「世界初」の5G NR方式による5Gサービスを開始した韓国。3キャリアが4月から事業展開を行っており、誰もが5Gスマートフォンを買えば高速通信を体験することが可能です。筆者も4月下旬と5月上旬に韓国を訪問して実際に3社の5Gのテストを行いました。しかし地下や屋内はエリア外。ソウル市内でもまともに使える場所はほとんどなく、5Gは使い物にならないという印象を強く受けました。

しかしその後、韓国の5G契約者数が100万を突破し、さらにエリアも急激に広がっているという話を聞き、5Gを自分のスマートフォンで使ってみたくなりました。とはいえ韓国では外国人が携帯電話回線の契約をするのは困難です。しかし筆者は身内が韓国人というアドバンテージをもっています。ということで7月に訪韓した際、5G契約をしてみました。

韓国の大手(MNO)キャリアは「SKテレコム」「KT」「LG U+(ユープラス)」の3社。シェアは5:3:2といったところで、SKテレコムが圧倒的に強いのです。それはネットワークのカバレッジや最新技術の導入も早いから。「世界初」のサービスもこれまで数多く提供してきました。



ところが5Gに限っては、ソウル市内で過去にテストを行ったところ、最下位のLG U+が意外にも健闘してるのです。その理由を調べてみると、LG U+は5Gで巻き返しを図ろうとしておりネットワークの拡張を急いでいることや、ネットワークインフラにファーウェイを採用していることがあげられます。何かと世間を騒がせているファーウェイですが、実際に韓国で3キャリアの5G回線を使い比べてみれば、ファーウェイの技術力の高さに納得させられるはず。電波はうそをつきません。韓国事情に詳しい人なら「SKテレコムよりLG U+のほうが電波状況がいいなんてありえない」と思うでしょう。5Gに関しては両者変わらないか、エリアによってはLG U+のほうが優れていたのです。



契約したのは筆者の韓国の自宅がある統営(トンヨン)市のLG U+の店舗。実はソウル以外の5Gカバレッジでは、LG U+は上位2社に大きく差をあけられています。統営市もLG U+の5Gの基地局は数局だけというありさま。それでも筆者が回線テストに使うのはソウルですし、他のエリアの5G拡張が遅れていても、韓国訪問は月に1度程度なので困りません。それよりも心配だったのは、5Gエリアではない統営市のLG U+の店で、スタッフが5G契約をきちんと説明してくれるのか、というものでした。



LG U+の店に入り5G契約がしたいと伝えると、料金表を出してくれ、説明もスムース。今後のエリア拡張に備えて、今から5G契約をする人もいるようです。また料金が4Gプランよりも若干高くなりますが、データ通信は完全定額。スマートフォンも割引価格で買えるということで5G加入の敷居は低いようです。ちなみに料金と端末の定価は以下の通り。
5Gプラン(データ定額):9万5000ウォン/月(約8700円)LG V50 ThinQ:119万9000ウォン(約11万円)

この料金に対して、2年契約で様々な割引が加わります。毎月の支払いは料金と端末合わせて日本円で9000円程度。韓国では端末の定価が明確化されていて、料金からどの程度何を割引するのかをしっかり明示することが義務付けられています。それでもLG U+の店舗でスタッフがタブレットの画面で説明してくれる内容を聞いていると、何が何だかわからないけど、まあ安いからいいよね、という感じで契約を進めてしまいました。



ところで5G契約はいつかはしたいと思っていたのですが、Engadget 日本版に掲載されていた石川温氏の記事「5Gの威力をシカゴで体感」を読み、ぼやぼやしていられないなとも思ったのです。「日本人で初(少なくとも知り合いの中では)の5G契約者」になりたいということもあり、7月に韓国に渡航する日が決まった時点で、その日に契約してしまおうと考えていたのです。契約する場合は街中の代理店などに行くとさらなる割引やおまけがもらえるケースもあるのですが、「お金より時間」すなわち早く5Gを自分のものにしたかったのです。



さっそく5Gの速度テストを行いました。統営市ではLTE接続でしたが、高速バスでソウルに出て、ターミナルの一つである「南部ターミナル」に到着。スマートフォンは5Gの電波を拾っています。速度テストすると軽く600Mbpsをオーバー。しかも室内です。4月の時点では室内で使える場所がほとんどなかったのですが、この2か月でエリアがかなり広がっているようです。

また他のエリアもおおむね600Mbps前後をマーク。LTEに落ちることもありますが、その頻度も4月に来た時よりかなり減っています。なお地下は現在も全くダメ。LTEでは200Mpbs前後はコンスタントに出るものの、5Gには大きく負けます。



その後いくつか繁華街を歩きまわり、最終的には滞在先ホテルのそばでついに1Gbpsを超える数値を出してくれました。これまで展示会などで1Gbpsを体験したことはありましたが、商用ネットワークで商用端末を使い1Gbpsを超えたのは初めてです。YouTubeを見てみると先送りしてもすぐに再生が始まりますし、画質が落ちることもありません。5Gを使うことでストリーミング放送はまるでローカルファイルを扱うような快適さ。「5G最高!」と思えた瞬間です。



さて、今回なぜ5GスマートフォンとしてLG V50 ThinQを購入したかというと、デュアルディスプレイへの拡張が可能だからです。韓国ではほかにサムスンの「Galaxy S10 5G」が販売されており、グローバルでも5G端末と言えばこれが標準機ともいえる製品になっています。しかしV50 ThinQには折りたたみスタイルにできる外付けディスプレイカバーがオプションで用意されています。韓国では7月末までに端末を購入するとこのカバーがタダでもらえるのです。ならばとV50 ThinQを選んだのですが、カバーは人気がありすぎて現時点で2か月待ちとのこと。これはちょっと誤算でした。



V50 ThinQのデュアルディスプレイのメリットは2つのアプリをそれぞれに表示して利用できることですが、LG U+では5Gならではのデュアルディスプレイを使ったサービスを提供しています。シングルディスプレイでも利用できるので、ひとまず使ってみました。

まずは「アイドルライブ」。K-POPの音楽ステージ配信ですが、複数のカメラを使ってそれぞれがメンバーの1人1人を撮影。スマートフォンの画面ではメインカメラの映像が中央に流れますが、右端に各メンバーの顔アイコンが現れます。メンバーのアイコンをタップすると、その1人のアップ動画がメイン映像の横に流せるのです。つまり自分の「推し」メンバーだけをじっくりと観ることができるわけです。



最大3名までのメンバーを選んで表示でき、自分の好きなメンバーを曲の最初から最後までずっと観られる、ファンにはうれしいサービス。メイン放送で他のメンバーがアップになっていても、自分の推しメンバーを常に表示しておけるのです。V50 ThinQでデュアルディスプレイカバーを使えば、片方の画面に全体映像、もう片方の画面に3面それぞれをアップで表示することができるわけ。このサービスは日本で5Gを始めるときにも、アイドルの音楽放送に取り入れてほしいものです。



またプロ野球中継も、一般的にメインで放送される「ピッチャーがバッターに相対するシーン」に加え、「スタジアム全体」「個別の選手」をそれぞれ追加表示できます。バッターが外野へのヒットを打った時、今の放送では打球の方向しかTVでは中継されません。しかしLG U+の5Gプロ野球中継なら、スタジアム全体を映して各守備の選手がどう動くのかを俯瞰して観ることができますし、バッターが全力で走行中の表情を確認することもできるわけです。



このほかゴルフ中継でも同様なサービスを提供中。放送側は複数のカメラを用意する必要があるため、あらゆる放送にこのサービスを展開するのは難しいのかもしれません。しかしいずれドローンを使って無人撮影が取り入れられるようになれば、マルチカメラ配信も当たり前のものになるかもしれないのです。

5GサービスとしてはARやVRコンテンツ配信もありますが、LTE回線でも画質が劣るものの類似のサービスは展開されています。またまだコンテンツが少ないことや、専用のグラスが必要なため誰もが使うほど普及はしていません。それよりも韓国はeスポーツ大国なので、5Gを使ったクラウドゲームが普及していくと思われます。

5Gスマートフォンを使ってみたのはまだ数日ですが、YouTubeの動画視聴、テザリングでPCを接続してブラウザを使ったりファイルの送受信を行うと、「常時高速接続されている」ことを実感できます。SNSの利用でも、タイムラインに動画が流れていると5Gのほうが4Gより快適です。課題と言えば、5Gのカバレッジがまだ広くなく、たとえば地下鉄に乗ると4Gになってしまうこと。早い時期に韓国全土が5Gでカバーされることに期待したいものです。

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