日本の性教育は、遅れていると言われる。2018年3月には、東京都教育委員会が都内の中学校における性教育が不適切と断じ、物議を醸した。授業で「性交」や「避妊」といった言葉を使っていたからだ。

 しかし、しっかりとした性教育を受けないと、避妊の大切さを知らないまま性交渉をして、望まない妊娠をするリスクがある。性知識不足がもたらす悪影響は大きい。

 そんな中、性に対する正しい情報を多くの人に得てもらおうと、「性教育トイレットペーパー」の制作に取り組む人がいる。

 大学を休学をして、性教育トイレットペーパー事業を推進するのは、鶴田七瀬さん。フィンランドやデンマークなど5か国、50校以上で「性教育留学」をしたほどの熱意の持ち主だ。

 日本の性教育の問題点や、トイレットペーパーの開発にいたった経緯、目指す社会について話をうかがった。

◆知らない男性から「おっぱいが大きいね」と言われ恐怖

 鶴田さんが初めて性的な恐怖を味わったのは、中学生のとき。あぜ道を歩いていたところ、面識のない中年男性が「おっぱいが大きいね」と言って手を伸ばしてきた。触られこそしなかったものの、鶴田さんは必死で逃げた。恐怖でいっぱいだった。

 大学進学後は、親友が「共通の友人」である男性から継続的な性暴力を受けていることを知った。まったく知らない人だけでなく、身近な人が加害者になっていることに鶴田さんは強い衝撃を受けた。

「男性は友人が嫌がっていたにもかかわらず、セックスを求め続けました。友人がしぶしぶ応じたときにも、避妊に協力的ではなかったんです。友人は妊娠しませんでしたが、いつも不安な気持ちで過ごしていました。

 おそらく、彼には『避妊をしない=悪いこと』との考えがない。しっかりとした性知識がないから、無意識に性暴力をしてしまうんです」

 政治家の中には、「性教育がセックスへの意欲を刺激し、望まない妊娠を増やすのでは」と、批判的な見方をする人もいる。

 2003年に東京都で起こった「七生養護学校事件」は、「性教育バッシング」の象徴的な事件として物議を醸した。

 同校では障がいを持つ生徒に向けて、性器をかたどった人形を用いて実践的な性教育を行なっていた。しかし都議数名が、その教育方法を批判。当時の校長や教員に厳重注意処分をし、賛否が巻き起こった。この事件は、日本の性教育を消極化するきっかけとなった。

◆性は理科や数学と同じ。普通に学ぶもの

 性教育留学を通じて、鶴田さんが特に感じたのが「自分の気持ちを伝えることの大切さ」だった。

「たとえば、北欧では小学校に入ると、人権教育やコミュニケーション教育を受けます。自分がいまどんな気持ちで、どんなことを相手にしてほしいのかをとても重視しているからです。また、相手が誰であれ不用意に体に触るのは、他人の気持ちを侵害する行為であることも教えていました」

 避妊の場合、セックス時にパートナーへ対して自分の気持ちを伝えることができれば、解決しやすい。相手に察してほしいとの気持ちや、ムードを壊したり嫌われたりすることを恐れて自分の気持ちを押し殺してしまう。もし妊娠や中絶となれば、そのときに本心を伝えられなかった代償は、あまりにも大きい。

 性をタブー視し、具体的な避妊方法や生理などについてしっかりと教えないと、子どもたちは正しい性知識を得る機会を持たないまま大人になる。ネットで簡単にアクセスできるアダルト動画は性欲を駆り立てる内容なことが多く、歪んだ知識を持つことにつながりかねない。

「誤った知識を最初に得てしまうと、塗り替えるのが大変です。そもそも、現状ではしっかりとした性教育を受ける機会が少ないので、正しい性知識を得られないままになってしまい問題です。性は特別なことではありません。理科や数学と同じように学ぶべきことだと私は思います」