もうすぐ夏休みシーズン......ということで、今回は10、20代といった若年層に人気のネットサービスに関する話をしていきたいと思います。いま若い人達の間で大ブームになっているものといえば、台湾発祥の「タピオカドリンク」が挙げられますが、実はそれと同じような事象が、ネット上でも起きているのです。
一体どういうことかといいますと、アジア発のネットサービスが、日本の若い世代から高い支持を集めているのです。そのことを象徴しているサービスの1つが、以前にも触れたことのある、ショートムービーの共有サービス「TikTok」。TikTokは中国のバイトダンス社が提供しているサービスですが、2018年には日本でも若い世代に大ブレイクし、一躍人気のネットサービスとなったことは多くの人の記憶に新しいところではないでしょうか。
若年層に人気のゲームでは、やはり2018年頃から、中国ネットイースの「荒野行動」や韓国PUBGの「PUBG Mobile」など、バトルロイヤル系シューティングゲームを中心に、アジア系のゲームの人気が高まっています。他にも「アズールレーン」「IdentityV 第五人格」「謀りの姫」など、中国発のゲームが最近積極的なプロモーションを展開し、話題となっているようです。
▲中国NetEase Gamesが開発したホラーアクションゲーム「IdentityV 第五人格」。スマートフォン版に加え、日本ではDMM GAMESがPC版を運営している。2018年の東京ゲームショウでは積極的なアピールを行っていた
最近ではゲームと並ぶ人気コンテンツとなったマンガアプリの動向を見ると、「LINEマンガ」を筆頭に「comico」や「ピッコマ」などが人気を博していますが、これらは韓国のインターネット大手の日本法人が運営していたり、資本参加していたりするものだったりします。それゆえcomicoで人気となった、縦にスクロールして読み進める「ウェブトゥーン」など、韓国発の要素をサービスに取り入れるケースも多く、それが日本でも人気を博しているようです。
▲一定時間待つと1話分の漫画が読めるユニークさで注目された「ピッコマ」。メッセンジャーアプリ「カカオトーク」で知られる韓国のインターネット大手、カカオの日本法人が運営している
この他にも、ライブ系サービスでは、「17 Live」「LiveMe」などアジア系の会社が提供しているサービスが台頭してきていますし、最近ではSNOWの「SODA」などが人気となっているカメラアプリも、やはり中国や韓国系企業のものが多いようです。そうした世代でなければ実感しづらいかもしれませんが、こうした事例を見れば、いかにアジア発祥のサービスが若い世代から高い支持を集めているかが理解できるのではないでしょうか。
しかしその一方で、日本から若年層の人気を獲得するネットサービスを生み出そうという動きは、かつてと比べ小さくなっているように見えます。実際ここ最近、日本の企業が力を入れて大きな話題となっているネットサービスといえば、QRコード決済に代表されるスマートフォン決済などで、どちらかというと大人世代が利用する生活系サービスが中心です(無論、QRコード決済も中国の影響を多分に受けている訳ですが)。
▲日本のインターネット関連企業がいま力を入れているものといえば、QRコード決済など、大人世代も多く利用するであろう生活系サービスが目立つ印象だ
ではなぜ、日本のインターネット企業は若年層向けのサービスにあまり力を入れなくなってきているのでしょうか。モバイルを主体としたこれまでのネットサービス動向を振り返るに、若年層向けのサービスが"儲からない上に面倒"であることが、その主因になっているのではないかと筆者は強く感じています。
若年層、特に20代前半までとなると学生や新卒の社会人が中心ですから、そもそも可処分所得が少ないことから、使えるお金が限られるため"無料"であることに強くこだわる傾向にあります。それゆえ最近元運営者が拘束されたという「漫画村」や、最近問題となっている「MusicFM」など、違法であっても無料で利用できるサービスの利用は旺盛である一方、有料のサービスは敬遠する傾向にあるのです。
そして、可処分所得が低いが故に広告価値も低いことから、若年層をターゲットとしたメディアビジネスを展開するにしても、大きな広告主が付きにくいという弱みがあります。そうした課題をクリアして広告ビジネスを展開するには、ある意味YouTubeくらいの規模感が必要というくらい難しさがある訳です。
さらに、若年層は未成年も多く含むことから、インターネット経由での"いじめ"や"出会い"といったのトラブルに巻き込まれるケースは依然として多いですし、そうでなくてもスマートフォンの"使いすぎ"などでトラブルになることが少なくありません。特定のネットサービスで未成年に関する問題が多発すると大きな社会問題となり、強い批判を浴びて運営そのものを大きく揺るがしかねないことから、信頼獲得のため監視体制に力を入れたり、学校と協力してリテラシー教育をしたりするなど、サービス以外の部分に多くの手間とコストをかける必要があるのです。
▲若年層の利用も多いLINEは、全国の学校に情報モラル教育の出張授業を実施するなど、学生向けの情報教育に力を入れている
そこまで手間をかけても大して儲からないのであれば、よりお金を持っていて、面倒さもあまり伴わない大人世代向けのサービスに力を入れた方がよい、という考えるのは自然な流れともいえます。スマートフォンの利用は若年層が多くを占めていた時代ならともかく、今は幅広い世代にスマートフォンが普及しているだけに、日本ではなおさら若者より大人をターゲットにするという流れが加速しているのではないでしょうか。
では逆に、アジア系の企業が日本の若年層を狙ったサービスに力を入れているのはなぜかといえば、ひとえに日本市場の大きさにあるといえるでしょう。国内にいると米中と比べ市場規模が小さい、少子高齢化で経済が衰退している......など、日本市場の悪い点ばかりが目立つ印象がありますが、よくよく考えると国内総生産(GDP)が世界3位で、貧富の差が小さい上に教育水準も高く、ネット環境が良くて高額なiPhoneがとても売れている......など、これだけ魅力的な市場は、世界的に見て他にそうそうないものなのです。
そうしたことから、日本企業にとって魅力的に見えない日本の若年層も、海外の企業からしてみれば高い市場性を持つ存在であり、特にアジア系の企業にとっては近くて大きな市場であり参入しやすいことから、日本市場に注力する傾向が強まったといえます。若年層向けのサービスを足掛かりとして日本の大人世代を取り込むことができれば、より市場性が広がるだけに、なおさらといえるでしょう。
実際、TikTokは2019年7月4日に、シニアを対象にTikTokの使い方を学ぶセミナー「オトナ TikTok」を開催しています。この取り組みはCSR活動の一環として実施されたものだそうですが、まだ若年層が多数を占めているTikTokの利用者層を広げ、市場拡大につなげるための取り組みと見ることもできそうです。
▲TikTokは2019年7月4日に、シニア世代を対象としたTikTokのセミナー「オトナ TikTok」を開催、若年層以外の取り込みも進めようとしている。写真はByteDanceプレスリリースより
米中摩擦や日韓問題など、政治的対立が世間をにぎわす昨今ですが、日本市場が魅力的な環境である限り、日本の若者を狙ってアジアのサービスが進出するという動きは今後も加速する可能性が高いでしょう。ですがそれは、逆に日本から若年層向けのサービスを生み出す土壌を失わせることにもつながりかねないだけに、日本のインターネット企業にも頑張って欲しいところです。
一体どういうことかといいますと、アジア発のネットサービスが、日本の若い世代から高い支持を集めているのです。そのことを象徴しているサービスの1つが、以前にも触れたことのある、ショートムービーの共有サービス「TikTok」。TikTokは中国のバイトダンス社が提供しているサービスですが、2018年には日本でも若い世代に大ブレイクし、一躍人気のネットサービスとなったことは多くの人の記憶に新しいところではないでしょうか。
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若者に人気の「TikTok」は YouTubeに並ぶ存在になれるか
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■ゲーム、マンガ、ライブ配信......若者の支持を集めるアジア発サービス
若年層に人気のゲームでは、やはり2018年頃から、中国ネットイースの「荒野行動」や韓国PUBGの「PUBG Mobile」など、バトルロイヤル系シューティングゲームを中心に、アジア系のゲームの人気が高まっています。他にも「アズールレーン」「IdentityV 第五人格」「謀りの姫」など、中国発のゲームが最近積極的なプロモーションを展開し、話題となっているようです。
▲中国NetEase Gamesが開発したホラーアクションゲーム「IdentityV 第五人格」。スマートフォン版に加え、日本ではDMM GAMESがPC版を運営している。2018年の東京ゲームショウでは積極的なアピールを行っていた
最近ではゲームと並ぶ人気コンテンツとなったマンガアプリの動向を見ると、「LINEマンガ」を筆頭に「comico」や「ピッコマ」などが人気を博していますが、これらは韓国のインターネット大手の日本法人が運営していたり、資本参加していたりするものだったりします。それゆえcomicoで人気となった、縦にスクロールして読み進める「ウェブトゥーン」など、韓国発の要素をサービスに取り入れるケースも多く、それが日本でも人気を博しているようです。
▲一定時間待つと1話分の漫画が読めるユニークさで注目された「ピッコマ」。メッセンジャーアプリ「カカオトーク」で知られる韓国のインターネット大手、カカオの日本法人が運営している
この他にも、ライブ系サービスでは、「17 Live」「LiveMe」などアジア系の会社が提供しているサービスが台頭してきていますし、最近ではSNOWの「SODA」などが人気となっているカメラアプリも、やはり中国や韓国系企業のものが多いようです。そうした世代でなければ実感しづらいかもしれませんが、こうした事例を見れば、いかにアジア発祥のサービスが若い世代から高い支持を集めているかが理解できるのではないでしょうか。
しかしその一方で、日本から若年層の人気を獲得するネットサービスを生み出そうという動きは、かつてと比べ小さくなっているように見えます。実際ここ最近、日本の企業が力を入れて大きな話題となっているネットサービスといえば、QRコード決済に代表されるスマートフォン決済などで、どちらかというと大人世代が利用する生活系サービスが中心です(無論、QRコード決済も中国の影響を多分に受けている訳ですが)。
▲日本のインターネット関連企業がいま力を入れているものといえば、QRコード決済など、大人世代も多く利用するであろう生活系サービスが目立つ印象だ
■"儲からない上に面倒"な若者向けサービス
ではなぜ、日本のインターネット企業は若年層向けのサービスにあまり力を入れなくなってきているのでしょうか。モバイルを主体としたこれまでのネットサービス動向を振り返るに、若年層向けのサービスが"儲からない上に面倒"であることが、その主因になっているのではないかと筆者は強く感じています。
若年層、特に20代前半までとなると学生や新卒の社会人が中心ですから、そもそも可処分所得が少ないことから、使えるお金が限られるため"無料"であることに強くこだわる傾向にあります。それゆえ最近元運営者が拘束されたという「漫画村」や、最近問題となっている「MusicFM」など、違法であっても無料で利用できるサービスの利用は旺盛である一方、有料のサービスは敬遠する傾向にあるのです。
そして、可処分所得が低いが故に広告価値も低いことから、若年層をターゲットとしたメディアビジネスを展開するにしても、大きな広告主が付きにくいという弱みがあります。そうした課題をクリアして広告ビジネスを展開するには、ある意味YouTubeくらいの規模感が必要というくらい難しさがある訳です。
さらに、若年層は未成年も多く含むことから、インターネット経由での"いじめ"や"出会い"といったのトラブルに巻き込まれるケースは依然として多いですし、そうでなくてもスマートフォンの"使いすぎ"などでトラブルになることが少なくありません。特定のネットサービスで未成年に関する問題が多発すると大きな社会問題となり、強い批判を浴びて運営そのものを大きく揺るがしかねないことから、信頼獲得のため監視体制に力を入れたり、学校と協力してリテラシー教育をしたりするなど、サービス以外の部分に多くの手間とコストをかける必要があるのです。
▲若年層の利用も多いLINEは、全国の学校に情報モラル教育の出張授業を実施するなど、学生向けの情報教育に力を入れている
そこまで手間をかけても大して儲からないのであれば、よりお金を持っていて、面倒さもあまり伴わない大人世代向けのサービスに力を入れた方がよい、という考えるのは自然な流れともいえます。スマートフォンの利用は若年層が多くを占めていた時代ならともかく、今は幅広い世代にスマートフォンが普及しているだけに、日本ではなおさら若者より大人をターゲットにするという流れが加速しているのではないでしょうか。
では逆に、アジア系の企業が日本の若年層を狙ったサービスに力を入れているのはなぜかといえば、ひとえに日本市場の大きさにあるといえるでしょう。国内にいると米中と比べ市場規模が小さい、少子高齢化で経済が衰退している......など、日本市場の悪い点ばかりが目立つ印象がありますが、よくよく考えると国内総生産(GDP)が世界3位で、貧富の差が小さい上に教育水準も高く、ネット環境が良くて高額なiPhoneがとても売れている......など、これだけ魅力的な市場は、世界的に見て他にそうそうないものなのです。
そうしたことから、日本企業にとって魅力的に見えない日本の若年層も、海外の企業からしてみれば高い市場性を持つ存在であり、特にアジア系の企業にとっては近くて大きな市場であり参入しやすいことから、日本市場に注力する傾向が強まったといえます。若年層向けのサービスを足掛かりとして日本の大人世代を取り込むことができれば、より市場性が広がるだけに、なおさらといえるでしょう。
実際、TikTokは2019年7月4日に、シニアを対象にTikTokの使い方を学ぶセミナー「オトナ TikTok」を開催しています。この取り組みはCSR活動の一環として実施されたものだそうですが、まだ若年層が多数を占めているTikTokの利用者層を広げ、市場拡大につなげるための取り組みと見ることもできそうです。
▲TikTokは2019年7月4日に、シニア世代を対象としたTikTokのセミナー「オトナ TikTok」を開催、若年層以外の取り込みも進めようとしている。写真はByteDanceプレスリリースより
米中摩擦や日韓問題など、政治的対立が世間をにぎわす昨今ですが、日本市場が魅力的な環境である限り、日本の若者を狙ってアジアのサービスが進出するという動きは今後も加速する可能性が高いでしょう。ですがそれは、逆に日本から若年層向けのサービスを生み出す土壌を失わせることにもつながりかねないだけに、日本のインターネット企業にも頑張って欲しいところです。
外部リンクEngadget 日本版