西日本豪雨により、かんきつ産業が甚大な被害を受けた愛媛県では、農地復旧が道半ばだ。災害発生から1年が過ぎた今、スプリンクラーやモノレールの復旧は9割を超えるまでになった。一方、農地復旧事業のうち、農家負担が不要で大規模な園地造成をする「再編復旧」は、対象区域の見直しが出てくるなど調整が続いている。急傾斜園では費用対効果などの面から同事業をやむなく断念する農家が出ており、関係機関も対応に苦慮している。(丸草慶人)
 

スプリンクラー モノレール 9割修復完了


 県によると、農地などを復旧するための災害復旧事業で、県内全域の1737カ所から申請があり、5月末までに2割で着手した。

 かんきつ生産が盛んな八幡浜市から宇和島市に水を供給する南予用水事業のスプリンクラーは96%が通水可能になった。モノレールは1236カ所の9割近くが修復を完了した。

 農地の「再編復旧」は、松山市島しょ部の興居島で事業に乗り出すことが決まった。県東部の今治市大三島と、県南部の宇和島市吉田町は数カ所で工事を計画するが、対象区域は検討中だ。地元農家の合意形成や、要件に見合った工事費になるよう、対象区域を見直している。
 

再編復旧 対象外の園地も

 
 地域のかんきつ園の2割に当たる急傾斜園地が大規模に崩落し、「再編復旧」に希望を託していた宇和島市吉田町玉津地区。当初は同地区の2カ所で、検討を進めていたが、対象区域の見直しが決まった。

 土砂崩れが起きるほどの急傾斜な園地を緩やかにするため、災害に強くなる面でも農家から再編復旧に期待が集まっていた。

 対象区域から外れた河野雄哉さん(34)は落胆する。河野さんらが要望していた、法花津地区の計画面積は7・4ヘクタールだったが、4・4ヘクタールに減った。河野さんの園地は、傾斜が最大45度を超え、過去に数回崩れた。河野さんは「梅雨時期などはいつ崩れるか不安だった」と話す。

 県によると、対象となる園地を絞るのは、工事費が他区域に比べ3倍と高く費用対効果が見込めないため。他にも関係農家数人の対象区域が計画から外れた。

 「災害に強い園地作りと、収益性の確保はわれわれのようなかんきつ農家の中でワンセット。農地復旧で、防災面も加味した中山間地向けの事業があればいいのだが……」と嘆くのはJAえひめ南玉津共選長の山本計夫さん(66)。

 山本さんは河野さんら若手農家が、未収益期間が長期化することを嫌がり、「再編復旧」に乗り出せない農家を説得した姿を見てきた。それだけに、落胆ぶりを理解する。

 加えて、地域が直面するのは、南海トラフ地震などの巨大地震に伴う、津波だ。海岸線に沿って住居が並ぶ県南部は、とっさに逃げる場所がかんきつ園のある山にしかない。「再編復旧」は園内に整備された農道を設置する。このため、かんきつ園と密接につながった地域ならではの悩みが「再編復旧で解決できる」と山本さんは期待を寄せる。

 山本さんは「防災と収益性を両立するためにも、省庁を超えた連携で、かんきつ山と密接につながった地域の復興を全体的に考えてほしい」と強調する。
 
<メモ> 西日本豪雨

 愛媛県は昨年7月6日から降り続いた記録的な降雨で、河川の氾濫や土砂崩れが発生。33人が犠牲となった。基幹産業のかんきつなどの果樹園地は全面積の1・5%に当たる約300ヘクタールが土砂崩れを起こすなどの被害を受けた。被災園のうち約140ヘクタールは、災害復旧事業のうち、被災前に近い状態に復旧させる「原形復旧」や、区画の形状を整える「改良復旧」などによる再生を予定する。