「今からUターンして、家族のもとに帰ります」

 ファイナルマッチを終えた長州は、今まで私たちに見せたことがないスッキリした笑顔で冗舌に話した。驚いたのは「私にとってプロレスは何だったのかなと振り返りますと、全てが勝っても負けても私自身はイーブンです。ホントにイーブンでした。ただ、今からひとつだけお願いがあります。どうしても勝てない人間がいました」と、奥様の英子さんをリングに上げたこと。新日本の現場監督時代、女子とのミクスドマッチをやらせなかった長州力の面影はなく、長州が本当にリングには帰ってこない覚悟を持っている証を見せた場面だった。

 「やっぱり90年代ってすごかったんだね」

 これは会場を後にするファンから聞かれた声。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンのグッズを全身にまとっていた。おそらく現在の新日本ファンで、真壁や石井を観戦しに来たのだろう。会場にいた人間なら誰もが今のプロレス会場とは違う“熱”を感じたはずだ。

 今後は藤波や武藤たちが長州の穴を埋めていくことになる…と言いたいところだが、この日もプロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者、清宮海斗がプロレス界の未来を、真壁と石井が現在進行形のプロレスを見せて、会場に“熱”を生んだのも事実。ここはレジェンドと現在、そして未来のスターが一体となって、日本のプロレス界を盛り上げてもらいたい。それが今大会で長州が残したかったものだったのではないかと思うのだ。

取材・文 / どら増田
写真 / 萩原孝弘