格安スーパー「業務スーパー」が好調だ。店舗網はついに800店を超えた。圧倒的な安さと品ぞろえの豊富さが人気の理由だが、この2つをどう両立しているのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんは「海外からの直輸入品や自社工場のフル活用で、徹底的なコストダウンを実現している」と分析する――。

■成熟したスーパーマーケット市場で成長

先日、近くの「業務スーパー」で買い物をした。「ソバ」(1食・150g/税抜き19円)、「モヤシ」(1袋・200g/同19円)、「豆腐」(1丁・300g/同26円)、「トマトジュース」(1缶・185g/同39円)を購入したのだが、これだけ買っても消費税を加えてたったの111円だ。もちろん、これ以外の商品も安い。店内は多くの来店客でにぎわっていた。

業務スーパーで購入した品々(筆者撮影)

スーパーマーケット市場は成熟し、競争が激化している。イオンやイトーヨーカドーといった大手でさえ苦戦を強いられ、収益を上げることが難しくなっている。一方で、そういった環境下でも集客に成功し、大きく成長しているのが「業務スーパー」だ。

業務スーパーの1号店は、2000年3月に兵庫県三木市で誕生した。以降、出店を重ねて店舗網を拡大。近年は年間30店程度のペースで増えており、店舗数は826店(19年4月末時点)にまで増えている。屋号からすると飲食店など事業者向けに特化した店舗かと思いきや、「一般のお客様大歓迎」をうたい、個人客が顧客の9割を占めている。

運営会社の神戸物産の業績は好調に推移している。直近本決算の18年10月期連結決算は、売上高が前期比6.2%増の2671億円、本業の儲けを示す営業利益が7.6%増の157億円だった。売上高営業利益率は5.9%と、スーパーを営む企業の中ではかなり高い。売上高はこの9年で2倍となった。好調な業績を支えているのが業務スーパー事業で、売上高全体の9割を占める。

■NB、PBに輸入食品も豊富

業務スーパーの人気の秘密は圧倒的な価格の安さのほか、豊富な品ぞろえが挙げられる。メーカー品であるナショナルブランド(NB)商品に加えて、輸入食品とプライベートブランド(PB)商品が豊富で、バラエティーに富んでいる。他のスーパーが扱ってないようなものを多数そろえており、それが差別化につながっているのだ。

輸入食品はフランスやイタリア、アメリカなど世界約40カ国から輸入している。ブラジル産の「鶏もも正肉」やベルギー産の「フライドポテト」が人気だという。台湾から直輸入している「タピオカドリンク(ミルクティー)」も人気だ。ブームになっているタピオカを自宅で手軽に楽しめるとあって、品切れする店舗が続出した。こういった国際色豊かな食材が所狭しと陳列されている。

■直輸入と自社工場で低価格を実現

PB商品も豊富だ。国内の自社グループ工場で製造した加工食品や調味料、デザートなどさまざまな食品を取りそろえている。売れ筋は「徳用ウインナー」「上州高原どりもも肉」「吉備高原どりもも肉」「天然酵母食パン」だという。PB商品の割合は3割にも上る。

業務スーパーは「エブリデー・ロー・プライス(EDLP、毎日安売り)」をコンセプトとし、価格の安さを徹底しているが、この安さには理由がある。

輸入食品は海外の工場と直接取引し、大きなコンテナでまとめて直輸入している。直接取引なので、輸入商社や卸など中間業者にかかるコストを省くことができる。その輸入量は1年間で富士山約7個分に相当するそうで、スケールメリットを発揮してコストを削減することもできる。こうして低価格を実現しているのだ。

PB商品は、国内に21ある自社グループ工場で製造している。北海道には広大な自社農場を構え、ジャガイモやカボチャ、ニンジンなどを栽培。一部を商品の原材料として使用している。岡山県と群馬県には養鶏場を構え、併設の加工工場で鶏肉商品を製造。24時間以内に店舗に出荷して販売している。そのほか、製パンや食肉加工など多様な工場を抱えており、オリジナリティーあふれる商品を低コストで生産・販売することができている。

一方、NB商品は卸を通さずにメーカーから直接仕入れることで、こちらも中間業者にかかるコストを削減し、低価格を実現している。

■コスト削減策が販売促進につながっている

また、常温・冷凍食品など賞味期限の長い食品を多く扱うのも特徴だ。このため廃棄などで発生する損失や作業コストが少なくて済む。野菜や肉も冷凍商品を充実させることで、廃棄ロスにつながりやすい生鮮品に頼らない運営を可能にしている。

既存の商品ラインの有効活用も、圧倒的な低価格の源泉になっている。業務スーパーの商品で、ときおりSNS上で話題になるのが1リットルの紙パックに入った水ようかんやプリンといったスイーツだ。これは牛乳パックの応用であり、容器コストの削減につながっている。

豆腐パックに詰めて販売されている冷凍チーズケーキもある。これも見た目のユニークさから、ネットで話題になった。豆腐の製造ラインを活用して製造されており、設備の稼働率を上げることができるので、生産にかかるコストの低減につながっている。コスト削減の策がそのまま販売促進につながっている好例だ。

■セールを行うときは大々的に実施

コスト削減策はまだまだある。段ボールのまま商品を陳列したり、特別サイズの冷凍ケースや陳列棚を導入して、箱の中の商品を一度に全部出せるようにしたりすることで、手間を省き人件費の削減につなげている。また、EDLPにすることで、セールと紙のチラシを組み合わせた販促をせずに済む。広告宣伝費と人件費が抑えられるわけだ。

ただし、セールを行うときは大々的に行う。昨年9〜10月には最大約30%引きのセールを実施し、リトアニアから直輸入した「アイスチーズケーキバー」を1個48円(税抜き)という驚異的な安さで販売した。

6月のセールチラシ(業務スーパーHPより)

さらに、輸入食品を多く扱う業務スーパーならではのセールとして16年9〜10月には最大で30%引きとなる「円高還元セール」を実施。このように、ここぞというときは大規模なセールを実施し、安さをアピールしている。

■ユニークさで勝手に記事になる

この安さとユニークな品ぞろえから、業務スーパーはテレビや雑誌などのメディアでも人気だ。業務スーパーで売られている商品を使ったレシピや、お得な商品情報などは頻繁に取り上げられる。ネット上でも、「業務スーパーの◯◯がお得」といった記事は枚挙にいとまがない。メディアがタダで宣伝してくれることで、広告費を抑えることができる。

800を超える店舗数の多さも、低価格の源泉となっている。この規模を背景とした交渉力を生かし、仕入れコストの低減につなげているのだ。

業務スーパーがここまで店舗数を急拡大できたのは、日本のスーパー業界ではほとんど例のなかったフランチャイズ(FC)システムを取り入れたことが大きい。業務スーパーはFC店がほとんどで、直営店はわずか2店にすぎない。

業務スーパーは、1000店を目標として今後も出店を拡大していくとしている。現在の勢いを考えれば、達成は十分可能だろう。今後のさらなる成長に期待したい。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売り上げ拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)