういうネットの状況と対照的なのが、向井さんが突発的に下北の路上に出て行う弾き語りゲリラライブです。
コミュニケーションしたいんですよね。ロックトランスフォームド状態におけるコミュニケーション衝動です。突き詰めると、バンドやってるのも音楽やってるのも、コミュニケーション欲求なんです。

自分のなかに閉じこもって、なんか言ってるだけじゃなくて、作ったものを吐き出して、受け止めてくれる人がいるからこそ、やりたいと思える。だから「おーし! 今その場で聴かせたい」と、ギターを持って下北とか行ったりしてしまうんです。
匿名ではなく、顔と名前を晒(さら)して、まわりの人が「向井秀徳だ」とわかった状態で対話したいと。
匿名では満足できないと思うよ。もう、自我の強さがどんだけあるのかなと思います。
向井さんが言うところの「地獄の自我」は、九州にいた頃から全然変わってないですか?
もっとでかくなってきたんじゃないですかねえ。こういう音楽をやって、人前に出て、自分の歌を歌うのは、恥さらしだと自分で思ってるんです。

行為自体も恥だと思うし、自意識が過剰なやつほど、いろんなことをすればするほど、自分の恥に絶対苛(さいな)まれると思う。誰もなんも思ってないのに、「わっちゃーっ!!」つって。

だから、自分のことを「恥を知れば知るほど恥を知る男」って言ってる。恥を知れば知るほど恥を知っていくんです。それと、やり合っていきますわ。

ライブでは全員発狂、“ニッポン発狂”でええじゃないか

NUMBER GIRL再結成も、現時点ではどういう形に転がるかわからないわけで、ある意味で賭けだと思いますが、あえて向井さんがそこに行くところが変わらないなと思います。
それを凌駕する自我があるんだろうな。そこで、プラスとマイナスを天秤にかける計算は、あるやなしや……ないほうに傾くね。

かといって、決して何も考えないで、いろんな行動をホントの思いつきで心の赴くままにやっていたら、私たぶん、とっくに捕まってますわ。
罪状はなんですかね?
飲酒狂乱罪。
(笑)。自我が強烈なのはそのとおりだと思いますが、加えて、今の向井さんが自分に自信があるから思い切った決断ができたのだとも思います。
まあ、自負という意味ではあるかもしれないです。だけど「自信満々ですよー!」とは、胸張っては言えないっすよ。世界タイトルマッチの直前にボクサーが「絶対殺す」とか言ったりするのとは違うからさ。
(笑)。音楽は戦いじゃないですからね。
そう。音楽っていうのは勝負じゃないんです。これも私は昔から何回も言ってますが、バンドはスポーツチームじゃない。絶対に違う。目標はタイムを縮めることでもないし、誰かに勝つの負けるの、みたいなことでもない。
それこそ「1995年から自力を信じてます」(『BRUTAL NUMBER GIRL』の一節)だとしたら、そこから何十年もやって、踏んできた場数も相当ですからねえ。
自力しかないっすね。インターネッターに何を言われても痛くも痒(かゆ)くもないんですよね、正直。
17年分の経験を積んで、重みを増した“第2期”NUMBER GIRLが楽しみです。
現時点ではライブをやっていないんで、すべてはそれからというか……まあ、見えてはおるんだけども。「全員発狂」みたいな。
お客さんもスタッフもすべて“発狂”(笑)。
全員発狂、ニッポン発狂。もう、いずれにしても全員発狂してんだから。それで、ええじゃないかで。……この話は、17年前くらいの「ナムヘビ」(『NUM HEAVY METALLIC』)で言ってたのと同じことを言ってるな(笑)。

全員発狂、全員ええじゃないか、それでいいじゃないですか。
向井秀徳(むかい・しゅうとく)
1973年10月26日生まれ。佐賀県出身。A型。1995年にNUMBER GIRLを結成し、1999年、『透明少女』でメジャーデビュー。2002年の解散後、ソロとして向井秀徳アコースティック&エレクトリックの活動を開始するとともに、音楽スタジオ「MATSURI STUDIO」を開設。2003年よりZAZEN BOYSを本格始動。国内外で精力的にライブを行う。映画や舞台音楽も多く手がけており、2009年には映画『少年メリケンサック』の音楽で第33回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。2010年からはLEO今井とのユニットKIMONOSを結成。著書に、小説『厚岸のおかず』(イースト・プレス)、盟友であるデザイナー・三栖(みす)一明との関係と自らの半生を語りおろした『三栖一明』(ギャンビット)がある。
北尾修一(きたお・しゅういち)
1968年8月29日生まれ。京都府出身。B型。1993年、株式会社太田出版に入社し、雑誌『Quick Japan』(vol.23〜vol.50)、『hon-nin』(全12冊)の編集長を歴任するとともに、数々の書籍編集を手がける。2017年に独立し、ひとり出版社「百万年書房」を設立。

CD情報

LIVE ALBUM『感電の記憶』 2002.5.19 TOUR『NUM-HEAVYMETALLIC』日比谷野外大音楽堂[CD2枚組]
7月24日(水)から発売中

¥3,780(税込)

出演情報

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
8月16日(金)〜17日(土)
※NUMBER GIRLの出演は16日
石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ〈北海道石狩市新港中央1丁目〉
https://rsr.wess.co.jp/2019/

サイン入りポラプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、向井秀徳さんのサイン入りポラを抽選で3名様にプレゼント。ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
ライブドアニュースのTwitterアカウント(@livedoornews)をフォロー&以下のツイートをRT
受付期間
2019年7月26日(金)12:00〜8月1日(木)12:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/8月5日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、個人情報の安全な受け渡しのため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから8月5日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき8月8日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
  • 複数回応募されても当選確率は上がりません。
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