「加害生徒と本郷さんは、ともに卓球部で同じクラス。周囲からは仲がいいと思われていました」

【写真】ブルーシートに覆われた事件現場と現場検証の様子

 2人を知る学校関係者が明かす。

近隣住民が感じた異変

 5日、埼玉県所沢市で中学2年生の本郷功太郎さん(13)が同級生(14)に刺殺される事件が起きた。

「殺害したのは、事件現場となった一軒家で祖母、両親と暮らすAくんで、この日は中学で3日後に控えた期末テストの勉強をする予定だったといいます。後から訪れた別の同級生が玄関で血を流してあおむけに倒れている本郷さんを発見し、近隣の男性住民を通して119番しました。本郷さんの傷は上半身前側に集中していて抵抗した際にできたとみられる傷もあったため向かい合った状態で刺されたということがわかります」(全国紙社会部記者)

 翌6日、搬送先の病院で本郷さんの死亡が確認された。

 所沢市教育委員会は同日の会見で「2人は仲よし、トラブルはなかった」としていたが、Aくんが「本郷さんとトラブルがあった。学校に相談していた」などと供述していることが漏れ始めると一転、8日の会見ではAくんから本郷さんについて学校側に相談があったことを認めた。

「本郷さんには別の生徒とのトラブルがあり、そのことで数名に聞き取り調査をしていました。その聞き取りの中でAくんが本郷さんに“20回つねられた”“教科書を隠された”などと担任に相談したようです。

 担任は“もう1回やられたら教えて”と言い、2日後に様子を聞いたところ“もうやらないと(本郷さんが)約束してくれた”とAくんが言ったといいます。そのことはAくんの保護者にも報告しています」(市教委)

 2人に何があったのか。Aくん宅の近隣住民は事件前からの“異変”を明かす。

「今年に入ってからかな、いつも23時近くまで数人の生徒がAくんの家に入り浸っていた。ご両親は共働きで帰宅が遅いため、大きな声でAくんを呼ぶようなこともあった。見た目は不良とかではないけど見ていてなんだかいい感じはしませんでしたね。Aくんはおとなしくて優しい子。おばあちゃん思いでね、おばあちゃんの荷物を持ってあげたり一緒に買い物に行ってあげたりね。

 報道されているようにAくんがいじめられていたんだとしたら、学校でも家でもいじめっ子がずっとそばにいて息抜きする暇もなかったんじゃないかと、かわいそうでね」

 Aくんの置かれた状況を慮り涙ぐんだ。

 いじめに詳しいジャーナリストの渋井哲也さんは、このような状況を“同質いじめ”と名づけ、危険性を指摘する。

「同質というのはいわゆる仲よしグループ内のいじめ。これは教師に放置されやすいです。本人や親が相談しても仲よしゆえのトラブルとして、関係性が変わっていることに気づかないケースが多い。

 しかし仲がいいからこそちょっとしたトラブルで怒りが増します。さらに長時間一緒にいるからぶつけるところもない。加害者のほうも相手が殺したいくらい自分を憎んでいることにも、相手が自殺してしまうほど追い詰められていることにも気づかない」(渋井さん)

 余計に周囲からは見えにくいため“闇いじめ”と呼んでもいいかもしれない。

実際にあった“同質いじめ”

「私は中学の3年間ずっといじめを受けていました。親同士も仲よくて、土日も一緒にいることさえあって頭がおかしくなりそうでした」

 と話すのは高校2年生の翔子さん(17・仮名)。いじめを受けていたころのことを思い出すと今でも息苦しくなるという。

「B子とは幼稚園のときからずっと一緒で母親同士もずっとママ友。関係が変わったと感じたのは中学1年生で私が初潮を迎えたとき。私もB子も生理がくるのが遅くて男じゃないかと心配してお互いが支えみたいなところがあったんです。先に私に初潮がきたときのB子の怖い顔は忘れられません」

 その直後からいじめが始まったという。

「私が悪口を言っているとほかの友達にウソをついて孤立させられた。B子だけが知っている私の秘密もばらされた。B子の母親がうちに遊びに来ているときに、B子は私のパソコンからC(別の同級生)のケータイに悪口を送り私が送ったことにされた。

 親しい間柄を利用して私が嫌なやつだと印象づけられた。母親に言っても“B子ちゃんママは私の友達だから”とかわけのわからないことを言われて取り合ってもらえなかった。担任に言っても、私がB子をイジメているという噂を信じていて逆に怒られました」

 翔子さんは絶望して2度手首を切ったという。その傷痕を見せながら話す。

「もう死ぬかB子を殺すことしか考えられなくなっていた。救いは中学2年生から塾でのクラスが変わったこと。勉強ができたB子は特進クラス、私は落ちこぼれクラス。母にとっては屈辱だったみたいだけど、私はB子と離れられることがうれしかった。学力の差があったので高校も別だし、私のほうがバカなぶんにはB子も満足だったみたいだし、喜んで負けました。学力の差が開くにつれて母親同士も以前ほど親密じゃなくなり、土日に遊ぶこともなくなっていき、今では交流してないんじゃないかな」

 翔子さんは“同質”ではなくなったことで、いじめから逃れることができた。しかし逃れられずに自殺を選んでしまった被害者もいる。

 中学2年生の里美さん(享年14・仮名)は、3学期のテストの成績が上がったことから仲よしグループの女子生徒にカンニングを疑われ、そこからいじめが始まった。

「親は異変に気づいて教師に相談したんですが、教師は“仲よしグループに介入するとよけいに複雑になる”と言い何も指導しませんでした」(渋井さん)

 終業式の日、里美さんは橋から飛び降り自殺した。里美さんの机の中には女子生徒らにいじめられていたことを記すメモが残されていたという。

「仲よしグループこそ、トラブルが起きたときに教師からの事実確認が必要です。ケンカ両成敗は絶対にやってはいけません。所沢市の中2殺人事件だって、20回もつねったというのが事実なら本郷さんになぜなのかを聞かなければいけなかった」

 と渋井さん。

 同質いじめに気づいたらどうすればいいのか。

「被害者と加害者の思いを把握した上で当事者同士を離すこと。休ませてもいいから近づけさせないこと。ガス抜きは必ず必要です」(同)

 Aくんと本郷さんが通っていた中学では、'17年、'18年と2年連続で自殺があった。生徒指導が適切に行われていれば、と悔やまれる。